第10話 ソーンの不安

「あっ、コレも美味しそうです!」

「いや、手に何本串持つのさ」


 町に駆け出した俺とソーン。首都ほどでは無いが町中がそれなりに整備され、人通りもある。

 そしてソーンの両手には露天で売られていた串料理が数本握られている。


「ですね。姉弟子としてカレンちゃんにもお裾分けするですよ」


 そう言って器用に一本だけ俺の口近くに出してきた。


 いや、強請った訳じゃ無いんだけど。


「ほらほら、美味しいですよ?」

「っ、まぁ。ぁむ」


 あ、美味しい。少し辛めのたれが焼いた鶏肉に絡まって小腹を刺激する。


 この手の物ってカリアの時にソーンとよく食べてたな。

 まぁ、口と胃が小さくなってから前に比べ食べる量が減った今、当時のように食い歩けるかは微妙だな。

 あと少し好きな物も変わったし。


 それでも変わらず美味しい焼き鳥の串刺しに感謝。


 そんな事を考えつつ、一口食べた物をソーンから貰い、串にある鶏肉を啄む様に食べていた。


「うぁ、ほうですほうです。かうぇんちゃん」

「急がなくていいよ。時間はまだあるし」

「っん。それでカレンちゃん」

「何?」

「ここら辺で聞き込みをするですよ。カレンちゃんが聞いた目撃情報はもっと少し先ですけど、して損は無いですから」


 馬に身体強化を施す事を前提に、騎手が魔道士団長並みに魔力の制御にたけてると半日で港町から首都につける。と前に魔道士団の誰かがが言ってたか。

 それでも、目撃時点から今日までに数日がかかってる。ラッテがどれだけ移動したのかわからない以上、聞き込みをして損はないだろう。


 首都から港町は結構離れている。馬車だと大体20日必要だっけか。

 だけど、今回は御者さんが魔力の扱いに長けているらしく、身体強化を馬に施し大幅に到着までの時間を短縮していると聞いた。



「流石、現リーダー。冴えてますね」

「......ん、そうです、リーダー。リーダーです」


 カリアがカレンになって行動を共にしている以上、立場が繰り上がりソーンがリーダーを務めるのは、おかしな話しでは無いはずだ。


 ......ソーンが引け目を感じる必要は無いんだけどな。


 そういや、レガートってソーンには俺がカリアだって言ってないんだっけか。

 レガートの事だし理由があるんだろうけど、これ以上追い詰めるソーンを側から見てるのも気が引けてしまう。


 そもそも言わない理由って何だ?情報の規制?貴族や冒険者支部長は知ってるのに?言いたく無い?でもレガートとソーンの仲は良かったはず。それとも何か他に言えない理由が?


ん〜〜。わからん


「難しい顔をしてどうかしたですか?可愛いんですから笑った方が良いですよ?」

「いや、何でも無いよ。食べ終えたら聞き込みに行こ」




⚪︎⚪︎⚪︎




「これください!あの、金髪で可愛い女の子見た事あるですか?身長は私達より少し高めです!」

「そうだなぁ。金髪は珍しいからな。直近で会ってたら覚えてるかも知んねぇが。すまんな」

「いえ、ありがとうです!」


 喉が渇いたのか果実水を買って聞き込み。

 そして次


「これ可愛いね、ソーンに買ってあげる。あの、修道服を着た金髪の女の子見ませんでしたか?」

「まいど。それで、修道服?教会かい?。ここらじゃ教会の人は教会の外に出ないからねぇ。また見かけたら教えるよ」

「わかりました!ありがとうございます!」


 ソーンが流し見た髪留めを買ってあげ、聞き込みをして。

 そして次


「あ、あの。人を探してるんですけど。金髪の女の子です。友達で」

「見かけて無いな。捜索届けを出すか?」

「いえ、大丈夫です!」


 衛兵の下にも聞いてみたり。




⚪︎⚪︎⚪︎




「みんな知らなかったね」

「はいです。もしかしたらまだラッテ様はここまで来てないのかも知れません」


 その可能性が1番高いか。もし首都を目指してるなら、この町を通った道のが安全だしな。


 俺達は馬車の所に戻ってきていた。時刻は夕方である。


 折角町に泊まるのなら朝出発のが良いのではと考えたが御者が「問題無い」って言うのだからそうなのだろう。


 御者さんにお土産として買った串の包みを渡し、俺達はまた客室に戻り2人で過ごした。


 御者さんは1人でずっと馬を操っている。休憩のたびにちゃんと労っておこう。うん。


「カレンちゃんもアーリィさんと仲良くなったみたいで良かったです!」

「アーリィさん?」

「ですです。御者の方の名前です。確か今年で42歳だったですよ」

「よ、よく知ってるね。ってあれ?最初に会った時挨拶したっけ?」

「あの場にはレガート様が居たですし、雰囲気が壊れちゃうです」


 それもそうか。

 でも意外だな。ソーンに年の差2倍を優に超える男性の知り合いが居たなんて。


「そっか。ソーンはアーリィさんと知り合いなの?」

「屋敷のが外である時に、今回みたいにお世話になるです。シスターさんの知り合いです」


 仕事が何かは知らないけど、うん。屋敷を管理してる人の知り合いか。ならレガートが身辺を調べてるだろうし大丈夫か。


「次の休憩でちゃんとらお礼言わなきゃね」

「ソーンがですか?」

「ううん。私」

「???」




 そして俺達は出立から5日を掛け港町マリスプルーフへ着いた。




 ー ソーン 視点 ー


 ラッテ様の目撃情報が出たそうです。

 カレンちゃんが冒険者支部長に連れて行かれたのはこのお話をしていたから、らしいです。


 その後、カレンちゃんを連れてフライギボンの討伐に行ったのですが、贈り物!を!投げちゃったんです!

 全く。姉弟子は悲しいです。師匠は一体どんな教育をしたのでしょうか。

 姉弟子としてちゃんと注意してあげました。焼肉と新作の服を買いに行くお約束です!


 ......師匠にも服。見てほしいです。




⚪︎⚪︎⚪︎




「ーー、以上が本日の報告です。レガート様」

「えぇ、ありがとう」


 場所はラッテ様の屋敷。ここにはラッテ様達が助けだした子供たちが住んでいます。

 レガート様はカリア様と住んでおられる屋敷に帰る前に、寄って下さいました。

 私も今は一人暮らししてるので、ここに寄ってます!同じです。


「貴方はカレンの事をどう思うかしら」


 どうとは。いえ、わかります。あの髪色に目の色。しゃべり方もそうです。どこか師匠を感じさせる。


「......聞いても、良いんです?」

「賢いわね。今はまだ答えられないわ」


 まだ、ですか。でもそれって。いやでも。


「ソーン。私もの事は詳しく知らないのよ。それで、仕事を頼めるかしら」

「はいっ!」


 一体、何でしょうか。

 レガート様から指示される仕事は色々あります。

 冒険者協会での特定の認知度や傾向の調査。商店街でソーンが気になった物を所感で説明。師匠の交友関係。たまに屋敷の子達と首都外でお仕事をする事もあります。

 ソーンが持ってきた情報でレガート様のお役に立てているなら、とても嬉しいです。


「ふふっ、畏まらないで。ただカレンと仲良くなって欲しいのよ。今あの子は私の屋敷に住んでいるけど、一緒に居られる時間は少ないわ。だから貴女に任せたいの」

「はいっ!任せて下さいです!」

「ええ。貴女が不安はわかっているつもりよ。ラッテが失踪してカリアとも会えてない」


 そうです。いつも優しかったラッテ様と最後にお話をしたのはいつでしょうか。出立前?焼肉の時?

 師匠もです。大丈夫って励まして送ったままです。元気な姿を見て無いです。


「......私ではあの2人の代わりには慣れないかも知れないわ。それでも貴女の事を大切に思っているの」

「っ!いぇ、レガート様も大切です!大好きです!」

「ありがとう、私もよ。安心して。カリアの事は解決する目処がたったわ。後はラッテを取っ捕まえるだけよ」


 そうして頭を撫でてくださるレガート様。


 流石はレガート様です。私達の知らない所で知らない方法で問題を解決してしまわれる。ラッテ様と師匠とは別方向に凄いお方です。


「はいっ!」

「それじゃあ私は行くわね。マリスプルーフの事。お願いするわね。帰ったらカレンを誘って食事でもしましょう」




 不安が消えたわけでは無いけど、まだレガート様がいらっしゃいます。

 ソーンの頑張りでレガート様が早く解決してくれるのを願うばかりです。





⭐︎⭐︎⭐︎


https://kakuyomu.jp/works/16818093086358720536

外伝も書いてます



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