第8話 カレンの変化

「カレンちゃんって話し方独特ですよね?」

「ぅえ!、な、何かな急に」

「安定してないというか、話しやすい話し方でいいですよ。ソーンは気にしないですし」

「ん、まぁ。確かに未だにこの話し方は慣れてないけど、「その身体なら可愛く話してくれない?」ってレガートがなぁ」


 焼肉店を出た俺達は目的も無く街を歩いていた。時間で言えば昼くらい。昼飯が少し早かったか。


「あー、確かにです。カレンちゃんって愛されって感じの外見ですしね。こうギュッとしたくなると言うか、守ってあげようと思いますね」

「んーそう?なのか?。自分じゃわからんけど」

「ですです。でも、口調が男の子っぽいので女の子っぽい弟って感じです」


 一部的を得てそうな感想だな。流石に答えに辿り着く事無いだろうけど。


「それよりどうです?腹ごなしに何か依頼受けます?」

「あぁ、良いと思うよ。私も鮫鞘に慣れておきたいし」

「それじゃ!冒険者協会へ戻るですよ!」


 そうして俺たちは、少し膨らんだお腹を若干気にしつつ冒険者協会へ足を向けた。


 ......なんでお腹とか気にしてんだ俺は。別に気にする事の程でも無いだろ。




⚪︎⚪︎⚪︎



「さて!それでは張り切って魔獣の討伐をするですよ!」

「流石に近場では魔物の依頼は無かったな」


 首都セレニティ近郊にある森林地帯。大陸中央に位置する大森林とは別である。

 

 魔獣、魔物とは魔力を得た動物だ。

 俺たちの住んでるフルーク聖王国は、南のアルカディア王国よりする魔物は少ない。主に魔王が居たい恐魔大陸由来の魔獣や魔物達が生態系を蝕んでいる。


 だけどゼロって訳じゃ無い。大森林の魔力に当てられた動物は、その場で変質をする個体もあれば時間を掛けるモノもいる。

 そして他の森に移り、変質を開始した動物が更に種を増やし繁殖をする。


「誰かが狩らないと人が住めなくなるからな」

「ですです。必要です」

「それにしても、樹。生い茂り過ぎでしょ。なんでこんなあんのさ」

「ソーン達、背が低い方ですからね。枝が少ない高ーい樹だと、よりそう感じるです」


 地面に生い茂る雑草も結構な高さがあるんだがな。

 身長が低くなるだけでこんなにも世界が変わるんだな。本格的に認識のズレを改めなきゃな。


 森林を歩いたり跳んだりして幾許か。


「あ!いました!フライギボンですっ!」

「速度上げて追いつくぞ、数は?」

「4体!私がオスとメスを貰います」

「了解、なら幼体は任せてくれ」


 フライギボン

 手が長いのが特徴的な猿が魔獣化を果たした姿。

 伸縮をしているかの如く長い腕と魔獣化の影響で鋭く伸びた爪は樹々を掴むのに適しており、空中を軽快に跳び回る。


「それじゃお先ですっ!。五体豊饒ごたいほうじょう 四番よんばん 兎脚ときゃくっ!」


 瞬き一つでソーンが10歩位先に跳び、それを繰り返す。


「久々の魔獣だ。オスとメス強い方はソーンか。まぁ仕方ない。早急な慣れのためだっ。五体豊饒ごたいほうじょう 四番よんばん 兎脚ときゃく




⚪︎⚪︎⚪︎




「っら!」


 先に飛び出したソーンは宣言通り、樹々を跳ね回り2体を相手取っていた。

 メスの方は既に片腕を落とされ瀕死な所を見ると、残るはオスだけの様だ。


 そして、俺が放った斬撃は既の所すんでのところで躱された。


「ッア"ァ"ァ"ア"ア"ア"」


 うるせっ!


 やはり五体豊饒が乗らない一撃では魔獣以上を相手にするのは無理か。


 フライギボンはオスメス、子2人の4体を一つの集団として狩りを行う。

 基本仕留めるのはオスが担当し、子2人は樹々を跳び回り撹乱を行う。メスはオスもしくは子2人の危険を察知し穴埋めを行う。


 そして子2人になった状況では、周囲への警戒度合いを跳ね上げ逃げに徹する。


「逃がすかよっ!六番ろくばん軟蛇なんじゃっ!」


 空振りした体勢から身体をあり得ない方向に曲げ、樹に対し垂直に着地。残った勢いをバネの様に脚に溜め、解放する。


十二番じゅうにばん猪鋲穿いびょうせんっ!」


 跳び出した力を腕に回し、持っていた鮫鞘を投擲。

 大気が裂け、甲高い音が鳴る。


「ッア"ァ"ァ"ア"ア"、ッア"ァ"、ァ」


 見事脳天を貫き鮫鞘は勢いが衰えぬまま、直線上の樹々を薙ぎ倒していく。


「っ!?カレンちゃん!?!?」

「あっ!ごめんなさいっ!!!四番よんばん 兎脚ときゃく


 投げた刀がソーンの追っていたオスの左腕を貫通し、樹に刺さりはりつけになっている。


 久々の戦闘が楽しくて、ついやってしまった。


 とは言えまだ1体残っている。

 同腹どうふくが葬られる音が聞こえたはずだが、それでも手は止めず逃走を図るフライギボンの幼体。


 逃げれる時間も長くは無く、無情にも追いついたのは僅か5歩。


十一番じゅういちばん砕戌さいじゅっ!はぁっ!」


 落ち着いた俺が繰り出したのはステゴロ。この速度で徒手空拳は、今の俺では使えない。


 追いつき様に腹に蹴りを入れ、来た方向にフライギボンを吹っ飛ばす。


「カレンちゃんっ!!!」

「っ!ありがとう!」


 ソーンが鮫鞘を投げ渡してくれた。完璧な


「これでしまいだっ!。四番よんばん兎進としんっ!」


 飛んで行ったフライギボンを追い越した頃には頭と身体は離れていた。




⚪︎⚪︎⚪︎




「ほー、姉弟子が買ってあげた刀を投げたですか。カレンちゃんはそんな子ですか」

「いや、うん。ごめんなさい。」

「素直に兎進で間に合ったです」

「ほんと。ごめんって、焼肉奢るからさ。ね?」

「......」

「えっと」

「服"'も"買いに行くです。最近、買ってなかったので」

「あっうん。良いね。一緒に見に行こっ」




 久々の狩りを楽しんだ代償は高くつきそうだ。




ー レガート 視点 ー




「あははっ!それで?」

「それでさ、結局、焼肉と服選ぶ事になったんだよ」

「自業自得ねカリア。はぁ、面白いわ。ん〜、でも珍しいわね。魔獣相手にカリアが遊ぶだなんて」

「ん?あぁ言われてみれば確かにな。......この身体になって初の魔獣狩りで昂ってたから、かな」


 カリアなら嫌と言うほど魔獣や魔物は狩っただろうに、カレンでは感覚が違うのかしら。


 今は夜。私は城での仕事を終えてこの屋敷に帰り、カリアはソーンとの依頼を終わらせて帰っていている。


 話を聞く限り冒険者の支部長からラッテの事は聞かされたみたいね。


「可愛いわねソーン。彼女、ラッテが拾ってきた弟や妹は結構いるけど、ソーンに並べる子って一握りだったもの。それが強さで並んでる女の子ってなれば嬉しいし、贈り物の一つもしたくなるわよ」

「ぅ、確かに。それは本当に反省してるよ。身体が縮んで性別が変わった程度で感情の振り幅が大きくなる、不甲斐ない師匠だよ」


 重症ね。


「それより出発はいつなの?」

「ん?あぁ、明日って聞いたぞ。早急な対応だよな冒険者協会」

「それだけ失敗が出来ない案件なのよ。冒険者協会にとっても私達にとっても」

「レガートは来るのか?」


 出来れば行きたい。カリアが討伐で首都を離れる事は何度かあったけど、毎度着いて行きたいと強く願っていた。

 でも立場がそうはさせない。


「今回も行きたいけど無理ね。だから代わりにソーンを向かわせるわ。彼女なら信頼できるから」


 そう話しているうちに静かに扉が開く。


「お嬢様、カリア様。そろそろ就寝を。特にカリア様は明日の朝が早いですから」

「あら?もうそんな時間?早いわね」

「続きはまた今度にしよう」


 立ち上がるカリアに続いて私も立ち上がる。

 就寝にはまだ少し早い時間。

 侍女が流れを作ってくれたなら、それに乗るしか無い。


「それじゃ、部屋まで行きましょう?カリア。好きよ」

「あぁ、俺も好きだよ」




 会えない日が続くのだから今日くらい夜は長くても良いんじゃ無いかしら。





⭐︎⭐︎⭐︎


https://kakuyomu.jp/works/16818093086358720536

レガートとラッテとソーンの焼肉会の外伝、絶賛更新中!

技名はノリと勢いの造語です。



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