030 王都大プレゼンテーション

「ったく!どこに行っちまったんだい!あの風来坊は!」


「もう始まってしまいますぞ!」



王都フローギィフの有力者が一同に会したプレゼン当日、開始時刻が間近に迫ってもハンキーは姿を現さなかった。


既に議事堂には満員の招待客が詰めかけている。


普段はそれほど時間に細かいとは言えないトランプ人の国民性だが、今日ばかりは例外だろう。



「ありゃ・・・・なんだい?」


トコトコと小さな物体が歩いてきた。


皆、その物体に当然 見覚えがった。


なぜなら、ハンキーが偵察用に使っている人形だからだ。


何故、こんなところに・・・・?


ふとアイダが気づいた。人形がボイスレコーダーを持っている。



辺りに嫌なムードが立ち込める。


まさかとは思うが・・・・。


アイダとフラウズ宰相は顔を見合わせると、予め脱力しておいた。およそ想像がつくが、内容を確認すべく再生ボタンを押した。



【すまん、寝坊した】


【間に合いそうにないからプレゼンはクランがやってくれ。やり方は任せる】




「・・・・・・何考えてんだいアイツは」



「いや、構わないさ。私がやろう」


クランは力強く、語気を強めた。



「な、なんだい。やけに落ち着いてるわね」


「『不測の事態は常にそこにある、故に備えよ』。ハンキーの教えだよ、アイダ」


「うむ、仕方があるまい。そもそもクランが中心となっているプロジェクトだ。お前がやりなさい」


エディ国王には微塵も取り乱した様子がない。


それほどクランに信頼を置いているのか、それとも・・・・。


「承知しました父上。お任せください」




壇上へ上がると、クランが演説台の前に立つ。その振る舞いは至って冷静だ。


その後ろに並べられた椅子に、国王と宰相が腰掛けた。



「皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。ウェエルフル評議会及び王室を代表して感謝を申し上げます」


「吟遊詩人ハンキーは急用につき、不肖、クラレンス・ピースメーカーが代役を努めさせていただきます」


【パチパチパチパチ】


異議を唱える者、不満を表す者さえ、ただのひとりもいなかった。


今やもう、ギルド長、議員や大臣、警察や軍の幹部もクランを認めているのだ。



「まずはお手元の資料をご覧ください。今後の公共事業一覧を・・・・」

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