第6話 噂の使い方


「その鮫鞘、大切にしてくださいね!姉弟子からのっ!勝者からの!贈り物なんですから!」

「ふはっ。あぁ、ありがとう」


 こうも元気に話されると微笑ましくなる。


 ソーンのパーティ加入の為に模擬戦を行ったた。その後、武具屋の裏手を壊さなかった事を喜んで鮫鞘を買っていた。

 一体何故と思ったが俺への贈り物という。


「良かったのか?高かった、でしょ?」

「良いんです!バイト代が結構入る予定ですし!何より姉弟子ですかっ!」

「ありがとうな。あ、そうだ。「兎進としん」を交わした後、蹴りで追撃を入れてきたけどあれって師匠に教わった?」


 そう。俺は教えた覚えはない。自己流かはたまた誰かからの入れ知恵だろうか。


「あれですね!あの蹴りはラッテ様直伝の近接格闘術なんです!「如何なる時でも追撃の手を止めてはいけません」ラッテ様の教えです!」

「ほんとに聖女なのかよ。ラッテ様は」

「ですよ。誰よりも優しく勇敢でした。またお会いしたいです」


 思い返してみると、誰かを助けに行く時は手に持ってる本がいつも赤黒く濡れていたよな。過去の聖女を見た事は無いがみんなあんなんなのか?


「ありがとう、冒険者協会はそろそろか」


 俺の身長より頭半分高いソーンが左右に揺れながら前を歩く。


「はいっ!目の前の建物がそうです」


 レガートの所に戻ってから初めて行く冒険者協会。思ったより緊張するな。まぁ、原因の殆どはこの身体のせいだが。


 先頭を行くソーンが扉を開けると、春北風はるならいが吹く外とは違い熱気をはらんだ空気が漏れてくる。


「ん?ソーンじゃねぇか。久しぶりだな」

「おーおー、ここ最近泣き崩れたソーンじゃんか」

「お?カリアに慰めてもらったのかぁ?」

「え?ソーン来たの?じゃあカリアも?」

「カリア!?どこ!?」


 ソーンの登場に気がついた冒険者達が一斉に振り向き各々一声話し掛ける。前から思ってたが、えらく人気だよなソーン。


「今日は別件ですから」


 さっきまでの元気な態度はどこへやら、俺の腕を引っ張り受付にそそくさと足を運ぶ。


「良いのか?」

「良いんですよ。毎度の事ですから。気にしないでください」


 その割に頬が赤いのは気のせいだろうか。


「お久しぶりですね。ソーンさん。」

「久しぶりです。ピティさん。この子を冒険者として登録してほしいです。終わったら私のパーティに入れます」


「!?なんだって!?」

「あの勇者と準勇者のパーティに!?!?」

「皆さん、落ち着いて下さい。それでソーンさん。本当にこの子ですか?」

「はい」

「そう、ですか。貴方の推薦ですか。凄いですね。こんな小さな子が......。では氏名と現在の職業、今回の推薦人はソーンさんなのでこの欄は私が書きますね」

「わかった。書いてきます。行こ?」

「あ、うん。......って待って受付さん。これ。師匠が渡してくれって言ってました。宛先は冒険者支部長宛です」


 俺はレガートから預かっていた手紙を受付の人に渡し、ソーンの後ろについていく。


 どうしようか。と言うか俺の職業って何?勇者?カリアなら通りそうな気がするけど、カレンの見た目じゃ無理か。

 前は立場もあってか学生で通せたけど、今の俺って文字通りただの少女だしな。


 ん〜


「書けたですか?」

「いや、職業って言われてもな。こちとら子供だし」

「確かに。でも冒険者って定職に付けなかった事を理由になる人も結構いるので、実はあんまり関係ないですよ。その項目」

「それなら一体何故」

「確か。昔、仕事を辞めさせられた腹いせに冒険者協会を襲った人がいるんです。まぁ、すぐ捕まったらしいんですけど。で、「冒険者という貴重な戦力を軽視するのは駄目だよね」って事で、次に事件が起きた時のために責任?の追求と監査?をする口実を作る為にレガート様が発案したらしいですよ」

「へ〜、なるほどなぁ。ソーンは随分詳しいな」

「はい。レガート様から聞きましたから!この件を報告にあがったのも私だったりしますし」


 え、本当?知らんかった。

 まぁでもレガートって、学生の頃からどれもこれも片手間で頂点を取っていく様な天才だったからな。疑問点を改善するのも当然。なのか?


「あの、カレンさん。今よろしいでしょうか。冒険者支部長がお呼びです」


 声を掛けてきたのは先程の受付さん。

 はて。渡した書簡には何が書かれていたのやら。




⚪︎⚪︎⚪︎




「すまないね。こちらから出向くべきだったかな」


 入室し、出迎えてくれたのは恰幅の良い男性だった。

 カリアの時に何度も会った事があるし、人となりは知っている。


 因みにソーンは部屋には入らず外で待機となった。


「いやはや驚いたよ。まさかこんなに小さな女の子がね」

「?」

「どうだったね。今の冒険者協会は活気があるだろう?知っての通り魔王討伐は偉業だ。だが英雄譚なら肴のあてになり、人の興味は移ろいで行く。今話題なのは英雄と会えなくて日々泣いていたソーン君だ」

「あ、だからあんな人気だったんだ、ですね」

「カレン君。いやと呼ぶべきかな。君が生きていて、私としては安心したよ」

「っ!......知ってたのか」

「私が鎌を掛けた可能性もある。そうボロを出す物じゃ無いよ。だが安心したまえ、カリア君の持ってきた書簡に書いてあった事だ」


 なら打ち明けたのはレガートか。

 渡された書簡にはこう書いてある。




「 カリア・セーフガルド(以降カリア)は此度の討伐により不可逆な傷を負った。

 結果、新たに産まれた存在がカレンである。

 この事実は冒険者を含め、民間に対しては秘匿とする。


 今後、冒険者協会に依頼している聖女捜索の報告はレガートではなくカレンへと委任する。


 聖女捜索期間は2年を想定としている。


 引き続き、冒険者諸君の働きに期待する。


 レガート・フルーク・ラ・ロア 」




 細かな決まり事もあるものの、大雑把にこんな事が書いてあった。

 捜索の報告を俺が請け負うとか初めて知ったんですけど。


「あの王女様が何を考えてるのかは知らんが、君の魔王討伐という話題を性転換などと言う笑い話には変えたく無いらしい」

「なるほど?」

「ただ、噂ってもんは何処から漏れ出るかわからん。その事はカリア君から王女様に言ってくれるか。私が一筆認めるしたためるより効果がありそうだ」

「そこは了解した。冒険者協会には世話になってるからな。そのくらいなら任せてくれ」


 レガートは人を利用する事はあっても真に頼る事は稀だ。俺達3人の中で1番頭が切れるが、城の中に頼れる人が片手を超えるか否かくらいの人数だと不安になる。




「それでは本題に入ろう。聖女を目撃したと報告が上がった」




 ー レガート 視点 ー




「お久しぶりでございます、レガート様。本日は面会の予定を組んで頂き、誠に感謝を申し上げます」

「えぇ、デュービアス・ブラインドネス。最後にこうして対面したのは3年くらい前だったかしら?。時が経つのは早いわね?」


 ここは私の執務室。執務補佐のオネスティが飲み物を用意してくれている。


「最近の魔道士団はどうかしら。国中を走り回っているそうね?」

「お耳が早い事で。魔王が討伐されたとは言え脅威が消えたわけではございません。民草の安寧の為に魔道士団は日々尽力しております」

「そう?ならこんな話を聞いたかしら。魔道士団が各地の空き家を漁っていると言う噂」


 噂はどんどん誇張されていく。最初はただ魔道士団がそれなりに理由を付けて空き家を探っていただけ。それが調査として家に押し入り、それが何件も起これば。囃し立てたい悪意は自然と風に乗り誰かの耳に入っていく。


「はて。私には皆目見当もつきません。この地に住まう人々に被害が出てからでは遅いと。現場が判断したのでしょう」

「ならいいわ。それで?要件があるのでしょう?」


 そして魔道士団はこう告げた。


「レガート様。港町マリスプルーフにて聖女様。ラッテ・リッタ様を目撃したと情報がございます」

「っ!......へぇ。随分と面白そうな情報ね?」


 あら意外。その情報は魔道士団が独占すると思っていたわ。

 驚いた顔を作ってみせたけど伝わるかしら。


「はい。2日前の情報です。船乗りが夜中徘徊する聖女様らしき人影を見たと。我々も捜索に力を入れておりますが結果は芳しくありません。そこでどうかカリア様のお力をお貸しいただきたい」

「見つけたのであれば行幸よ。手掛かりだけでも早いくらいだわ」

「でしたら」

「あの土地は今やお祭り騒ぎよ。この国に属する者でも、たとえ異邦人でも。見境無く興味を惹かれるわ。今から馬車で行くならそうね、だいたい。余裕持って20日かしら。でもカリアが行くなら転移の使用が許可されるわね?」


 移動の手段を馬以外に何か新たに作るべきね。一から考えるのも面倒だし、帝国の技術でも拝借しようかしら。

 それより、


 魔道士団長の目的はカリアをこの地から離す事ね。そこから先は教会寄りあっちが主導するのかしら。

 魔王討伐が成され、魔道士団長さんは焦っているのね。


「カリアは騎士団にも魔道士団にも属していないわ。もし何かって聞かれたら私の私兵かしら。そして、この事実は周知されているのよね」


 私は教会を利己的な実力主義の集合体だと考えている。


「魔王討伐は主に冒険者主導で行われたわ。これは適材適所を考えての事よ。騎士団も魔道士団も侵略を考えた組織ではないもの。冒険者は文字通り攻勢向きよね?それに報酬を出したら動いてくれるの」


 彼らが溺れているのは権力では無く魔力。

 知りもしない過去。受けたの事の無い神からの寵愛を一身に下すため、彼らは日々神事の真似事をしている。


「そして騎士団はその戦い方から民に広く知られている組織。団長のセーフガルドも民達に有名だものね」

「......一つよろしいですか。王女。その言い分はまるで私達を蔑ろにし、あたかも戦歴を侮蔑する発言です。お控えを」


 彼らの行う神事には贄がいる。無垢な子を捧げる人身御供ひとみごくう。民は彼らにとって卵を産む親鶏だろうか。


「わかっているわ。カリアがあの港町に行かないと貴方の娘さんがを賜るのよね?」

「っな!!」


 彼らにとって聖女は世間に対する活動報告に過ぎない。人を助け、庇護し、また助け。人が人を呼び噂を作る。


 だけど今回の聖女は違った。世間的には良い方に違いを見せた。何せ誰にも制御出来ない程に人を救い、その庇護の手を伸ばしてしまう。


 教会化け物を使い分け信者親鶏を確保してきた教会にとっては場を荒らす嵐になる。


 教会が今まで創り上げてきた虚像の噂人助け本物の噂ラッテにより完膚なきまでに塗り替えられた。


 ここまで暴けば上っ面の話は不要になる。



「さて。話し合いをしましょうか」





⭐︎⭐︎⭐︎


https://kakuyomu.jp/works/16818093086358720536

外伝。

まとまるだろうか(不安)



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