第2話 新たな名はカレン
レガートとの婚約を認められてから数日がたった。
これから数年住む屋敷は学生時代に幾度もお世話になった屋敷である。
冒険者としての活動で寮の門限が守れない時や、ラッテと無茶をした時によくお世話になったもんだ。
眠気の残る目を擦り、掛け布団を取る。欠伸も出るしこの身体もしかして朝に弱いのか?
「おはようカリア。起きたのね」
「ふぁ、おはようレガート。今日も可愛いね」
「ふふっ、ありがと。顔洗ったら食堂に来てちょうだい。今日はサラが作っているわ。貴方も可愛いわよ?」
「っ!!!......可愛くないって。俺なんだし。着替えるから少し待ってもらえるかな」
魔王を倒した後、俺の身体は男では無く女の子になっていた。
数日前までそれなりに高かった身長が、レガートを見上げるくらいまで落ち、顔付きも同年代のレガートと比べだいぶ幼くなってる。なんなら1歳上なのに俺達より全体的に見た目が幼いラッテより幼い印象だ。
挨拶を終えたレガートが食堂に向かい、1人になった部屋で全身鏡の前に立つ。
「はぁ。ほんとどうなっちまうんだろうなぁ、俺」
髪色は淡い水色。これは変わっていない。髪型は肩上まで伸びており、レガートの指定で毛先が若干内巻きになっている。大きな翡翠の目は瞼が上がりきっておらず、雄弁に寝不足を語っていた。
身体に比べ大きい白地の服を着ている為かレガートの言った「可愛い」にも納得が......
「いやナイナイ。絶対無い」
俺は思考を頭を振る事で無理やり外に追いやり、動きやすさを重視した部屋着に着替えて部屋を出た。
⚪︎⚪︎⚪︎
「おはようございます。カリア様。昨日は良くか眠れましたか?」
「おはようサラ。良く眠れたよ。ありがとな、俺の世話までさせてしまって。大変なら手伝うから、いつでも言ってくれ」
「お気遣い感謝します。ですが、レガート様の専属侍女たるもの婚約をされたカリ「朝から堅苦しいわ!」」
「うわっと、と。びっくりした。脅かさないでくれレガート。こけかけたわ」
「ん〜、ねぇカリア?なんでサラとカリアって一歩引いた仲なの?学生の頃から合ってるわよね?」
レガート専属侍女のサラ。年齢は怖くて聞いた事無いが、レガートが乳児を過ぎた頃から専属侍女として付き人をしていると聞いた。
初めて会ったのは、初めてレガートに屋敷に連行された時だったか。
あの時を思い返すと今だに寒気が......。
「大丈夫。あまり気にしなくても、これから仲良くなってくよ」
「えぇお嬢様。これからです」
「ん〜、そう?本当に?2人が良いなら私は良いわ。これからの事を考えたいし、2人とも席に着いてもらえる?」
家主であるレガートが8人掛け机の議長席。俺が向かって右の上座。サラが俺の正面。
「他の人達はどこ行ったんだ?」
「あまり他言はしたく無いし、今日はこの3人になるわ。話の前にサラが作ってくれた料理を食べましょう?冷めては勿体無いわ」
「了解」
そうして俺達はサラの作ってくれた料理を各々口に運んだ。
朝食の献立は卵の乗ったトーストに新鮮な野菜と果物。良く焼けたトーストは大変味が良く、俺が良く食べる事も考えてトーストが多いのも嬉しい。
とはいえ前ほどは食べれてないんだよな。一口も小さいし。
「ご馳走様、美味しかったわ。それじゃ始めましょうか」
「俺の身体の事だよな?あれからこの屋敷の中でしか生活してないけど、ずっとこのままって訳にもいかないしな」
「えぇ、その通りよ。あれからずっと屋敷の中で生活してもらっているんだもの。......でも!やっと受理されて動ける道筋が出来たわ!」
「受理?」
「そうよ。今日からよろしくね?カレンちゃん?」
ー レガート視点 ー
一生懸命頬張ってたカレンちゃんは何にも代え難い可愛いさね。
カリア(カレン)には幾つかのお願いをして冒険者協会に行ってもらった。
まず一つ。これはカレンが今の身体に慣れるために冒険者として活動する事。魔王を倒して、はい終わり。になるほど戦いは楽では無い。
二つ。カレンの地位を確立させる。カレンはカリアなんだけど、そのまま公表すると「王女の伴侶って女なの?」って話になるし、そこから「では私が代わりに」なんて輩が出ないなんて言えない。
その為に、カレンとしての欠点(欠点なんかじゃ無いけど)を補えるくらい地位を上げ、私達が性転換に対する特攻薬を作り終えるまでの時間稼ぎをこの数年行う。
そして三つ。行方不明の聖女、ラッテ・リッタの捜索。魔王軍討伐隊の帰路中で居なくなったとカリアから聞いた。
カリアを屋敷に軟禁していたのは二つ目が理由。カレンの身分を作るために少しばかり無理をしたけど、必要な事。
「ねぇサラ、今日の予定は何かしら」
「昼前には城に戻り執務。午後からは魔道士団団長から面会の予約があります」
「うげっ、え、なに。魔道士団が私に?今の団長って
「言葉遣いを戻してください。はい。恐らくは。ラッテ様の失踪は私達にとっても予期していない事でした。教会の旗印であった彼女の行方をあちらも気になっているのでは?」
「ん〜、でも当人であるカリア達に聞いても知らないって言うし、現地に居なかった私が知ってる事もほぼ無いのよね。カリアが男淫魔に呪いを受けた責任を感じて逃げちゃったのかしら」
言いながら「それはないな」と考える。あの1つ上の先輩は見た目こそ優しさの塊みたいな雰囲気だけど、その実私達3人の中で1番苛烈な性格をしている。
「城に向かうわ。準備をしてちょうだい」
「はい。畏まりました」
全く。世話の焼ける先輩だわ。
⭐︎⭐︎⭐︎
https://kakuyomu.jp/works/16818093086358720536
この先レガート視点で暗い話が進みそうなので明るい外伝を書きました。
応援やコメント、誤字脱字の指摘があれば私が泣いて喜びます。
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