第9話 港町を目指して

「それじゃ、行ってくるよレガート」

「えぇ、カレン。気をつけてね。無茶だけはしないで、手に負えない事態になったらすぐ連絡して。駆け付けるわ」

「あぁ、ありがとう。わかった。......ラッテを連れ帰ってくるよ」


 外門手前で俺達は抱擁を交わした。


 いつもより早い時間に朝食を取り、外壁で待機していた馬車に乗り込む。

 中に入るとソーンがうつけた表情で窓の外を眺めていた。


「ソーン?出発するよ」

「ぇ、あ。はい!」


 御者に合図を出し、ソーンの対面に座った所で馬車は動き出した。


「何かあったのか?」

「そうじゃ無いです。ラッテ様は無事かなって少し不安です」


 そうだな。

 俺もレガートもラッテの事を心配している。純粋にラッテを心配しての事もあるが、彼女の正義感や人助けの精神はレガートをして度々遅れをとるほどに凄まじい。


 元気にしてると良いんだけどな。


「そうですそうです。昨日のフライギボン、結構狩りましたけど、前からあんなに居ましたっけ?」

「んぁ、あぁ。確かにな。多分大森林から来たと思うんだけど、大森林から首都って距離あるよね。他の森を転々と移動してきたのかな」

「なら近くの村とか大丈夫なんです?」

「冒険者協会がどこまで把握してるかだよな。一応言ったんでしょ?」

「ですです」

「なら大丈夫だろ。ソーンの言葉なら一考すると思うよ」


 魔獣化、魔物化した動物の主食は魔力と言われている。元になる動物の食生活を無視して人間や動物を襲うからな。人間社会の敵それが奴らだ。


「安心です。そこまで強く無いとはいえ、数が多いです。って今日は鮫鞘以外にも持ってるんですね」

「レガートが持って行けって言われたんだ。布はここじゃ取らないけど」


 今回は鮫鞘の他に、魔王討伐で使用した聖剣も持ってきている。

 目的地である港町は恐魔大陸が近くにある。万が一の為にレガートが教王から使用許可を取ってきてくれた。


 布に包まれたその剣はカレンの正体が露見する為、使わないにこした事は無いが必要があれば剣を抜く。


「不思議な剣なんですね。カレンちゃんには鮫鞘があるですけど、沢山使えるに越した事は無いですよ。ソーンは変わらずファルシオンですけどっ!」

「ソーンは他の武器は使わないの?」

「ですです。師匠に剣術を教わった時に色々試したです。でも、これだ!って会うのが少なくて、ようやく出会ったのがこの剣なんです!!!」


 えっと、確かソーンの持ってるファルシオンは譲り受けたんだっけか。


「良いね、運命の出会い。なんかかっこいい」

「男の子っぽいカレンちゃんも可愛いですよ〜」


 そう言ってソーンが腕を伸ばし頭を撫でてくる。

 うぐ、師匠なのに。


 そして,ソーンに担ぎ上げられソーンの膝に座らされる。

 え?


「ソーン?」

「......」


 ソーンに後ろから抱きつかれ振り向く事は叶わなかったが、それでも彼女が不安に揺れている事は理解できた。


「大丈夫。私が見つけるから」

「......はい、カレンちゃん」




⚪︎⚪︎⚪︎




 馬車に揺られる事どれだけか、俺とソーンは寄り添う会うように眠っていた。


 馬車の速度が遅くなり止まる。扉を叩く音。


「んぅ、あれ?着いた?」

「いや、マリスプルーフはまだまだ先ですぜ。経由する町まで来たので、一旦馬と人の休憩と荷物の確認をね」


 答えてくれたのは御者さん。


「そうなんですね。ありがとうございます」

「仕事ですから。暫く止まるんで、お二人も外に出られては?」

「ぇ、流石に申し訳ないですよ。大丈夫です」

「俺等は此処で番をしときますんで、気にしないでくだせぇ」


 寝ていたとは言え、する事なくて暇だったのは確かだしな。


「ありがとうございます。ソーン、起きて。外に出るよ」

「......んにゅ、っは!カレンちゃん!ってそうです。ここ馬車です。着いたですか?」

「いやまだだって。途中まで来たから休憩するし、外出て良いよって」

「おー!良いですね!丁度暇だったんですよ!」


 いや寝てたじゃん。確かに寝るまで一言二言の会話だけしてたけどさ。


「さ、降りましょう!カレンちゃん!」


 そうして俺の手を引っ張って馬車を軽快に降りるソーンだった。




「まっ、待ってて」




 ー     視点 ー


 荒れ果てた大地。

 勇者と魔王。人と魔の頂点が起こした熾烈な争いの後がそこらかしこに残り、玉座に座した頂点は今では無人になっている。


「あら?私が居ないうちに、随分とまぁ荒れたものですねぇ」


「そういえば。勇者が覚めてきたんでしたっけ?知りませんけど」


「っ!、聖女の結界ですか。随分と丁重な事で」


 玉座に置かれたモノを掴もうとした何者かの腕は、途端に吹き飛んだ。


「おやおや。とはいえ随分ながありますねぇこれ」


「別に魔王になんて興味ないんですけど。貴方もそう思うでしょ?」


 吹き飛んだ腕は既に治っており、片方の腕で掴んでいた脚を引っ張り上げる。


「......ぅぐ、ぃあ」


 その者が引き摺っていたソレは苦悶の声を上げる。


「まさかこんな所にがあるなんて。面白そうな事が出来そうだわ」


「あはっ!良いわねぇ、対岸かしらぁ?沢山魔力が集まってるわねぇ!久しぶりに食事でもしましょうか、あっはは!」





⭐︎⭐︎⭐︎


https://kakuyomu.jp/works/16818093086358720536

レガートとって身内には甘いんです。

今回は短めです!



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