稲妻の吟遊詩人

025 それでも

「そういえばグリーン、他に内通者がいる可能性はないのか?」


「おそらくなかろう、あのトラップを見分けられるものはそう多くない。ポイント自ら確認をしていたのが良い証拠だ」


「これ以上は詮索しても無駄でしょうな」




しかし、ハンキーの見解は少し違う。


「おそらく、もうフローギィフ、いやウェルフルに関わることもない。アイツは俺にしか興味がないからな」


「・・・・今はまだ聞かないけど、いつか話してくれよ。ハンキーは師匠である前に友人なんだからな」


「じゃあ、俺は行くぜ」



ハンキーには使命がある。円卓の騎士として、そして吟遊詩人として。

今日からは昼夜問わず、フローギィフのあらゆる場所で歌わなければならない。




「フラウズ殿、今夜の会場はどこだい?」


「うむ、王都噴水広場にステージを作ってある。トラップを破壊した途端にハンキーの噂は広まり始めたよ。まったくたまげた。宣伝の必要もないほどだったよ」





「休まなくて大丈夫かい?」


「平気さ、それに俺は・・・・」


「吟遊詩人だ、だろ?」


「ああ、どんな時も人々のために歌うだけさ」


「まったく、歌うのはアンタ自身のためだろう?」


「まあな。吟遊詩人はそういう生き物だ」


「さ、行こうか。とことんまで付き合うよ」





人々が食事を終え、普段なら家族の団欒を楽しんでいる時間、王都フローギィフの噴水広場には人集りができていた。

もちろん、旅の吟遊詩人ハンキーのステージを見るためだ。




「フラウズさんも言ってたけど・・・・凄いなんてもんじゃないよ、こりゃあ」


「お陰でやり易くて済む。アイダもクランも明日から忙しくなるからな」


「そっちは任せときなよ、ハンキーは思いっきり歌っておくれよ!」


「うっし!行きますか!」



ハンキーがステージに向かって跳躍すると、着地と同時に黄色い歓声が上がる。


「ハンキー!ハンキー!」

「待ってました!稲妻の吟遊詩人!」


知らぬ間に大層な2つ名が付けられているな。

いい感じだ。


「Ladies And Gentleman!!!」


「お集まりいただきありがとう!今夜はウェルフルの皆様へのご挨拶を兼ねて、一曲歌わせていただきます!」


そう言うと、帽子からマンドリンを取り出した。


「おおー!」

「本物だ!あれが見れるなんて!」


既に熱狂的に迎えられている。

否が応にもテンションが上がる。



「まずは、ここウェルフルの地に感謝と敬意を示すため、ウェルフル国家をお聴きください!」



魔力の込められた歌声は王都中に響き渡った。

今夜もきっと、伝説と呼ばれる夜になるだろう。

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