吟遊詩人ハンキーの旅:王都への帰還
036 帰還
ハンキーとアイダは早朝ウェルフルの王都フローギィフを発つと、汽車とソー車を乗り継ぎその日の夕方にはボルドーの王都ドノンへと帰還した。
「ボルドーには何度か遊びにきてるけどさ、ドノンってのは初めてだよ。ここまで凄いとはねえ」
ボルドーランドの王都ドノンは、この世界のこの時代に於いて、世界最高の工業都市だった。
土地面積こそ広くはないものの、技術力や工業製品の生産高は紛れもなく世界一であり、まさに世界の中心地であったのだ。
「とりあえず王立研究所に向かおう。誰かしらいるはずだ」
昨日のうちに円卓の騎士団で通信を担当するヴィヴィに連絡を入れてあった。
と言っても昨日の今日だ。せいぜい数人に会えればいいだろう。
ソー車はまるで寄宿舎や工場とも収容施設とも捉えかねない、無骨極まりないレンガ造りの前で止まった。
一見しては、誰もこの建物が世界最高峰の研究施設だとは思うまい。
「ずいぶんシンプルなんだねえ」
「物好きな奴らが寝る間も惜しんで研究するだけの場所だからな。装飾なんていらないのさ」
門を警護している2人の衛兵が勢いよく叫んだ。
「お疲れ様であります!サー・ハンキー!」
「ご帰還お待ちしており申した!」
心なしか、いつも冷静なハンキーが困り顔になった。
「冗談はやめろよ。ビッグス、ラージィ」
「プッ・・・・・わっはっはっは!!」
「はっはっは!お前が遅いから悪いんだぞ!みんな待ってたんだ!」
「どうぞご婦人。お話は伺っております」
彼らも王室警護隊として立場の違いはあろうとも、ハンキーとは友人なのだろう。砕けた態度で冗談を言い合った。
「フフッ」
「どうした?」
「なんていうか、ハンキーらしいなと思ってさ」
研究所に足を踏み入れた途端、強力な魔力がいくつも感じられた。
やはり、トランプ国で最高の研究機関というのは伊達じゃないのだろう。
・・・・?
とりわけ強力な魔力が高速でこちらに向かってくる。
次の瞬間には、爆煙と共に眼前に現れた。
『キキキキキキキキ!!!!!』
「ゴホッ!ゴホッ!一体なんだい?」
「ハンキー!!!!」
捲き上る砂塵の中から甲高い声がした。
モクモクとした白煙を風魔法で纏め上げたその声の主は、小さな女の子だった。
「お帰りハンキー!!!!」
そう叫ぶとハンキーの胸に飛び込んできた。
「うぐっ!おいおい・・・・手加減してくれ」
「おっとっと、誰だいこの子?」
「あなたがアイダさんですね!!わたしはシャルロッテ・ディーゼル!!ハンキーの妹です!!」
「アンタ、天涯孤独って言ってなかったかい?」
シャルロッテは跳躍するとハンキーの両肩に肩車で腰掛け、帽子を奪い取り自分の頭に乗せた。
「会いたかったよお兄ちゃん」
「・・・・誤解を招くから辞めてくれ、ニーナ」
「この子はシャルロッテ。円卓の騎士団のメンバーで、ベルケルヘン帝国の出身だからニーナと呼ばれているんだ」
「この子が??まだ子供じゃないか??」
只者でないことは無造作に放っている絶大な魔力だけで、即座に理解できた。
しかし、妙な既視感を覚えた。
「どこかで見覚えがあるわね・・・・?」
「ははは、12歳だよ。半年ほど前の新聞で読んでいないか?」
「・・・・ああ!!!」
「思い出したか?歴代最年少博士号、天才少女シャルロッテ嬢だ」
「円卓の騎士だったのかい???」
「ああ、魔法も天才的だぞ。俺より何十倍も強い」
「・・・・そりゃ納得するしかないねえ」
「遅いぞハンキー!!!」
「おっと、副団長殿がお怒りのようだな」
白く長い顎鬚を蓄えた老人が中庭に設置されたテーブルで待ち構えていた。
既に紅茶の用意をしてある所を見ると、態度とは裏腹にハンキーの到着を待ち焦がれていたのだろう。
「いつもすまないなブライ。ま、これからも頼むぜ」
「少しは反省せんかい!!まったく、1人でウェルフルを回るなど・・・・もう少しでマリーたちを迎えに行かせるところだったぞ!!」
「マリーは帰り辛いだろう」
「ふん、わかっとるなら良い」
これが2人にとっての労いなのだろう。
憎まれ口を叩いているようで、それが心地好さそうだ。
「貴殿がアイダか。挨拶が遅れたのう、ワシはブライアン・セノージュ。円卓の騎士団副団長兼・王室警護隊相談役だ」
「アイダと申します。お話は予々」
「苦労するだろう?こいつの面倒は」
「ええ、とんでもないことやらかしてばかりです。お陰で退屈はしませんけどねえ」
「そこがお兄ちゃんのいい所じゃない」
アイダとニーナ、ブライはすっかり打ち解けたようだ。話題が些か引っかかる所だが・・・・。
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