第1話

「ここが酒場か。」

僕は長年住み慣れた城を出て酒場へやってきた。

唾を飲み扉に手を掛ける。


カランコロン

「いらっしゃい」

店員の元気な声がする。

白黒化した中美味しそうな匂いだけが充満する店内で冒険者らしき格好の者達や筋骨隆々な民が酒盛りをしている。

僕はカウンターへ腰を掛ける

「あの、聞きたい事があって来たんですが…。」

「聞きたいこと?何が知りたいんだい?」

「最近一際強そうな魔物が現れたと思うんですが何か知りませんか?」

「あ~!最近冒険者連中が騒いでるやつか、それならあそこにいる奴らに聞くといいよ。」

マスターが指差す方を見ると3人組の冒険者達が和気藹々と酒を飲み交わしている。

再びマスターの方を向く

「ありがとうございます。」

お礼を述べ冒険者達の元へ近づく


「すいません、ちょっとお聞きしたいんですが…。」

「ん?何だい少年。」

声をかけるとリーダーっぽい冒険者が振り返ってくれた

「今までの魔物より一際強そうなのが出たはずなんですが何か知りませんか?」

「あー、あいつのことか。」

「何かご存じなんですね!?ぜひ教えてください!!」

何か知ってるような口ぶりに思わず詰め寄る

「うわっ!落ち着けって!」

「ププッ、面白い子ね。可愛い~!」

僕に向けられた笑い声に顔が熱くなるのを感じる

「そんなからかってやるな。」

もう一人の魔法使いらしき人が彼女をなだめてくれる

「すみません、情報が得られると思ったら嬉しくてつい。」

「構わねえよ、奴についてだったよな?」

「はい、教えてもらえますか?」

「ああ、奴は西門を出た先の森に出たらしい。」

「ありがとうございます。」

「あ、待てよ。行くなら十分に気をつけろよ?」

踵を返し立ち去ろうとする僕に助言を投げかけてくる。振り返りお辞儀をし立ち去る。

「あの森か…。」

酒場を出た僕は王都の西の方へと歩みを進める。



僕は森の入り口で深呼吸をし踏み入れる。

「なんか静かだな。」

静寂が森を包み込んでるようで少し身構える。

「…て。」

一歩一歩慎重に進む僕の耳に微かに届く声。

「ん?なんか声がしたような…。」

耳を澄ます。

「助けて~!」

女の子の悲鳴が聞こえる。

悲鳴を頼りに駆け出す。

近付くにつれ視界が開ける。

開けた先には魔物に囲まれておびえている少女がいた。

僕は居ても立っても居られず身体が動く。

ジャキンッ!

抜いた剣先が飛び掛かってきた魔物の角を受け止める。

「うぐっ…。」

剣先に魔物が重さをかけてくる

僕も力を込めるが押し切られそうだ。

少し角度を変え剣先を流す

勢い余って後方へ飛ぶ魔物

「大丈夫か?」

素早く振り返り少女を後ろに匿いつつ問う

「えっと、大丈夫です。」

「そうか、君は動かないでね。」

そう彼女に告げ魔物たちの間合いへと踏み込む

皆一斉にかかってくる

右足を軸に回転斬りをする

一斉に切り裂け魔物たちは皆息絶える



「はぁ~、やったか?」

息を吐き呟く

「もう大丈夫だよ、怪我はないかい?」

少女に優しく問う

「ありがとうございます、イテテッ。」

足を庇いながら立ち上がる少女

「怪我してるじゃないか?!」

少女へ駆け寄る

「だ、大丈夫です。」

引き吊り笑いをする彼女。

「大丈夫じゃない!座って!」

思わず声を張り上げてしまう

少女の手当てをする。

「よしっ、これでもう大丈夫。」

「ありがとう。」

あどけなく笑う少女につられ僕も笑顔になる。

「じゃあ、僕はもう行くね、気を付けるんだよ?」

そう優しく言い立ち上がる。

そして僕は少女へ笑顔で手を振り彼女と別れる。

森の奥へと一歩一歩進んでいく。


「なんか生き物達が居なくなってきたな…。」

奥へ行くにつれて一層深い静寂が森を包む

嫌な静けさを警戒しながら慎重に歩みを進める

「グワォ~!」

突如静寂を破る咆哮がこだまする。

「なんだ?何か来る?!」

剣を抜き構える

ザザザッ、ザザザッ!

「グワァ~!!」

葉のこすれる音と共に現れたのは巨大な獣…じゃなくて魔物だ。

ザシュッ!

驚きのあまり呆然としてる僕の身体を鋭い爪が切り裂く

「っぐ!」

痛手を負い膝をついてしまう

奴は一瞬の隙も見逃さず再び爪を振り下ろしてくる。

「ダメだっ!殺られるっ!!」

そう覚悟を決め目をつぶる


ッシュ!

グサッ

後方から矢が飛んできて奴の身体に深く突き刺さる

「大丈夫?」

声のする方へ振り向くとエルフの女性がいた。

「え?あー、大丈夫です。」

お礼を言いながら立ち上がる

「よかった。でもまだ気抜かないで。」

そう言われ奴の方を振り返ると再び襲いかかろうとしてる

慌てて剣を構える

「ッハァー!」

ッタ!

雄たけびを上げながら切りかかる

「グワァ~ッ!」

奴の振り下ろした爪を避ける

ザシュッ!

切り付けた剣先が深く刺さりながら奴の皮膚を切り裂く

「ッグオ~!!」

ドサッ

悲痛な叫びを上げ倒れこむ

「ハァハァ、殺ったか?」

息を整えながら僕の後方へと倒れこんだ奴の方を振り向く

シュワッ!

青い光となって弾け飛ぶ

コロンッ

奴が光となって消えたそこにはモノクロの世界の中光輝く青い結晶が現れた

「あら?きれいな青ね。」

肩口から覗く彼女。

ビクッ

「うわ!ビックリした…でもほんとだ。」

彼女の言う通り僕の目にも綺麗な青が映る

どうやら奴が色を司ってたようだ。

奴を倒したことで王国に色が戻ったようだ。


「驚かしてごめんなさい、でもそれ色以外に魔力もこもってるようね。」

「魔力わかるんですか?」

「ええ、一応持ってた方がいいわよ。」

「そうですね。」

彼女の助言に従い結晶をカバンに仕舞い込む。

「これでよしっと!」

立ち上がり土埃を払う

すると

「お姉ちゃ~ん!」

茂みから彼女を呼ぶ声がする

ガサガサッ

葉の擦れる音と共に先ほど出会った狐耳の少女が姿を現した

「あらナギ、追いかけてきたの?」

ナギと呼ばれた少女は頷いた。

「お兄ちゃん、さっきはありがとう。」

ペコっとお辞儀をする少女

「ああ、足はもう大丈夫?」

「うん!」

お姉さんの方を振り返り

「僕もさっきはありがとうございました。」

お辞儀をする

「あら、いいのよ。ナギを助けてくれたお礼に追いかけてたから。」

ナギと呼ばれた子の頭を撫でながら言う

「そうなんですね。本当にありがとうございました。」

クイクイッ

僕の服を引っ張るナギ

「ん?どうしたの?」

「ねぇねぇお兄ちゃんはなんで森に来たの?」

小首を傾げるナギ

「私たちは旅をしててこの子が迷子になっちゃったの。」

隣で照れるナギ

「僕は魔物を倒しに来たんです、色を取り戻したくて…妹の為に。」

僕は意を決したように彼女たちに答える

「そうなのね、良かったら私たちも同行させてもらってもいいかしら?」

「え、いいんですか?あなた達が居ると心強いです、よろしくお願いします。」

「私はルクスよ、よろしくね。」

「あ、僕はアレクです。」

「お兄ちゃん一緒?」

「そうだよ、ナギちゃんよろしくね。」

「うん!よろしく。」

満面の笑みで頷くナギ。


みんなで笑い合いながら森を進む

「ねぇ次はどこ行くの?」

「そうだな、アクシアへ行こうかな。」

「あたしアクシア初めて~!」

ピョンピョン跳ね喜ぶナギ

「じゃあ、アクシアへ行こう!!」


一行はアクシアへと向かい森を後にする

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