027 それぞれの戦い

「昼は学校や商店街を回るぜ。慰問も兼ねてな」


ハンキーのスケジュールは過密なものになった。



地道に外堀を埋めることを忘れてはならない。


何より必要なのものは、あくまでも民衆の力であるという事を忘れてはならないのだ。



「すまないなニドリム。マネージャーみたいな真似をさせて」


「全然大丈夫です!私からお願いしたんですから!是非やりたいって!」



封印魔法使いニドリムは、ハンキーの魔法とは別次元の力を目の当たりにして、ひとつ精神的な成長を遂げていた。


それはまた、魔法もひとつ段階が上がったことを意味していた。



ニドリムがスケジュールの管理をして、各訪問先へ窓口を担当した。


これでハンキーは歌う事に集中できるだろう。



「今日の一つ目はこの学校ですね」


「よし。行こうか」


ハンキーは上辺だけの言葉など一切発さない。すべては行動で示す。


もちろん、夜にはまたエレキギターを掻き鳴らす。


それが吟遊詩人の戦い方だ。



そしてまた、その裏では別の戦いが始まろうとしていた。




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「まずはギルド長たちから話を通そうと思うんだ」


「それがいいわね、ハンキーの行動に合わせた方が動き易いわ。ってわけで、よろしくねフラウズさん」



アイダに頼られたことが嬉しいのか、フラウズ宰相が得意満面の表情で胸を張る。


「任せなされ。ギルド長はみんな飲み友達だ」


「頼りにしてるよ、宰相」




3人は朝から晩まで、片っ端から各ギルドに訪問した。


交渉は想像以上にスムーズに行った。ギルド側も只事ではない事態を理解しているのだ。



「殿下と宰相自ら出向くなど、一体どんなご用件です?」


「実は新たに公共事業を興そうとしていてね・・・・」



クランの交渉は完璧なものだった。


国家の事業でありながらも、男子ならば誰しもがロマンを感じるだろう。



そして、この殺し文句が必殺の一撃と成り得る。


「ハンキーも一枚噛んでいるんだ」



ギルド長たちは子供の頃に感じていたような、冒険心に沸き立つ気持ちを抑えられなかった。



「面白いことになりそうですね。断るギルドなんてありませんよ」


「それではハンキーから詳しいプレゼンがあるんだ。次の日曜日に議事堂に集まってくれないか」


「そりゃもちろん!期待してますよ」


「せっかくの安息日にすまないな。だが、有意義な時間であることを約束するぞ」


「ではこの招待状に魔力で判をくれないか。当日はこれで本人確認を取らせてもらうよ」



フラウズ宰相も、クランが交渉人であることを常に意識させる話法やそれとない素振りで、あくまでもサポートに徹した。


クラン自身も、自らの交渉の中で宰相やギルド長から多くのことを学んでいった。




「ふう・・・これで全部ですかな」


結局、1日ですべてのギルドを訪問した。何しろ時間がない。


アイダ一行も、ハンキーに負けず劣らず過密なスケジュールになってしまった。


「いやあ、お疲れ様。って言ってもこれからハンキーのコンサートよね」


力をを持った者たちは責任を負わなければならない。


その仕事はまだまだ終わらないのだ。


「そうだった。その前にちょっと行きたいところがあるんだ」




クランがそう言うと一行はソー車 (馬車)でとある場所に向かった。


走り抜ける街並みは活気に満ち、人々の躍動が感じられる。


夕暮れの王都は美しさを増すばかりだ。


その陽を受けながらクランが玩具を買ってもらった子供のような表情を浮かべている。


到着したのは王立博物館だった。



「館長、突然すまないね。『例のもの』を見たいんだ」


「いつでも大歓迎ですよ殿下。『アレ』の価値がようやく認められたんですから」



王立博物館というだけはある。


名だたる画家や彫刻家の作品が展示しており、その様は壮観の一言に尽きる。




「ん?なんだい?ここらへんの?」


或いはこれを工業的な芸術とでも呼ぶべきなのだろうか。


しかしその区画にはどう見ても芸術作品とは言い難い、見たこともない物体が並べてあった。



「ああ、アーティファクトさ」


「道理で見覚えがないはずだわ。そりゃウェルフルにもあるわよねえ」



このアーティファクトこそがクランが今日、ここに来た目的の『ひとつ』である。


「いくつか動作を試しておこうと思うんだ」


「いいわね、電気魔法ならアタシも覚えたわよ」

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