031 Goin' On The Heat
議事堂では、クランが熱弁を奮っている。
その屋上で2人は、暖かな午後の日差しを満喫していた。
「良かったんですか?殿下に任せちゃって」
とは言うものの、明らかに欠伸を堪えながらニドリムが問う。
「心配なのか?」
ハンキーが足を組んで寝転がり、帽子を目に被せながら、半分眠りに落ちたような声で答えた。
「いえ、全く」
「あっはっは。それより、ニドリムもクランの話をよく聞いておいてくれ。これから国の一大事業になるぞ」
「ハンキーさんがそう言うなら・・・・」
ニドリムも勿論、ハンキーの行動の意味は理解している。
「でも、本当に妙な人たちですね」
「ん、やはり鋭いなニドリム。アイダ以上だ」
軍・警察幹部やギルド長をはじめ、王都の有力者が一堂に会しているのだ。
何か悪行を起こすなら今を置いてこれ以上の好機はないだろう。
暗殺、拉致、立て篭もり、爆破テロ。
しかし、白ローブの連中やポイント元少佐に動きはない。
ハンキーも一応警戒はしているようだが、半ば確信的に何も起こらないといった風体でいる。
「本当に・・・ただの愉快犯なんでしょうか?・・・・なんだかもっと・・・なんというか、事情がありそうな・・・・」
「・・・・本当に君は鋭いな。すまない、今はまだ話せないんだ」
「わかってますよ。先生」
そうこうしているとプレゼンが終わった。
大きな拍手が巻き起こる。
確かな熱気と手応えが、屋上の2人にも伝わった。
「それじゃ、行きますか」
ハンキーが窓から颯爽と議事堂に飛び込んだ。
「 Ladies & Gentlemen !!!! 」
「クラレンス殿下のプレゼンをご静聴いただきありがとうございます!!!」
「おおーっ!」
実際のところ皆、半分ぐらいはこれが目当てだったのだろう。
集まったものは総立ちになり、先程巻き起こった熱気は更に高まりを見せた。
「ハンキーのやつ・・・・」
「うむ、ここまで計算しておったか」
「クラン、わかってると思うけどさ」
「ああ、いつだってハンキーは私の背中を押してくれるんだ」
王太子自らが先陣を切らねば、誰も追従しない。
ハンキーは友として、師としてクランに試練を与えたのだ。
「本日は皆様のために一曲歌わせていただきます!!!」
「待ってたぞ!」
「GO!HUNKY!!」
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この上ない大成功だ。すべてが完璧のプレゼンだった。
あとは民衆の支持を得れば、世論は発電所推進に染まるだろう。
「すまん、クラン。寝坊しちまった」
「まったく。いつものことだろ?」
「まあな。しかしいいプレゼンだったぜ、王太子殿下」
「・・・・・ありがとう、師匠」
2人は言葉などなくとも通じ合う。
ハンキーは言葉に魔力を乗せるが、実のところそれを酷く嫌っていた。
人を勇気付けるためだとか、敵と見做したものに対しては容赦無くその力を振るうが、詐欺師のような魔力の使い方にはこの上ない嫌悪を覚えた。
言葉ではなく行動で示すことで、ハンキーは多くの人々を惹きつける。
そしてまた、その人々が誰かを巻き込んでゆく。
「あとは来週のコンサートまで、全開でぶっ飛ばすぜ」
旅の吟遊詩人の任務は、とうとう終わりに近づいていた。
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