第3話 探す理由


 冒険者協会に行く前にまずは使用する武器の調達だ。

 今俺が来ている服は動きやすい様にドレスなどでは無く、生地の厚い薄黒スラックスを基調として上は黒のインナーに革の防具を付けてた格好になっている。冬は過ぎ去ったが未だ寒さが残る。

 ポーチに最低限のレガート製医療品が入っている為、万が一怪我をしても致命には至らない。

 そして残るは武器である。


 現在の住まいである屋敷は城からその気なら徒歩で行ける距離に存在する。そして周辺の住宅街には当然の様に貴族の屋敷。つまり別宅が並んでいる。

 冒険者協会は一般向けである為、今いる区画には存在しない。


「ん〜〜っと!さて、大体2週間ぶりって所か?久しぶりに商店街まで行くか!」


 大きく伸びをして軽く柔軟をした後、俺はいつも通り通常貴族街から商店街まで走り出した。




⚪︎⚪︎⚪︎




「おじゃましま〜す」


 目的地である武具屋。ここの店主は前からお世話になっている。素材の加工をしてくれる腕の立つ人達が揃っているしな。


「とはいえ、俺はまだ冒険者に登録すらしてないんだがな」


 治安維持の為に数年前、レガート考案の制度「冒険者登録した人のみ武器の購入を認めます」が存在する。つまり俺は買えない。


 じゃあなんで来たのって?この制度、実は穴があってな。冒険者になる為には「俺は⚪︎⚪︎が扱えて、⚪︎⚪︎が出来ないんだ」みたいな面接的なのがあるんだけどよ。この制度のせいで武器買えないから、得手不得手がわからんまま冒険者にならなきゃいけなくなったのよ。


 まぁ、そこに気づいていた冒険者協会は簡易的な試験として体格に合わせた剣をある程度形になるまで稽古する様になったんだが、そこは今はいいか。


「おい。嬢ちゃん。ここは遊び場じゃねぇんだぞ?」

「あぁ?おはよう、


 店内を回っていたら店番をしていた店主に声を掛けられた。

 相変わらずガタイが良いな。


「「おっちゃん」だぁあ?誰の伝手で来やがった?こんな餓鬼こさえてる奴なんざおりゃ知らんなぁ」

「あぁ、そうだった。ごめんなさい。おれ......っとじゃなくて!わたし!。師匠から冒険者になる前にここに来いって言われて来たの」


 ......随分恥ずかしいな事喋り方。


 なんかおっちゃん気が立ってるな。

 因みに「おっちゃん」とは俺を含めこの武具屋を贔屓にしている者らからの愛称だ。


「名は?」

「カレン。カレン・セーフガルド。冒険者になりたいんだけど、武器持ってなくて。師匠に言ったらここで見てもらえって」


 そう名乗るとおっちゃんは眉を上げて訝しむ表情を作り俺の顔を覗き込んだ。


「その姓はアイツのもんだなぁ。んでなんだぁ。お前はアイツんとこの子供ですってかぁ?」

「えっと、事情は詳しく言えないんですけど、私はあの人達の養子って事になります」

「っは!その髪にその目で養子って事ぁねぇだろうよ。相手はお姫様か?聖女様か?とうとうソーンに手ぇ出したってか?」

「え?、ぁあいや。あの、えっとな。別にこの髪と目は元からなんだ。ぁっと、です」


 養子と言うのはレガートが考えたカレンの設定になる。

 あの場にいた貴族にはレガートのお父さん、つまり国王からこの件の戒厳令言い渡されているらしい。

 実際どこまで効果があるかわからんけどな。

 レガートを筆頭に張り切って性転換に対する薬を研究してくれている。その時間が稼げれば良いとの事。


 得意分野が違うと言えば聞こえは良いが、己の事でレガートが動いている中、何もできないっていうのは、自分が恨めしくなる。


「生憎だが餓鬼が扱える様な武器なんざぁ、置いてねぇんだわ。それに魔王もアイツが倒したって事だ、わざわざ嬢ちゃんなんかが冒険者やる理由もねぇよなぁ?」


 ごもっとも


「確かに、そうです。でも、私には探してる人がいるんです。とても大切な友人で、ある日突然いなくなったんです」


 これは本当の事。


 ラッテ・リッタ先輩。最初はただ一方的に僕が、俺が救われた。最初はそんな出会いだった。


 あの先輩はただ真っ直ぐだった。不正や悪を許さない。そのせいで大きな事件になった事もあるけど、間違っていたとは思わない。

 あの先輩はそれでいて無垢だった。受けた恩は頑張って返そうと励み、そのおかげで勘違いする輩もいたが。流石にあれは自業自得か。

 あの先輩は情に厚かった。俺やレガートに対しても悩んでる人に対しても率先して解決に乗り出そうとした。本人に隠れて同好会が存在したと当時から噂もある。


 そして誰よりも優しかった。あの先輩を。もう、1人になんてさせたくない。


「誰かが見つけてくれるかも知れない。でもそれが誰かじゃ嫌なんです!。彼女に救われた私が今度は彼女を見つけたいんです!!」

「......随分とまぁ、ハッキリ言うじゃねぇか。どっすっかねぇ、まぁアイツの連れだってんなら一旦、」


「待って!」



 俺の言葉を聞いて困った様に頭を掻いたおっちゃんを見つめていると、後ろから聞き慣れた女の子の声が聞こえた。




ー レガート 視点 ー




 城内にある私の執務室。カレンになったカリアを見送った後、すぐに城へと向かった。


「魔王は倒されたけど、脅威が消えたって訳じゃないわ。なのに随分な盛況ね」

「あの土地は長らく恐魔大陸の脅威に晒されていました。港町でしたからね。此度の討伐隊での船団の貸し出しや補給路の確保等、多大な貢献を行いました。成した事に対する抑圧の反動は相当でしょう」


 そう答えるのは執務補佐のオネスティ。人手が欲しかった際、サラの推薦と面接の後、侍女から今の役職に引き上げた17の女の子。


「そうね。でも、辺境とはいえあの地を収めているのはお祖父様。つまり先代の教王様だわ」

「はい。ですが想定より収支の幅が大きくなっています。ある種の祭り状態なのは理解できますが。南のアルカディア、北のミルシアは我々程ではありませんが魔王軍との争いがあります。此度の事も各国の上層部が動いているでしょう」

「アルカディアは魔術の発展と大森林にお熱よ。魔王が倒されて間接的に利を得る事はするだろうけど、直接的な干渉は私達が魔王軍の防波堤な以上、向こうに利が無いわ。それならミルシア?あそこっていつも後継者争いをしてないかしら。でももし落ち着いてるなら、今いる子の中か誰かしら送り込んで来そうね」


 魔王が倒されてこの国は私が知る中で1番の盛況をみせている。


 東の帝国の言葉を借りるなら「人類の発展に戦争は必要である」との事。

 鵜呑みにはしたく無いけど実際にこの国には名うての冒険者が集い、騎士団や魔道士団が精強となり民間への被害を押さえ込んでいる。

 人々を守る技術や経験、それらを応用して出来得る情報の伝達速度向上や医療の発展。私自身は争いから得るのは如何なものかと、そう思わなくも無いけど。


「ん〜!それでも私が考えるべきはまず国内よ。それも聖女っていうわかりやすい旗印が失踪した事ね」


 大きく伸びをした後、決算済みの書類をオネスティに渡す。


「捜索隊は派遣してあるし、発見は時間の問題だとは思うんだけど、どうにも納得出来ないのよね」

「納得とは?」

「今代の聖女は人攫いに会うほど弱くない。そもそも討伐軍の帰路よ?勇者一行を襲ったのなら私の耳に直ぐに届くわ」

こちら王家寄りでもございませんね。レガート様やカリア様が交友がある以上、わざわざ聖女様に手を出す理由がございません。過去ほどの亀裂は生まれないでしょう」

「つまり、あっち教会寄りの可能性が高い。ラッテ・リッタは確かに聖女としてとても優秀よ。でも彼女はじゃじゃ馬なの。正義感と優しさのじゃじゃ馬」


 私が幾度あの女狐の尻拭いをしたと?直情的で情緒が子供。半端に知識があるせいで行動がチグハグ。

 後先考えず全力で誰かを助けるし、その癖「気にしないでね。わたくしは2人の様な関係に興味が無いから」とか言いつつ、カリアの初めてのキスを奪っていったあの女は絶対に許さ、


「あ、あのっ!お顔が怖いです。聖女様とは学友だったと伺っております。私が入学した頃には御三方は卒業されていらっしゃったので、あまり当時の事を詳しくありません。今後とも捜索を続ける以上、私も何があったかを知りたいと思うのですが」

「ん〜、いつか話してあげるわ。それより魔道士団長がそろそろ来る頃ね?出迎える準備をしてちょうだい」


 それでも私の大切な友達。「仕方ないわね」って世話を焼きたくなるそんな友達。





⭐︎⭐︎⭐︎


https://kakuyomu.jp/works/16818093086358720536

レガート視点で暗い話が進みそうなので明るい外伝を書きました。


応援やコメント、誤字脱字の指摘があれば私が泣いて喜びます。

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