032 Concert !!!
「押さないでください!!順番に並んで入場してください!!!」
『その日』は警察や軍からも大勢のスタッフが動員され、入場だけでも数時間を要するほどであった。
会場である王都中央公園の轟然に対して、市街は静まり返っていた。
警察やインフラに携わる者たちの間でも、休日を取るために抽選が行われたという話だ。
遂に、遂にこの日がやってきたのだ。
旅の吟遊詩人ハンキーが、過去最大規模のコンサートを開催する。
王都フローギィフの中央公園野外音楽堂には、ウェルフル中から収容人数を遥かに超える5万人の群衆が詰め掛けていた。
それはさながら収穫祭のようでもあったし、百貨店のオープンだとか、年に一度のお祭りみたいな浮ついた感覚。
決定的に違うことは、誰もが未知の体験をするだろうという、非日常をリアルに感じられるその熱だった。
今、自分はウェルフル、いや世界の音楽史に残る大事件に立ち会っているのだ。
「・・・・・・こりゃ凄いわねえ」
「ウェルフル始まって以来かも知れないよ。やはり凄い男だな」
刻一刻と開始時刻が迫る・・・・。
観衆の期待は、はち切れんばかりに膨張している。
間も無くスタートという時、ステージある人物が上ると、観客に大きなどよめきが起こった。
その人物とは、ここウェルフルで歴史上最高の名君と謳われる、エドワード・ピースメーカー王その人だった。
エディ国王は、アーティファクト『アンプリファー』に繋がれた『マイク』を手に持った。
「今日は皆の来場に感謝する!!」
「すべての発端は、旅の吟遊詩人がウェルフルの地を踏んだその時から、そして今!!!」
「皆の心をひとつにすべく、その男が最後のコンサートを行う!!!」
「国王として、ひとりのウェルフル人として皆に感謝する!!!!今日は楽しんでいってくれ!!!!」
強烈で強靭な、途轍もない歓声が起こった。
〈ピースメーカー王ーーーー!!!〉
〈ウェルフル万歳!!!〉
「それではお待ちかねだ!!!」
「稲妻の吟遊詩人ッッッッ!!!! ハンキィィィィーーーー!!!!」
国王の熱い熱いMCが終わると、ハンキーがステージに向かって跳躍した。
着地と同時に、王都中を震わすほどの大歓声が起こった。
エディ国王が去り際にハンキーとハイタッチを交わすと、更に会場のボルテージが上がった。
「Ladies & Gentlemen !!!!」
「今日はお集まりいただきありがとう!これが吟遊詩人ハンキー、ウェルフルでのラスト・コンサートになります!!」
そして帽子からマンドリンを取り出すのだ。
〈おおーーー!!!!!〉
〈ハンキー!ハンキー!!〉
「まずは一曲!!ウェルフル国家を歌わせていただきます!!!」
〈オオオオオオオオオ!!!!!!〉
国家を歌い終えると、いよいよ稲妻の吟遊詩人の真骨頂だ。
エレキギターを肩にかけると、ケーブルでアンプに繋ぎ止めた。
その雷名に違わぬ雷鳴が鳴り響いた。
「いくぜェェェェ!!!!」
〈オオオオオオオオ!!!!!!!!〉
雷鳥の歌声とエレキギターの轟音がその場のすべてを飲み込んだ。
言語も、思考も、感覚も、日常の憂いも、何もかもが洗われていく。
今この瞬間、フローギィフ王都中央公園野外音楽堂は、世界中で最も熱いエネルギーが集まっていた。
ハンキーも全身全霊を込めて歌った。
魂のすべてをエレキギターに込めて搔き鳴らした。
何かも忘れるぐらい、滅茶苦茶になってくれ!!!!
そしてコンサートの終盤、ハンキーは語り始めるのだった。
「皆も知っての通り、あと5年で魔王の封印は解ける」
「しかし、心配はいらないぜ。電気エネルギーがあればな」
「これは国を挙げての戦いになる。ボルドーもウェルフルも関係ないぜ。みんなの力が必要だ」
「俺は平和になった世界で!!またみんなの前で歌いたい!!!」
「最後の曲だ!聴いてくれ!『 Love & Peace 』!!!」
〈いいぞー!ハンキー!!〉
〈俺たちも戦うぜーー!!!!〉
「ありがとうウェルフル!!」
「また来るぜ!!」
「その為にも世界に平和を!!!!」
鳴り止まない大歓声に見送られながらステージを後にした。
〈ハンキー!ハンキー!!〉
今夜だけは、夢を見ていていいだろう。
明日からは遂に戦いが始まるのだから。
皆が一丸となった、本当の戦いが。
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