第24話 奇襲

 交代で起きていたために寝不足の頭を揺るがす轟音が響いた。

 頭痛がしそうな騒音に、仕方なく目を開けて起き上がると、隣りで高いびきのマックスを起こした。よくこんな音の中で寝ていられる。

 同僚の肩をさんざん揺るがして起こして覚醒を促し、刀麻は立ち上がった。隣の部屋の、怪我人と病人を見に行かなくてはならない。寝泊りしている物資部屋から顔出すなり、銃弾が顔をかすめ、ドレッドがくずれた髪の一房を焦がした。壁に弾痕が穿たれる。

 反射的に身を屈めて、外を見る。

 どうやら、目覚めたつもりでもさっきまでは目覚めていなかったのだろう。これほどの喧騒に気付かなかったのだから。

 そう思うと流れ弾に当たりそうになった我が身のを思って漏らしてしまいそうなショックをうけるが、かろうじてそれには耐えた。大人だし、男だし。

「なんだ、騒がしいな、また何かあったのか・・・?」

 欠伸をしながら立ち上がり目を擦り擦り刀麻の横にしゃがんだマックスは、次の瞬間にもう目が覚める。

 椰子の木が植えられた中庭に、作業服姿の兵士が倒れている。一人ではない、あちこちに点々と様々な格好で倒れていた。手には大剣や小銃のような武器を手にしていたが、恐らくは誰もがこと切れていた。応戦しているのか、そんな中を銃弾が飛び交い、まだ息のある者を助け起こす者や、敵がやってきたと思われる方向へ自動小銃を撃つ者もいる。

 刀麻は身を低くしながらも、応戦している相手の方を目を凝らして見つめた。歩兵と思われる一個大隊くらいの規模だろうか、正確な数は推測するしかないが、結構な人数が攻め入ってきているようだった。上空からも軍用ヘリの音が聞こえる。空爆をしないでいてくれるのがせめてもの幸運か。

「あのマーク、多分国連軍だぞ。・・・うっそだろ、どうやってここがわかったんだ。こんなド田舎のオアシス・・・。」

 マックスがヘリのマークを見て唸るように言った。あの高さのヘリのマークが識別できるのだから、彼の目はかなりいい。近視の刀麻とはえらい違いだ。

「俺ら、とうとうお陀仏か?」

 刀麻が諦めたように溜め息をついた。

 国連軍が紛争を続ける部族を制圧するために動き出したと言う事は、自分達も無事ではすまない。下手をすれば仲間と見なされて一緒に殺されてしまう。

「でも、戦車は来ていても大砲を撃ってきていない。空もヘリが10台近く来ているが、戦闘機の姿は無い。ラッキーだと考えるなら、俺達を助けに来てくれたのかも。」

「阿呆か。救出が目的ならまず特殊部隊が潜入してくるだろ。ちげーよ、ここの部族が攻められてんだよ。」

 ああ、そうかぁ、などと言って頭を抱えたマックスのい言う事にも一理ある。

 完全殲滅が目的ならば、陸上部隊などを展開させずに衛星から狙い撃ちをすれば済むことだ。国連軍ならばそのくらい朝飯前のはずである。ただ、そうでなくても少ない砂漠のオアシスを最小の被害で手に入れたいと考えるならばまた話は別だ。よほど厳密に場所を特定できるような条件が無い限り、衛星砲撃では貴重なオアシスのどこを制圧するのか限定できるものではない。大都市圏じゃあるまいし、一ミリたりとも違えずに撃てる精密な位置情報を手に入れるのは、こんな砂漠ではかなり困難なことだった。

「・・・そうなんだよ、結局はそうなんだ。正確な位置情報が手に入らないから、攻めあぐねて紛争が長引いている。地上部隊にせよ空爆にせよ衛星攻撃にしろ、結局はそれがわからないから・・・。」

 刀麻達だって自分達の居場所がわからないのだ。それがわかっていれば、どうにか逃げ出そうと考えたと思う。

 なのに、陸上部隊が攻めてきたと言う事は、この場所を国連軍が手に入れたという事だ。彼らが特定できずにいたその拠点となるオアシスの位置を手に入れたからこそ、こうして部隊を派遣し展開している。

 ・・・何故だ。どうやって?この砂漠の民でしかわからないような場所を、国連軍が知ることが出来たんだ?

「マックス、ここにいろよ?俺が戻るまでじっとしてろ。」

「あ、ああわかった。どこへ行くんだ?」

「患者のトコ。」

「気をつけろよ。・・・まだそんなに近くないけど、かなり発砲してきてるぞ。」

 そんなことは言われなくてもわかる。ついさっき流れ弾でちびりそうになったくらいだ。だが、患者は同じ棟のすぐ隣りの部屋だ。いけない距離ではないし、確かめたかった。

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