第7話 大人な対応
「出てきたですね、カレンちゃん」
「悪い、結構待たせたな」
冒険者支部長と話を終えた俺は、外で待機していたソーンと合流して冒険者協会を後にした。
「姉弟子としては依頼をこなしたいんですけど、なんでらカレンは外に出てきたんです?」
「少しソーンと話したくて。私が人を探してるのは話したっけ?」
「です。話したというか聞こえた。ですけど」
「そ。その事についてお話がしたいんだ」
カリアが居ない以上、実質的なリーダーのソーンには申し訳ないが、ラッテの目撃情報を元に依頼を受けている。それも話さないとな。
「なら良いお店があります!最近出来たお店なんです。味も完璧で最高です。今度、姉弟子を食事に誘っても良いんですよ?」
「ふはっ、ちゃっかりしてるな。ならそこに行こうか」
⚪︎⚪︎⚪︎
「見てくださいよ!この肉の大きさを!この量を!」
「すっ、凄いな。初めて来たぞ。この店」
ソーンに連れられて入ったのは、肉専門店と言って良いくらいに肉しか品が無い店だった。
良くある居酒屋とはまた違い、客層に冒険者は少ない。それもそのはずでこの店はなんと個室だった。
「ですです!ソーンが初めて連れて来られた時も何がなんやらでびっくりしちゃったんです!はぁ、またここに来れて最高です〜」
「そんなに美味しいのか。楽しみですね」
最近はずっとレガートの専属侍女であるサラやこの屋敷を管理していた1人である料理人の手料理ばかりを食べていた。その前は討伐隊で恐魔大陸まで行ってたし、こうやって外に食べに行くのは本当に久しぶりだな。
......ん?連れて来られた?
「因みにソーン?ここって誰の紹介出来たの?冒険者?」
「勿論、レガート様です!あの時はラッテ様も一緒でした!」
え、なんでそのメンツで呼ばれてないの?除け者?
こわっ。あれか世に言う女子会なのか?肉屋で?んーまぁ、ソーンもラッテも食べる方だから大方、企画したであろうレガートが気を利かせたのかな。
まぁ、それはそれとして
「よ、良かったね。次も一緒に来ようね」
「はいっ!」
一抹の寂しさは残るけどな!
⚪︎⚪︎⚪︎
「はふぅ、最高です〜!この為にお昼を抜きにした甲斐が、っと嘘です。美味しかった〜です〜」
「いや〜美味しかったなぁ〜」
出された肉は絶品だった。鉄板で焼く肉なんて初めてだ......めっちゃ柔らかい肉。え、あんなのあった良いのか。
「どうです!おすすめの店です〜!」
食べ終わった俺達はそのまま個室で話し込んでいた。
「ありがとう、紹介してくれて。最高っ!また来る、来ような」
「はいっ!」
美味しい物も食べたし、本題を切り出さないと。
「それでだな。難しい事は苦手なんだはっきり言う。私が探してる人が見つかったらしいんだ」
「お〜!良かったじゃないですか!おめでとうございます!」
「まだ目撃したって話で、ちゃんと居るのかは不明だけどな。それでなんだが、ソーンにも手伝って欲しいんだ」
一拍置いてソーンは話す
「急ですね。姉弟子として嫌とは言いませんけど」
「勝手に行動を決めたのは悪かった。だけど、おれ、私にとって大切な人だから」
「あぁ。ごめんですカレンちゃん。怒ってはないんです。ただその人って多分聖女様ですよね」
「え!?知ってたの!?」
「その、ソーン。今は別の所に住んでるんですけど、前までは聖女様とみんなと同じ屋敷に住んでたんですよ。だからここ最近帰って来ない事を心配した子達がソーンの所に聞きに来たりして」
「そう、だったんだ」
「ですです。レガート様に聞きに行っても答えてくれませんし。冒険者協会がソーンにくれる仕事、最近ゼロと言っても良いくらい少ないです。絶対何かおかしいんです」
ソーンの口からここまでレガートが出てくるのは意外だけど、そうか。レガートは話してないのか。
確かに、俺も
でも、
「あぁ。魔王討伐後、ラッテが行方不明になったんだ。だから私は探したくて」
「っ!」
ソーンはアレから立ち直った強い子だ。力を付けたソーンなら今回も立ち直るかも知れない。
でも、
「またラッテに会って、今度はお礼を言いたいんだ」
俺やラッテと過ごした日々を忘れたい過去になんてさせたくない。
だから、
「協力してほしい」
「......やっぱりそうだったんですか。言いたい事は多いですけど、わかったです。ラッテ様は私が好きな御三方のお一人です!必ず探し出して見せるですよ!!!」
本当にソーンは強い子だ。
ー レガート 視点 ー
「話を切り分けましょう。問題なのは聖女が居ない事よ、ここで
カリアが魔王を討伐した。聖女も同行している。ここまでは教会寄りも既定路線よね。
問題が生じたのは魔王との決戦か、はたまた帰路か。目下調査中だけど何かがあった。
討伐隊の殆どは冒険者とはいえ、少なくは無い数が騎士団と魔道士団からも派遣させている。だけど、聖女はそこで起きた何かの為にそれらの目を掻い潜り失踪した。
少なくとも私は現状をこう見ている。
「
「......概ね王女の推察と似通ったもすのかと」
「そう。ならカリアを港町マリスプルーフに連れ出そうとした理由は聖女を誘き出す事かしらね。空き家云々は聖女捜索の他には、そうね。転移陣の警戒かしら」
「えぇ、ご存知かとは思いますが転移陣の製作及び使用は固く禁じられており、使用の際には教王への申請が必要となり、現在国内で使用されている転移陣は魔道士団が管理をしております」
利己的な集団は領分さえ侵さなければ案外に大人しいの。手の届く範囲は聖女が動いた以上、私からこれ以上何かする気はないわ。
もし、無断で転移陣等を使用してくれればそれを理由に私が魔道士団にも手を出せる口実になるけど。
因みに、魔道士団が空き家の捜索を行ったのは、転移陣の基礎に理由がある。
あれは本来、「一定空間内に存在する物を引き寄せる」魔道具が元となっている。
そして時間のと共に研究が進められ変化を遂げた。一定空間は室内へ。存在する物には人も含まれる様になった。
そして更に歳月を掛け創り出されたのが転移陣。
基礎に変化は無く、引き寄せる転移陣と場所を示す転移陣の2つの魔道具が必要となった。
「空き家にあると踏んだのは、場所を示す方の転移陣ね。あれ結構大きいもの。設置して調整する為の時間が必要だと考えると、計画的でもない限り、咄嗟の失踪で使える代物では無いわ。でも無かったのよね?」
「誠に残念ながら、転移陣を見つける事は叶いませんでした」
目撃情報は本物。これは私にも入ってきている情報。
カリア含めあの場に居た者が誰1人、その何かを知らない。集団で秘匿されている可能性も無い事はないけど、そこまでして守るだけの事が起きたのなら、騎士団と魔道士団の統率は取れても、同行していた過半数の冒険者が噂を流すだろう。
転移陣の使用は確認されていない。聖女が何処かに逃げるなら真っ先に使うべきだ。此方に
聖女は港町から動いておらず、動けない理由がある。徒歩で移動している可能性もあるけど、そうなれば捜索をしている冒険者や領の自警騎士団が報告を行う。誰にも見つからず移動できるほど狭い領土では無い。
一体何を抱えているのかしら。あの子は。
「カリアとソーンを港町に向かわせるわ。
「それは、私としては有り難い事ですが。一体何を考えておられるので?」
「聖女が失踪した理由を解明。手掛かりの捜索。これらが手詰まりならやり方を変えていくしか無いわ」
突っ走り思いつめ、身動きが取れなくなってから「どうしようか」と考える。
学生の頃にした注意は、一体何処へ消えてしまったのかしら。
全く、世話のかかる先輩だわ。
⭐︎⭐︎⭐︎
https://kakuyomu.jp/works/16818093086358720536
カリアがはぶられた「焼肉での密談」を外伝にて投稿しました!
応援やコメント、誤字脱字、わかりずらい等の指摘があれば私が泣いて喜びます。
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