026 ウェルフルの夜

国歌を歌い終えると、突風のように衝撃を伴った歓声が巻き起こった。

それは歓声というよりも、感嘆と言った方が正しいかもしれない。



「すげえ!!すげえよ!!」


「やっぱり来て良かった!」



しかし、稲妻の吟遊詩人はここからが真骨頂だ。


ハンキーが鉄のケースから6弦の張られた楽器を取り出すと、響めきにも近い声が巻き起こる。

皆、鼓動が激しくなるのを抑えきれないのだろう。



「・・・・・・・おお!」



エレキギターをアンプに繋いだハンキーは、電気魔法を送り込むと、弦を搔き鳴らした。




「いくぜぇぇぇ!!!」


「おおおおおおお!!!!!」


エレキギターの爆音と大歓声は2頭の龍が如く畝り合い天に昇り、惑星が爆ぜるように夜の静寂を劈いた。



2時間に渡る熱きステージが終わった。


「渡り鳥の落雷」は遂に今夜この王都フローギィフに降り注ぎ、人々を黒コゲに感電させた。



帰路に着く人々は、一様にコンサートの感想を、ある者は興奮した様子で、ある者は法悦した表情で語り合っている。


今日1日でハンキーのファンは何千人も増えたことだろう。


まだまだ、これからだ。王都中を、いやトランプ中をハンキーが熱くさせる。


そんな予感を、誰もが期待せずにはいられない夜だった。




「ふう・・・・やりきったぜ・・・」


「お疲れさん」


「さて、明日からはアイダたちの出番だぜ」


「任せときなよ、でもその前にやることがあるだろう?」


「おっと、そうだな」





「それでは・・・・・!乾杯!!!」


「いやあ、すげえステージだったぜ!」


「ありがとう。スタッフのみんなのお陰さ」



明日から、また戦いが始まる。


皇太子として、宰相として、防衛大臣として、国王として。




「アンタもだろ?稲妻の吟遊詩人」


「ああ、俺もみんなと戦うぜ。吟遊詩人としてな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る