028 もうひとつの

ここウェルフルにもいくつかアーティファクトが存在した。


しかし用途が不明のため、そのほとんどは博物館の不人気エリアを代表する一角として、申し訳程度に飾られているのみだ。




アイダたちは館長室へと招かれていた。


そこにはアーティファクトと思しき見慣れない物体がいくつも並べられていた。



「驚いたよ。まだこんなにあるのかい?」


「ウェルフルでは古代の遺物に過ぎないからな。もう考古学者でさえ見向きもしないんだ」



クランがひとつのアーティファクトにパンを入れ、電気魔法を送り込んだ。


しばらくすると入れておいたパンが、ベルの音と共にこんがりと焼けて出て来た。



「おお、これは凄いですな」


「『オーブントースター』というらしい。調理用のアーテイファクトさ」


「プレゼン用にも良いわね。いくつか持ち出せるのかしら?」


「勿論です。国の一大事業ですからね」



「おっと、時間がないな。館長、すまないが『アレ』を頼めるかい?」


館長は頷き、周囲を警戒しながら本棚を動かした。



「ん?隠し扉かい?」


「ここは館長の魔力でしか解錠できないんだ」


アイダ一行は館長室の更に奥にある別室へと案内された。



「お、あったぞ」


『それ』を見たアイダが驚きの表情を浮かべた。


「これって・・・・もしかして・・・・・」



6弦が張られた『それ』は、形こそ違えど、見紛うはずもない、今や神具と言っても過言ではないだろう。


そしてやはり、妙な四角いキャビネットに鞭で繋がれている。



「ああ、エレキギターさ。ハンキーのものとは何故か形が違うんだ」


「驚いた。こんなもの、この世に2つと存在しないと思い込んでたよ」


「私も知りませんでしたぞ。まさか他にも・・・?」


宰相でさえ知り得ぬことだ。ここにいる4名とハンキー以外、きっと誰も知らないのだろう。



「ハンキーは数本存在すると予想しているよ。ボイスレコーダーなんて50個以上も発見されているからね」


「魔王を倒すために必要な数ってことかい?」


「流石だねアイダ。ハンキーも同じ予想をしていたよ」


表に展示してあるアーティファクトはすべてコイツを隠すためのカムフラージュと言ったところか。




「しかしこりゃ、外には出せないねえ」


こんなものが存在すると知れれば世間は大パニックだろう。


何十億もの金が動くかもしれないし、間違いなく奪い合いになるだろう。


「そうなんだ。しかし、必ず相応しい人物の元に導かれるはずだよ・・・・まあ、私も欲しいんだがね」


「そう思ってるのはクランだけじゃないからねえ」



クランは決意を新たにするような、宣言のような、誰かに誓うような神聖な気持ちで、まずはここにいる仲間に伝えておきたいことがあった。


「私にはハンキーがくれた夢があるんだ」


「だいたい想像がつくねえ」


アイダが笑いながらクランを小突く。


隠しきれない照れ笑いをしながら、クランは言うのだった。



「平和になった世界でエレキギターを作ることさ」


「・・・・素敵な夢じゃないか。アタシも混ぜておくれよ」




一行はいくつかのアーティファクトを見繕ってソー車に運び込むと、ハンキーのコンサート会場へと道を急いだ。

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