040 それぞれの休暇 〜グルズ・ヴァイクの場合〜

「親父殿、稽古を付けてくれないか」


ソファで寛いでいるグルことグルズ・ヴァイクに息子ウルスが申し出た。


「おお、どれだけ強くなったか見てやろう」


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訓練場へ着くと、兵士たちが一斉に敬礼し、グルへ羨望の眼差しを向けた。


「おお!グルズ殿!」


「ご子息もご一緒ですか。精が出ますな」


円卓の騎士にして民間警備会社の経営者でもあるグルは、育成に関してもエキスパートだ。


軍や警察にもグルの教え子は多数在籍している。


「皆その調子で頑張ってくれ。我輩でよければいつでも練習相手になろうぞ」


その言葉にざわめきが起きた。


「本当ですか?是非一手、御指南お願い致します!」


「私もお願いします!」


「しからば愚息と手合わせがあるのでな。その後にお相手しよう」


ざわめきが更に勢いを増す。


「いやあラッキーだぜ!あのグルズ・ヴァイクの模擬戦が観れるなんて!」



円卓の騎士団でも近接戦は最強と謳われるグルとその息子、ウルスとの手合わせなんて滅多に観られるものではない。


ギャラリーが多数集まる、ちょっとしたイベントと化してしまった。


喧騒の中、2人は対峙した。



「全力で来なさい。決して手を抜くなよ」


「丸腰でいいのかい?親父殿」


ウルスは自信たっぷりだ。この恐るべき獣人の少年は、齢15にして既に小隊長クラスの力を持っていた。


尊敬すると同時に、超えるべき対象である父親との試合なのだ。


きっと実力以上のものが発揮されるだろう。


その潜在能力たるや如何程のものか想像もできない。



「行くぜ、親父殿!」


ウルスは魔力で身体強化をすると、高速の低い軌道でグルの懐に潜り込んだ。


木製の戦斧を振るうが、グルは紙一重で避ける。


「おお、速くなったな」


「まだまだこれから!」


2人の攻防は続くが、ウルスの斧がグルに当たることはなかった。


「すげえ・・・・」


「ウルスも相当やるようになったな」



「はあ・・・・はあ・・・」


距離を取り先に息を切らしたのは、当然ながらウルスだ。


「少しは差が縮まったと思ったんだけどね。とんだ思い上がりだったよ」


「いいや、お前は確実に強くなっているぞ。吾輩より強くなるのも時間の問題だろう」


「ありがとう親父殿。ただ・・・・一矢ぐらいは報わせてもらうぜ!!」


ウルスは戦斧をグルに向かって投げつけた。


グルは水平に高速回転しながら襲い来る斧を難なく受け止めるが、そこまではウルスの計算通りだった。


投擲と同時に、斧の影に潜むように走り出していた。


「これでどうだ!」


ウルスは斧の柄に仕込んであった木剣を両手に握り、縦横から同時に十文字に斬りつけた。



「な・・・・?」


同時に襲い来る回避不可能とも思えた、完璧な連撃だった。


しかしグルは、それぞれの手の2指で挟んでいとも簡単に止めた。



そして指をチョイと捻ると、木剣ごとウルスが回転した。


「おおおおお???!!!」



〈おおおおお・・・・〉


兵士たちから感嘆の声が漏れる。



「まだまだ甘いな。息子よ」


「・・・・親父殿より強くなるって、何年先の話なんだい?」



「さて、待たせたな。稽古を付けて欲しいものからかかってきなさい」



ボルドー国の兵士たるもの、この程度で委縮するはずがない。


たった今別次元の強さを見せつけられたにも関わらず、次々に名乗りを上げた。



「私からお願いします!」


「その次はオレだ!」



「やはりボルドーの兵は気骨がある。鍛えがいがあるぞ」


グルは休暇というのも忘れて稽古に没頭するのだった。

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