第12話 マリスプルーフ防衛戦

「一番から四番隊は変わらず撃ち続けなさい!上陸を許すなっ!」


 ウェリングの妻、アンヴァは押し寄せる魔物を前に自らが指揮を取るべく前線へと出ていた。


「五番隊。住民の避難はどうなっていますか」


「はっ!アグリカ地区、ハウ地区の避難は完了したとの報告が。商業地区は外部の商人が騒ぎを起こしており、避難は難航しているようです」


 五番隊は更なる有事への備え兼連絡役を担っている。


「ありがとうございます。......そうですわね」


 どこも手一杯ね。


 防衛戦は始まったばかりだけど、恐魔大陸から押し寄せる魔獣や魔物の数が衰えているとは思えない。

 魔道具を使用し、自警騎士団魔道部における魔力の損耗に気を使ってはいるけど、いつまでも持たない。

 それに、魔道具の大半は魔王討伐隊に寄贈している。現在残っているのは最低限の備えのみ。

 事前の取り決め通り、補填で待ち。買い直した物品の到着待ちである。


 この数が相手だと精々2日持てば良い方か。


「騎士部が来てくれるのが1番ですが。冒険者の一部が此方へ到着するでしょう。ひとまずはそれまでの辛抱です」


 ここ港町マリスプルーフにおける襲撃は日常茶飯事とは言わなくても、1つの季節に何度も起こる程度には慣れた物になっている。


 故にある程度規模がわかれば敵の首魁に対し予想が立てられる。


「......沈めた数は400を超え、撃ち落とした数は150を超えた。ここ十数年は安定していましたけど、これ程の規模となると初めて、いえ。この間の事があったかしら。ここまでの規模ですもの。首魁の討伐は自警騎士団では厳しいかしら。冒険者の皆さんも併せれば......」




 それでも勝機はあると考え、自身も扱い慣れた魔術で海を超える魔獣達を撃沈さていく。




 ー アスラン 視点 ー




「集まって貰ったのは他でも無い。我らがマリスプルーフが重大な危機に直面しているからだ」


 冒険者協会からの緊急招集。

 これだけの騒ぎだ。気付けねぇ奴なんざ居ないってもんだ。


 俺達冒険者を集め、協会内で語りかけてるのはここの支部長。


「このままで......」

「それより報酬だろぉ?なぁお前等っ!」

「ヒュゥーー!」

「当たり前だなぁ!!」

「いくら出るんだぁっ!!」


 ここにいる冒険者の大半は、先の討伐隊に首都で参加を表明した溢れる馬鹿共。


 まぁ、俺も金に釣られた馬鹿の1人なわけだが。


「ねぇねぇ、アスラン?私達はどうする?」

「......」

「なんだケッディ。愛国心にでも目覚めたってか?」

「違うわよ」


 間髪入れず真顔で否定した奴はケッディ。俺の、ん、まぁ、幼馴染。年はケッディのが一つ上だが。


 不言色(いわぬいろ)の短髪で腰には短剣がぶら下がっている。


「私はこの間ので懲り懲りこりごりよ。そうじゃなくて、この子。クチックの事」

「......(俯く)」

「わかってるって。どうする?お前の故郷なのは知ってるが、知ってるのはそこまでだ」

「......」

「ここに来たのも、クチックの帰省のためだもんね」

「だな。ここまで同じパーティでやって来たんだ。クチックの意見を聞いておきたい」

「......ぁの」


「うぉっー!!!!」

「さっすが領主!!」


 ......まったく。騒がしいな。


 奴等の反応を見るにどうやら報酬はそれなりに出るらしい。

 いや、それよりクチックの意見なんだが。


「......ぅ。......の、。残る」

「よく言った」

「頑張っちゃうよ!」


 俺がクチックの頭を撫で、ケッディがクチックの後ろに周り抱きついた。


 さ、今回も頑張りますか。




⚪︎⚪︎⚪︎




「......ぃきます」


 クチックが身体と同じ大きさの杖の先を商業地区の地面に付ける。


「おぉ!」

「水魔術かっ!?」


 この世界に例外を除き治癒や回復といえる魔術は存在しない。存在しないはずだった。

 唯一出来るのは聖女の魔術のみ。そんな常識を崩した天才が過去に居た。


「......ぇと。でも、ぅごくとぁぶなぃです......」


 か細い声で注意喚起するクチックには理由がある。

 聖女の魔術は傷を治す。切れた箇所を瞬時に無かった事にするらしい。


 俺は見た事は無いが。


 水魔術で創れるのはあくまでだ。だが、そこに温度が乗り匂いが乗り味が乗り知識が有れば効果が乗る。

 例えば物を溶かしたりな。


 そこで「傷に効果のある粘性の液体」に目を付けた天才が水魔術で再現。

 そしてそれを普及させた。習得すれば優秀な水魔術士と言われ、今では水魔術士の登竜門になっている。


 効果は聖女ほどの即効性は無いが段違いで回復が早くなる。


「よくやったクチック」

「......(頷く)」

「私達は商業地区の助っ人よね?」

「あぁ。そうだな」

「なら戦いに行きましょ。魔獣、魔物あいつ等相手に撹乱なんて意味ないし正面からでしょ」

「あぁ。行くぜ」

「......」


 さて、俺達が来るまでに数刻経っている。クチックが治したと言え復帰まで暫くかかるか。


 嫌な感じだな。この数、恐魔大陸での露払いを思い出す。




 ......あの脅威が相手なら流石に俺等では無理だぞ。





⭐︎⭐︎⭐︎


https://kakuyomu.jp/works/16818093086358720536

外伝!

とうとう主人公視点が消えた......


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