038 円卓の議 Part.1

ハンキーたちが王都へと帰還して3日後・・・・。


円卓の騎士たちは宮殿に集まっていた。



騎士だけではない。政治家やギルド長、資産家や周辺の貴族、科学者たちまでもが一堂に会した。



宮殿には『円卓の間』と呼ばれる、魔法で隠匿された秘密の部屋があるのだ。


そこは強固な結界で守られ、外界からその様子を伺い知ることは神でもできない。



円卓には13人のナイトが腰掛けている。


その周囲を取り囲むように2階席から政治家、権力者や科学者たちが会議を見守っている。



「女王様、首相に大臣やギルド長の皆様もお集まりいただき感謝します。円卓の騎士団団長、ステラ・レモンが進行を務めさせていただきます」


「畏まらなくていいのよスティ。貴女たちがこの国の要なのだから」


優雅な振る舞いと気品の中にも、どこか茶目っ気を感じさせるこの女性こそが、ボルドー女王・エリリア1世その人だ。


噂によると王族にしか使えない特異な魔法を使うらしい。


「恐れ入ります女王様」



ボルドー国で最も卓越した組織であろう、円卓の騎士団による会合が行われようとしていた。




「皆、電気の普及任務ご苦労だった。早速ですまないが、順に報告を頼む」



「では、我輩から行こう」


「うむ。頼んだぞグル」



250cm以上はあろうかヒグマの獣人だ。巨体を揺らしただけで地震が起こりそうな迫力を醸し出す。


しかしその語り口は穏やかで理知的な性質を感じさせるものだった。



「カレアットランド西部担当、マリア・シナト、クリープ・レッド・レオ、グルズ・ヴァイク班より報告致す」


「首都スルヴィンデに於いて、エヴァ・ラッピー班に国王様と各大臣を交え会談。その後西部の各地へ『六天』と軍・警察の協力を得て任務に当たった。各地の魔物・各人類の代表にも話を通すことができた。2日前の報で発電所建造地の選定が終了した。事業に取り掛かる予定だ。任務完了を報告する」



「じゃあ私たちの番ね」


エヴァが腰をあげる。


「カレアットランド東部担当、カミラ・ヴァニア、ラッピング・ビースティー班より報告します!」


「右に同じく首都スルヴィンデに於いて、マリー・クレオ・グル班と共に首脳陣と会談。『三竦み』と『人魔連合』に協力を要請し、カレアットランド東部での啓蒙を終えました。更にカレアットの魔物の長と面会。労働力の提供を約束してくれたわ。以下同じく。任務完了よ」




「オレたちの番だな」


そう言ったのは、この国では知らぬ者のいないソーレースの大記録保持者、フートミーであった。


「ワイズランド南部担当、ハナコ・イカヅチ、ラブエル・ラブ、フートミー班より報告です」


「首都ニルダブにてニーナ・ブライ班及び 国王様含む首脳陣と会談。南部での普及の際『五帝』の助力を得ることができた。当然ながら各種族、魔物に到るまで協力を得られることになった。建設候補地の選定を進めている。任務完了です」




「ふむ、儂らからだ」


「ワイズランド北部担当、シャルロッテ・ディーゼル、ブライアン・セノージュ班より報告」


「首都ニルダブにてフラワー・ラブ・フー班と共に首脳陣と会談。その後『四聖』と合流。軍部と警察の連携を取ると共にワイズランド北部で普及を行い、これを完了した。各種族と魔物に関しては『四聖』に一任しておる。任務完了」




「最後に俺だな」


「ウェルフル全域担当、ハンキー単独班より報告します」


「まずは東部の有力者、その後 王都フローギィフにて国王陛下と王太子殿下、各官僚、ギルド長と商談を終えたぜ。各地の状況も確認し問題なし。各種族と魔物の長に関してはクラレンス王太子殿下と『十傑』に一任してある。発電所建造地の選定も完了し、資材を集めている。ボルドーからの人員待ちだ。任務完了」



〈パチパチパチパチパチ〉


皆が報告を終えると、2階席から拍手が巻き起こる。



「みんな限られた時間の中でよくやってくれた。現状最も好感触なのはやはりウェルフルだな。だが他2国も問題はないだろう」




「ギルド長たちに於いては今後の公共事業が気になるところだろう。詳しくはサラランが纏めた資料に目を通してれ」


「進捗状況は随時ヴィヴィアンより報告させていただく」



「以上、会議を閉会致します!!」



スティの号令により、会議は幕を閉じた。



〈凄いことになりそうだな〉


〈うちのギルドも人出が足りるか心配だよ〉



-------------


「お疲れ様スティ、私は国務に戻るけど、無理だけはしちゃダメよ」


「お気遣い痛み入ります女王陛下。女王様もどうか自愛ください」


「うふふ、ありがと。報告を楽しみにしているわ」


女王とスティもまた、立場の違いはあれど友人なのだろう。或いは仲の良い姉妹の様ですらあった。


----------------


騎士団はその後も円卓の間に残り、密に情報交換をしていた。



「しかし各国の強者と連携を取れたのは思わぬ収穫だな」


「ブライ、『四聖』と行動したのか?どんな奴らなんだ?」


「ホッホ、あとでゆっくり聞かせてやるわい。まだまだ凄いやつらが育っておるぞ」




「進展があり次第通達する。それまでは各自の仕事に取り掛かってくれ・・・っとその前に休暇だな」



トランプ人はどんな時でも休暇を忘れない。それがいい仕事に繋がることを理解しているからだ。



「ああ、もうヘトヘトだぜ」


タフガイのラッピーでさえ相当参っているようだ。



「エヴァ、公共事業と絡めた経営戦略に関して相談したいのだが・・・・」


「いいわよ。そのかわり血を分けてね」


エヴァとグルはこんなときでも仕事のようだ。



「わたしは一度孤児院に帰るね。すぐに戻るわ」


ニーナは久方ぶりの里帰りとなるのだろう。



「休暇ねえ・・・どうするハンキー?」


「俺は旅先で思いついた曲を創るぜ。しばらく工房に籠る」


「それって休暇なのかい?・・・・まったく」



アイダが久々に不満そうだ。



「それじゃアイダは私たちと遊びましょうよ」


こんな時に声を掛けてくれるのは、騎士団唯一の妖精で後方支援の要であるヴィヴィだ。



「いいのかい?」


「もちろんよ、ハンキーの奥様だもの。旅先の話を聞かせて下さる?」


「それじゃ、お邪魔するかねえ」



円卓の騎士として過酷な任務を決定付けられた彼女たちが、年頃の娘に戻れる貴重な時間だろう。




「それじゃ明日王都の噴水広場でね。団長、フラワー、マリーとエヴァもいいわね?」


『異議なーし』



胸が踊る、楽しい休暇の始まりだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る