024 作戦後
「ふう・・・・・・・」
グリーン防衛大臣は、椅子に腰掛けると、深い溜息と共に掌で顔を覆った。
テーブルには冷めきった紅茶が手付かずのまま残っていた。
「言っておくが、グリーン殿にも軍にも責任はない。奴らが巧妙過ぎるんだ」
「すまんがハンキー、今は何も言ってくれるな」
「・・・・・・すまない。軽率だったな」
王都からほど近い町に、ポイントの生家はあった。
ポイント少佐、もといポイントは指名手配すらできない有様だった。
何しろ結果だけ見れば、誰かが張った封印魔法を監視していた疑いがあるだけだ。
脱走による除隊処分に課しただけで、その行為が軍法規定には触れるかどうか、争点がわかれている。
軍内部では超優秀な将校から脱走者がでたことを公表するかで意見が分かれた。
考えるまでもなく、国民からの信頼を失うだろう。警察との軋轢も避けられない。
ポイントの地元での評判は、非の打ち所がないものだった。
文武両道、品行方正、歴代最速で少佐に出世、おまけにウェルフル最強の10名に贈られる称号『10傑』に名を連ねている。
英雄と言っても過言ではない扱いを受けていた。
そして、ポイントの家族は、
「・・・・・最悪の事態も想定したんだがな」
グリーン大臣はようやく気力を絞り出すように声を出した。
「俺もまさかとは思ったが、奴らは教団なんだ。殺しはしないだろう」
これが国家間の争いやテロリストが相手だったら、家族もグルの可能性が高い。
が、1教団の信徒(という一言で片付けられない存在ではあるが)だったら、それはまずないだろう。
最悪のケースは、何も知らない家族を皆殺しにすることだ。
非道い場合は親類や親しい友、近所の家族まで容赦無く殺すだろう。
それだけが、唯一にして最大の幸運だった。
「困ったことに陰謀論まで囁かれているよ。優秀すぎるポイントを追い出した将校がいるとな」
「俺のミスだ。もう少し泳がせておくべきだったな」
「いや、ポイントは泳がせておくには危険すぎる。あれでよかったんだ。それに、ハンキーの計画にも支障が出るだろう?」
トラップ魔法を破らねば、ここ王都からハンキーの情報が拡散されることはない。
よって早急にトラップを破壊し、内通者を炙り出すことが必要だったのだ。
「まったく、これほど掻き回されるとはな。テロリストよりも厄介だ」
「口惜しいが、結果だけ見れば、我々の負けだろう」
長い沈黙が場を支配するが、エディ国王が口火を切った。
「済んでしまったことは仕方があるまい」
「それよりも次だ、ハンキー、お主に掛かっておるぞ」
その通りだ。くよくよしていても仕方がない。ハンキーにはハンキーの、吟遊詩人には吟遊詩人の戦い方がある。
「ありがとうエディ、今夜からだ。ぶっ放すぜ」
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