第13話 患者

 鞄を解錠するために暗証番号を手早く入力して、中から黒縁の眼鏡を取り出す。大きく安堵の溜め息をついた。

「よかったな。これで百人力だ。」

「大袈裟な。半人前がやっと一人前になった程度だよ。だが、本当によかった。こいつなしで手術やれって言われたらどうしようかと思ったぜ。」

 衛兵が次の部屋を促している。刀麻は心強い味方を手に入れて勇気百倍だ。

 彼についていくと、開かれたドアの向こうで昏睡状態に陥っている男が二人見えた。ベッドの上に寝かされている。

 マックスと刀麻は一目でわかった。

「感染症だ。・・・俺達はワクチンを受けているからいいが、他の人間はまずい。そいつにすぐに部屋から出て行くように言って、ここを隔離させるんだ。」

「そうだな。俺はさっきの部屋から使えそうなもの見繕ってくるよ。刀麻は二人の診察を頼む。」

 患者の枕元へ走った刀麻を尻目に、マックスは衛兵に指示を出した。

『あんた、すぐにここから出て、身体を洗えよ。口もすすぐんだぞ。この二人の患者の近くにいた者全てに同じコトを通達しろ。絶対にここに誰も近寄らせるな。うつるぞ。』

『首長も、ずっとついておられました。』

『じゃあ、あのむかつくオッサンにもそう伝えておけ。いいか、近寄るなよ?』

『はい。わかりました。』

 感染症と聞いて事の重大さがわかったのか、衛兵は蒼白になって逃げるようにその場を去って行った。



『申し訳、申し訳ありませ・・・!お許し、下さい・・・!』

 同じ屋敷内のタァヘレフの私室へ首長が現れたのはついさっきだ。共の者もつれずに現れた彼は、彼女の顔を見るなり再び彼女の顔を打った。

『貴様、わしの妻でありながらよその男と・・・!』

 青いターバンをはずし、その精悍な顔を見せた中年の男はぎらつく目で彼女を睨む。

『お許し下さい。二度と、二度といたしませんから・・・!』

 形のいい唇の端から血がにじんでいる。床の上に倒れこんで再び平伏している彼女の腕を掴みあげた首長は、彼女が身にまとっていた淡いグレーのアバヤを引き裂いた。小さく悲鳴を上げたタァヘレフは、露わになった肌を再び平手で殴られる。彼女はただ、それに耐えるしかなかった。

『この売女め。わしがいなければお前などこの砂漠で生きてゆけぬ。さればお前の娘だって末が知れておろうが。愚か者めが!』

『お許し下さい、お許し下さい・・・!』

『少しばかり外国語が堪能だからと目をかけてやったのに、とんだことだ。』

 飾り気のない女だが姿かたちは首長の妻の中で一番美しい。そして、12人の妻の中でもっとも若い。

 服をはがされ簡易なサンダルのみを履いて、床にうつ伏せに倒れ込んだ姿は彼の残虐な心を誘い、欲情させる。絨毯に広がった長い髪が艶めかしい。

 首長は彼女の部屋の棚から小さなガラスの瓶を取り出し、封を切った。かぱっという軽い音がすると、中身を彼女の白い下半身へぶちまける。

『お、おやめください、首長・・・。』

 黄金色の液体は甘い芳香を放ち、タァヘレフの豊満な身体へ広がっていく。空になった瓶を棚へ戻すと、彼女の上に馬乗りになりその液体を体中になすり付けた。

『ひぃっ・・・!いや、いやでございます・・・止めて下さい、首長・・・!』

『何を言う。お前のためにこうしてくれるのだぞ。媚薬がなければ辛かろう。さあ、大人しく言うことを聞け。』

 男の手がタァへレフの肌を乱暴に暴く。彼女は嬌声なのか悲鳴なのか区別が付かない声を放った。その声がやまないうちに、男の手は無遠慮に体中を弄った。媚薬の効果なのか、いつのまにか彼女の悲鳴は止まりその身体もぐったりと動かなくなる。

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