039 束の間の休息
その日の王都は久方ぶりの快晴だった。待ち合わせスポットとして有名な噴水広場では、ある一団が周囲の注目を浴びていた。
「あ!フラワー!こっちこっち!」
「すまない、待たせたな」
「全然!みんな今来たところよ!これで全員揃ったわね!」
「うむ、とりあえずカフェだな」
円卓の義の翌日、騎士団の女性陣5名は休暇を満喫するため、そしてアイダと親睦を深めるために集まっていた。
(え?・・・・・マリー様?・・・・)
(フラワー様・・・・拝顔できるなんて今日はラッキーだわ)
(俺はやっぱりエヴァのファンだな。次の舞台も楽しみだぜ)
(私はヴィヴィアンね!あのファッションセンス!憧れちゃうわ!)
(団長までいるぜ・・・・あの美人は誰だ?見たことないぜ)
円卓の騎士の女性陣5名が揃って散策している様など、『知性のある魔獣』並みにお目にかかれないだろう。
おまけにもうひとり謎の美女が混ざっている。
6人が集まり、歩みだすと、華やかさなんて言葉では推し量れない、著名な絵画でも観ているかのような美しさだ。
特にフラワーへの視線は凄まじいものがある。
ボルドーでは舞台役者よりも人気があり、各地で電気の普及がスムーズに行えたのもフラワーの力が大きいらしい。
「いつものことだよ。気にしていたらキリがないさ」
「ウェルフルでも名前は聞くけどさ、こんなに可愛らしいとはねえ」
「あなたも負けないぐらい注目を浴びているよ。アイダ」
6人はカフェのオープンテラスで紅茶を飲みながら談笑していた。
「ホントに驚いたわよ。あの風来坊が女性連れで帰ってくるなんてさ」
ヴィヴィは最も早くアイダと打ち解けていた。
「なんだか運命的なものを感じてねえ。不思議な感覚だったよ」
「それにしても素晴らしく相性がいいわ。今まで視たことがないぐらいよ」
「ヴィヴィの占いは未来視に近いんだ。運命と言っても過言ではないよ」
「アタシも不思議なんだけどさ、なんとなくハンキーのやらかしそうなことはわかるんだよ」
「凄いな、私は未だに全く読めないよ」
スティは決して感心していない。呆れたトーンで呟いた。
「あはは、あの子も丸くなってきたってことじゃないの」
「そうですよ、いつまでもあんな調子では騎士団としても困りますわ」
年長組、と言っても見た目は20代にしか見えないが、エヴァとマリーですら手を焼いている様子だ。
「それがさ、フローギィフのプレゼンで・・・・」
例の事件を話すと、一様に態度が変わった。
「あっはっは!!全然丸くなってないじゃない!!」
「あいつらしいな。だがいつの間にか周りを巻き込んでいるんだよ」
初めてのティータイムだったが、アイダの人柄もあるだろう、みんなでゲラゲラ笑い合えた。
その後も6人はどこへ行くにも王都民の注目を浴びたが、ショッピングや観劇を楽しんだ。
そして夕刻・・・・。
「っと、そろそろ時間だな」
「ホントにアタシも参加していいのかい?」
「無論だよ。騎士団は部下ではない。対等な仲間さ。もちろん君もだよ、アイダ」
「そしてニーナや私にとっては家族なのよ」
エヴァがどこか悲しげな笑みを浮かべてそう言った時、アイダは自分もその輪に入りたいとたまらなく思った。
一角にある庶民的な店には、【本日貸切】の看板が掲げられている。
内装もこれまた庶民的で、とてもボルドー国最強の集団 御用達の店だとは思うまい。
レストラン『ペーパーバック』では豪勢とは言い難いものの、家庭的で純朴な料理が円形のテーブル一杯に並べられていた。
「いらっしゃいスティ団長、もうみんな揃ってるわよ」
「いつもすまないなシードル」
テーブルにはボルドーに残った騎士たちが勢ぞろいしていた。
「ハンキー!来てたのかい?!」
「ああ、騎士団の飲み会は楽しいぞ。みんなクレイジーだからな」
「とりあえず今日の主役から挨拶が要るな」
スティがハンキーに促すと、立ち上がりジョッキを構えた。
「改めて紹介する。この度、俺の妻になったアイダだ。と言っても祝言はまだ先になるだろうがな。これから皆とも任務に当たることになるだろう。よろしく頼む」
「アイダと申します。気軽にアイダと呼んでいただきたいわ。これからよろしくね」
「みんな、本当にご苦労だった。今日は大いに飲んで食べてくれ!!乾杯!!」
スティの音頭で宴会がスタートした。
「しかしお前がなあ・・・・」
ラッピーが茶化すが、ハンキーはいつも通りだ。
「俺とて男だ。女性に興味がないでもない」
「なんというかまあ、安心したぞ。私が言うのもなんだがな」
騎士団の芸術家ラブも女性にあまり興味がないが、エルフとドワーフのハーフである自分と比べるものおかしいだろうと思っていた。
「こいつも少しは丸くなるだろう。少なくとも急に旅に出たりはせんだろう」
ブライがそれとなく釘を刺すと、ハンキーは内心ギクリとしたが、ポーカーフェイスの彼はそれを悟らせない。
「騎士団の妻帯者はブライ殿とクレオと吾輩だけだからな。ハンキーも早く家庭を持て。家族はいいぞ」
「わかってるさグル。お前のような親父になれる自信がついたらな」
「待っていてもそんな日は来ないぞ、責任感が男を父親にするんだ」
騎士団唯一のドワーフであるクレオも酒が入って説教モードになっている。
「ラッピー、フー、お前らもよく聞いておけよ」
「そうだな。貴殿らもハンキーより年上なのだから、身を固めるべきだぞ」
ハンキーはその魔力で上手い具合にターゲットを逸らした。
「お前に言われたくねえよ、ガハハ」
「まったくだ。俺らはいつもフラフラしてるわけじゃないんだぞ」
ハンキーにとってはじめて出来た家族は騎士団なのだ。
だから、今だけは騎士団が家族で満足であった。
エヴァやニーナ、フーだって身寄りのないものは誰もがそうだ。
そしてアイダにとっても家族になる。
いつか本当の家族ができるまでは。
騎士団の楽しい夜は更けゆく・・・・。
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