037 迎える騎士たち

「みんなは仕事か?」


「当たり前だろう、各々仕事に取り掛かっておるわ。ワシやお前と違って暇じゃないんだ」


(やっぱり王室警護隊の相談役って暇なのね。ブライさん)




「仕事って言ってもラッピーは筋トレだろ?ラブやエヴァだって、あいつらは暇なはずだろ?」


「む・・・そ、それでもやることがあるのに変わりはないのだ」




「遅かったなハンキー」


少年とも少女ともつかない、凛としたその声の主は頭上からだった。


腰に掛かるほどの長い黒髪を束ねた、黒い瞳の女性が気配もなく空中に佇んでいた。


「飛翔魔法かい?」


ひとたび街を歩けば誰もが振り返るだろう。映画の看板女優を張れるほど美しい顔立ちだ。


特徴的なその異国の装束は、『ハオリ』と呼ばれる大ジパン帝国の名産品だった。



「ただいまフラワー。相変わらずだな」


「そちらがアイダ殿だな、ハンキーが世話になっております。私はハナコ・イカヅチと申す」


「あなたが東方の剣士フラワーさんですね。ハンキーから聞いておりますわ」


「ええ、是非フラワーと呼んでください」



なんたってあのハンキーが女性を伴って帰ってきたというのだ。


皆、どんな人物か興味津々だった。



「みんな、話したい気持ちはわかるがアイダも疲れているんだ。後にしてくれ」



「うむ、今日のところは2人ともゆっくり休んでくれ」


「ああ、貴殿がいないとはじまらないからな。これからまた忙しくなる」


「・・・・おっと、その前にまた忙しくなりそうだ」


フラワーがそう言うと、さらに上空から何かが落下してきた。



「ハー!!!ンー!!!キー!!!」


「ええええ????」


『バスン!!!』



ハンキーが仕方なしと言った態度で両手で受け止めた。


慣れているのか、アイダ以外誰も取り乱した様子がない。


信じ難いというより、信じたくはないがこれが日常なのだろう。



「会いたかったわよお。お母さんが恋しかったでしょう?」


落下してきた人物は、どうやら『天涯孤独』の母親らしい。



「エヴァ・・・・この登場の仕方は辞めてくれないか?」


「避けないで受け止めてくれたくせに❤︎」


「エヴァが怪我をするだろう」


「すぐ治るから平気よ」




「今度は母親かい?一体、天涯孤独ってのは何人の家族がいるんだい?」


その女性の肌色たるや、明るい人柄と相反するように病人ほどにも白く、痩躯な身の丈はハンキーを幾分か超えるほどだった。


「あなたがアイダね。カミラ・ヴァニアよ、エヴァって呼んでね。騎士団はみんな私の子供みたいなものよ」


「エキセントリックな人だねえ。歳も私とそう違わないだろう?」



「エヴァは500年以上は生きてるぞ」


「何バカなこと言ってんだい。そんな生き物・・・・・まさか?」


この肌色といい、魔物特有の魔力の質感といい、答えは一つだ。


「そ、ヴァンパイアなの。私」



「おお、はじめて見たよ。じゃあ、アタシにとっては義理の母親ってわけですね」


「・・・・・ハンキー・・・なんていい娘を連れてきたの・・・・ようやく親孝行をしてくれるなんて・・・・」


エヴァは感涙で咽び泣いた。


「エヴァ、もうそのノリは辞めてくれ・・・・」


「あ、そう?というわけでよろしくねアイダちゃん❤︎」


次の瞬間には、既に涙が乾いていた。


これも円卓の騎士の成せる技なのだろうか?




「そういえば、帰ってきたところで次はどうするんだい?」


「まずは女王様たちと騎士団で会議だな。いくつかミッションがあるからチームを再編して対応するつもりだ」



「アイダも同席してくれ。構わないだろう?」


「うむ、此度の任務はアイダの貢献が大きいしな。当然のことだろう」


「ちょ、ちょっと待っとくれよ、女王様たちと会議?冗談だろ?」


「アイダはこれから俺のパートナーになるんだ。女王様と騎士団の皆にも紹介しておかなければならん」



集結した騎士たちも納得の様子だ。


「うむ、此奴の面倒を見切れる者が現れるなど思わなんだぞ」


「この風来坊の手綱を握れるのは貴女しかいないよ。ハンキーを頼む、アイダ殿」


「不肖の息子だけどよろしくねアイダちゃん❤︎」


「不束な兄ですが、よろしくお願いしますアイダさん」



みんなここぞとばかりに言いたい放題言っている。



「お前ら・・・・」


「まったくしょうがないねえ、任せときなよ!」


アイダもすっかりその気になってしまった。

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