gun in the dead

「あ~何やってんだ俺」

と俺は溜息混じり言った。そしてその後こう続ける。

「あのままじゃ済まされない。今直ぐにでも斎藤を仕留めないと......」

と、その時突然ドアを叩く音が聞こえた。ノックの音から察するに多分女だろう。俺の返事などまるで意にも介していない様子でドンドンドンと叩くので、仕方なくドアを開けてやった。

其処にはやはりと言うべきか例の女が立っていた。女は言う。

「......あんた誰?」

「......」

(お前が誰か訊いたんだろうがよ) とは思ったもののそんなことは口に出さずに、代わりにこう言った。

「......俺が誰かなんてどうでもいいだろ? それよりもさっさと要件を済ませろよ」 (ふん......)と心の中で呟いて俺は部屋の奥に行った。

すると今度は女の方から訊ねてきた。

「......それで態々私の部屋にまで来て何をしていたのかしらね?」

「......」

(お前こそ何でわざわざここに来たんだよ?) と言いたかったのだがそれも言わなかった。言ったら負けだと思ったからだ。

黙っていると、女は更に畳み掛けてくる。

「......まあいいわ。どうせそんな下らないことをしに来たんじゃないでしょうし。だったら単刀直入に聞くけど、一体何しに来たのよ?」

そう言われて俺は漸く女の目を見た。 女の目は怪しく光っていて、いかにも俺を疑っているかのようだ。

どうやらこの女は只者ではないらしいなと思った。

まあこんな奴だから、普通ならこんな怪しい奴に自分の家にまで来られたら警戒しない筈が無いのだろうが、生憎今の俺にとってはどうだっていいことだった。

なのでここは一つ、この女に探りを入れてみることにした。

(この様子だとこいつは一体どこの家の人間で、何のためにここにやって来たのかを知っている筈だからな) そう思って俺は敢えて知らない振りをして聞いてみた。 「......ああそうだ忘れていたぜ。俺はなお前のところのご主人様に会いに来たんだぜ」

そう言ってやると、途端、こいつの顔が急に険しくなった。

だがそれでも構わず、更に訊いてみることにする。

「因みにお前の家は何ていう家だ? ついでに言えばお前のご主人様の名前も教えてくれ」

(これでもう分かる筈だ。仮にこいつの家が分かるような質問をしても『知らない』と言って誤魔化せばいいだけだしな)

そうして暫く待っていると、遂に口を開いた。

「......そうね。私は西園寺美玲って言うんだけど。貴方は?」

「......そうかい」

(なるほど......やっぱりあいつの家の人だったか......) と内心呟きながら、俺は再び質問をした。

「それじゃあ最後に一つだけ聞かせてもらうぞ。お前は何の為に俺についてきたんだ?」

(さあどうだ?)

そう思いながら答えを待っていると、いきなりこう言ってきた。

「......私があんたを連れていく為よ」

「......はっ?」

突然のことに思わず呆けてしまったがすぐに気を取り直して再度聞き直す。

「お前が俺を連れて行く為にここへ連れて来たと言ったのか?」

「......ええそうよ。それ以外に何かあるかしら? 私はあんたをここから連れ出す為に此処へ連れてきただけなのよ!」

そう言って睨みつけるようにしながら、俺に顔を近づけてくるそいつの顔は正直言ってかなり怖かったので少し距離を取るようにしてから言った。

「大体俺はもうここを出ることは決めているんだぞ!?

今更俺が行ったところで手遅れなんだよ!

そんなことくらい分からないわけじゃねえだろ!?」

「いいえ分かってないわね。これはあんたの為でもあるのだから諦めて頂戴」

(俺の為......? どういうことだ?)

「それに、その言い方じゃ行く宛も無いみたいに聞こえるけど、実はちゃんと用意してあるわよ」

「......どこだよそれ......」

そう言われて嫌な予感はしたものの一応聞いてみる。

するとその予感はすぐに的中することになるのだった。

「それはね──“渋谷”よ」

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