020 吟遊詩人は歌うだけ

「さてと、答え合わせといきますか」


しばしの談笑を終え、ハンキーはティーカップを片手にクランに目配せをした。


クランは少し緊張した面持ちで、テーブルに王都の地図を広げた。



「まずは、各所の門、港、駅・・・・・それと・・・ソー車道・・・郵便局もか? ゲート型のトラップ魔法で、ハンキーに関する記録だけを封印している」


「正解だ。手紙は門と郵便局の2重トラップで封印を掛けて、そこだけ読めないようにしてるんだろう。そうでもしなければ俺のことだけ頭から抜けるような器用な魔法は掛けられんからな」



どう考えても超強力な魔法であることは間違いない。

やはり、封印型は搦め手でも反則級に強いのだ。



マスコミだけじゃない、陸運や海運で出入りする誰もハンキーの話をしないなんて、そんなことは有り得ない。

皮肉にも強固な防壁がトラップを可能にしてしまった。


しかし、魔法の特性上一定以上の魔力を持つものには当然効果がない。




「アタシに効かなかったのはハンキーの支援魔法が掛かってたからだね」


「その通り。正門じゃ俺でもトラップに気付けなかった。それほど巧妙で高度な魔法だ」


「父上はどのようにして気付かれたのです?」


「たまたま東部へ使いに出していた腹心の1人が封印型だったのでな。門を通る時に気付いたそうだ」


「成程、その程度なら問題ないと踏んでいるのか」


「問題ないのか?父上が知っても?」


「ウェルフル全土を回るつもりだったんだ。そのうち嫌でも俺の名は広まるだろう」




「しかし、そうなると奴らの目的はただの時間稼ぎということにならないか?」


「恐らく、違うな」


ハンキー以外は「アイツ」のことをよく知らないのだから、無理もない。


「じゃあなんだってんだい?」


「ただの嫌がらせだろう。アイツはそういう奴だ」


「アイツ、ねえ(そろそろ話せよな・・・・)」





「相手の出方が気になるな。ハンキー、君の意見を聞かせてくれんか」


「内通者は俺が来たことに気づいていない可能性が高い。そこを利用したい」


「なんでわかるんだい?」


「あのトラップは個人の識別はできないんだろう。ずっと偵察用の人形で周囲を監視していたが、誰からも尾けられてない」


「流石はハンキー、抜け目ないな」





「一度、話を元に戻そう。エディ、東部は既に発電所推進派が大多数だ」


「もちろん儂には伝わっておるよ。お主がどうやったのかもな」





とすれば、ハンキーのやることは当然に決まっている。


「俺は吟遊詩人だ。歌うことしかできない。まずは演奏の機会が欲しい。なるべく大きな会場が良い。そうすれば、世論は一気に傾く」


「いいだろう、中央公園の野外音楽堂を提供しよう」


フローギィフの中央公園は、3万人収容のトランプ国でも有数の大会場だ。


「ありがとうエディ、気合が入ったぜ」



ハンキーの瞳の奥に炎が燃え盛る。

今すぐ叫び出したいほど心臓がぐつぐつ煮え滾る。



「ウェルフル人も音楽を愛しているからな。決行は、そうだな、宣伝期間も兼ねて3週間後の日曜日がいいだろう。スケジュールも空いていたはずだ」




「ハンキー、あとの懸念は5つでいいか?」


「なかなかいいぞクラン、その通りだ」

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