029 王太子として

3日後・・・・・。


「これで各省の大臣へ根回しも終わりですな」


フラウズ宰相は役目を終えた疲れからか、熱を出して寝込んでしまった。


僅か3日で各所へ奔走したのだから無理もない話だ。



「歳なんだ、無理しないでくれよ宰相。軍と警察はグリーン大臣と私で話を通すよ。流石にギルドのようには行かないだろう」


「アタシはいないほうがいいだろうしねえ」


「ああ、アイダも疲れているだろう。十分休んでくれ」




ハンキーはその間も歌い続けた。連日連夜のコンサートも大盛況だった。




「国王陛下!各地に派遣した使者が戻りました!」


この頃になると、次々に各地方へ遣わせた使者たちが戻ってきていた。



「申し上げます!北部6行政区画、吟遊詩人ハンキーの雷名は各州で号外が刷られる反響!作戦に問題なし!」



「申し上げます。西部3行政区画、吟遊詩人ハンキーはセンセーショナルな話題となっており、地元新聞社でも一面を飾るほどです。来週の公演にも多数の来客が予測されます」



「同じく報告致します。南部10区画、王都と同様の盛り上がりを見せております。特に宣伝の必要もないかと」





「順調だなハンキー」


「ああ、順調すぎるほど順調だな」


クランはハンキーの様子がどこか上の空に感じられたが、ハンキーとて疲労が溜まっているのだろう。


さして気にも留めずにいた。



「あとはクラン、お前にとって最後の山場だぜ」


「任せてくれ。私の師匠は誰だと思ってるんだ?」


「ははは、心配なんてしてないぜ。お前が主役だ、ぶっ放せよ」


「わかっているさ。ハンキーは今夜のコンサートに集中してくれ」




その日の官邸は強力な魔力を持った護衛隊が集結し、物々しい雰囲気を醸し出していた。


警察長官や幹部、陸軍・海軍元帥と大将が一堂に会するのだ。


噂に名高い『王室警護隊』も警備に当たっているという話だ。



今日の会議を終え、軍と警察の連携が取れれば、ひとまず王太子の使命は第一フェーズの終わりを迎えるだろう。


しかし、そのはじまりは惨憺たるものであった。



「ポイントの件は仕方のないことだ」


「国民からの信頼はガタ落ちだろう?元帥、潔く辞任すべきではないのかね?」


「何を言うか!ポイントは中隊長なのだ!直属の大隊長や連隊長の責任を問うべきであろう!」


想像以上に話が拗れている。


やはり、ポイント元少佐の件は軍と警察に多大な軋轢を生んでいた。



クラレンス王太子は会議前、ハンキーから受けた激励を反芻していた。


【お前が主役だ、ぶっ放せよ】




「皆、少し黙ってくれないか?」



クランは警察と軍のトップ層がたじろぐ程の、厳かとも言える威圧感を発していた。


一同が知り得る限り、エドワード国王でさえこれほどの圧力は持っていなかった。



「ならば長官、王都の主要箇所にトラップ魔法が仕掛けられていた件は如何とする?」


「そ、それは担当の・・・・しかし警察だけの責任ではありますまい!」


「面子に拘っている場合ではないのだよ」



その場にいる誰もが、クランのその若さに見合わない、極めて厳かな態度を崩せなかった。


「魔王の伝承は知っていよう?あなた方は国を滅ぼすおつもりか?」


「何をおっしゃる!伝承なぞにビクビクしているようでは国防など務まりませぬ!」


「ならば堂々と国民にそう主張するがいい」


「う・・・・それは・・・・」



ギルドも軍も警察も、もちろん政治家や王族も違いはない。


ここで力を結集せねば、間違いなく国は滅びる。そんなことは誰もが分かっているのだ。



「もう一度言う。面子なんて下らないものに拘っている場合ではないのだ。私には、いやウェルフルにもトランプ国の未来のためにも、貴方達の力が必要だ。頼む、力を貸してくれ」



王太子にここまで言われては、折れるしかないだろう。



「負けましたよ、殿下」


初めにそう言ったのは海軍元帥だ。


ポイントの件で一番責任が軽い海軍が折れると、他の者も追従し易くなったのだろう。


張り詰めていた空気は消え、一転して和やかとさえ言える程の雰囲気を作り出した。



「平和な時代が長すぎたようですな。ご無礼をお許しください元帥」


「いや、仰る通り当方も保身に走っておりました。殿下のお為に力を合わせましょう」



しかし、驚くべきはクランだ。この短期間で驚異的な精神的成長を遂げている。


皆、クランをリーダーとして認め始めていた。



「ありがとう。これで我々はひとつだ。一緒に戦ってくれ」


クランが皆を鼓舞すると、各人が固い握手を交わした。


紛れもなくクランには、父をも凌ぎ得る強烈なカリスマ性が備わりつつあった。


そして、ひとまず王太子の務めは終わりに近づいていた。



もうひとりのキーマン、吟遊詩人の旅もまた・・・・。

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