第3話 アープの日記
私はアープ・ユオ・シー。今日から日記をつけることにした。日記って言っても、私は毎日書き込んでいくつもりはない。
だって、適当に書いてたらすぐにいっぱいになっちゃうから。紙は高価だし、そんなことは、とてもじゃないけど勿体なくてできない。だから、気が向いたときにだけ書いていくって決めたんだ。
兄様たちも、それで良いって言ってくれたから、私の日記は、日記じゃないけど、日記ってことにしちゃう。なんだか、
私は、普段はアチシって言う。これは、私がまだ小さかった頃わたしって上手く言えなくて、アチシって言ってたら、デネブ兄様が笑ってくれたから、それが嬉しくて、なんとなく続けているうちに癖になっちゃったもの。
今でもときどき笑ってくれるけど、苦笑いなんだ。あんまり嬉しくないから直そうと努力してるんだけど、直らない。それで叱られることもあるから、困ったなって思う。でも、私がこうなった原因はデネブ兄様だから、叱る方がおかしいと思う。
こんなことを書いてるって知られたら、また叱られちゃうから、ちゃんとしたことを書かなきゃって考えてるんだけど、何を書いて良いのか分からない。それで兄様たちに相談してみた。そしたら、デネブ兄様は、英雄様のことを書きなさいって言った。ローガ兄様は、そんなもん、好きなことを書いたら良いじゃねぇかって言った。
私は、兄様たちの言ってることを合わせて、大好きな旦那様のことを書くことにした。本当に、兄様たちは頼りになるなって思う。
私の旦那様は、デネブ兄様の言う英雄様。そして、ローガ兄様の言う好きなこと。好きな人のことを考えるのって、好きなことでいいのかって聞いたら、それでいいって兄様たちが言ってくれたから間違ってない。私は、旦那様のことが大好きなのだ。
旦那様と出会ったのは、ほんの少し前。私がまだユオ族の族長をやってたときに、風の属性を帯びたいって、お連れ様と一緒にやってきた。誰かが拾ったり盗んだりして読んじゃうかもしれないから、詳しくは書けないけど、旦那様は特別。英雄様って予言が残されていただけのことはある。
私のいたユオ族は、このアルネスの街からずーっと東に行ったところにあるカナン大平原ってところで遊牧生活をしてる。みんな狼人で、青い毛並を神聖視してて、すごく窮屈で退屈。私は、誰よりも青い毛並みで生まれてきたから、族長になった。
読み返してみたけど、ちょっとよく分かんないから、順番に書いてみる。
私は、集落の誰より青い毛並みを持って生まれてきたから、赤ん坊の頃に、ひとつ前の族長をやってたセイオって奴に殺されそうになった。
そのときに、ローガ兄様が助けてくれたんだけど、その
残ったのは、ジジ様とババ様とデネブ兄様だけで、私が六歳になる頃には、二人とも死んでしまったらしい。
私は、別のところに閉じ込められて暮らしていたから、実は家族のことをよく知らない。知っているのは、デネブ兄様のことだけだ。
デネブ兄様は、私が小さい頃からずっと一緒にいてくれた。十三歳くらいから、おっぱいとお尻が大きくなってきて、セイオとか、その取り巻きが、いやらしいことをしようとして、ニヤニヤ気持ち悪い顔で近寄ってきた時なんかも、さっと現れて、剣を抜いて追い払ってくれた。
口うるさいけど、デネブ兄様がいなかったら、私はここにも書けないようなことをされて、もっともっと生きるのが辛くなっていたと思う。
だから、デネブ兄様には、本当に感謝してる。そして、生まれてすぐ殺されてしまうはずだった私を助けてくれたローガ兄様にも、本当に感謝してる。
だけど、それ以上に、旦那様には感謝してる。ユオ族には、クリス王国の初代様の予言が口伝で残っていて、その予言は、貴人、賢人、武人をお供に引き連れた、英雄、ユーゴ・カガミがカナンを襲う血の憎悪を打ち払うっていう内容なんだけど、それが、ローガ兄様を殺すことを暗示してた。
私は、それに気づいてたから、旦那様が来た時、どうしようって思った。私の命の恩人のローガ兄様を殺さないでって、色仕掛けをしてでも止めてやろうって思った。
でも、旦那様は、私がパンツを見せてもすっと目を逸らして知らん顔しちゃう。セイオたちみたいな、いやらしい目つきもしないし、お連れ様も皆そんな感じで、自慢のおっぱいとお尻には目もくれなかった。
おまけに、お酒も飲まないから、酔っ払ってくれなかった。酔った勢いってやつで、子種をもらって既成事実を作る作戦も使えなかった。一生懸命、考えたのに、まったく意味がなかった。
それで、ああもう駄目だって思ってたんだけど、旦那様は、私たち兄妹全員を救う方法を考えてくれた。それが、私との結婚だった。
聞いた瞬間、凄くドキドキした。もう、私は、旦那様のことが大好きになってしまった。なのに、旦那様は、結婚は
それに、結婚式も、私にドレスだけ着せて、挙げない。しかも、見もしない。今は、ウェズリーっていう遠い街にいる。結婚したのに、もう別居。困った旦那様だ。
悔しいから、絶対に本当のお嫁さんになってやろうって思ってる。私はまだ十六歳だから、あと何年かしたら、もっともっと魅力的な女性になれると思うんだ。
そのときになったら、旦那様の方から、本気のプロポーズをさせてやろうって思ってる。
日記をプレゼントしてくれた兄様たちの話も書きたかったけど、もうページが文字でいっぱいになってきちゃったから、今度書くことにする。
それも、大変だったんだ。私は忘れっぽいけど、これを見たら思い出せるだろう。日記って便利。
それじゃあ、またね、今日の私。今度はいつの私が書くんだろう。今からそれが楽しみだ。
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