019 吟遊詩人、国王と謁見する。

ウェルフル国王「エドワード・ピースメーカー7世」。


その名に恥じぬ、国王に相応しい威厳ある風体で現れた。




「ご挨拶に伺おうと思っていたところです。ご足労いただき恐縮です。妻のアイダです」


「アイダと申します。お会いできて光栄ですわ」


アイダの華やかさが場を和ませてくれた。ここまでは計算通りだ。




「ははは、構わんさ。ボルドーのナイトにして愚息の教師なんだ」


「時に国王陛下、馳せ参じた理由はご存知であられましょう」


「やはり、例の書簡の件か?・・・・・うーむ」


何だか煮え切らない態度をしている。


「父上、ハンキーなら必ず父上もお認めになるでしょう。どうかお話だけでも」


「そうではなくてな・・・・」


今この瞬間で気付いたものはハンキーだけだった。




「目星はついておいでで?」


国王の鋭い眼光がハンキーに飛ばされた。


「・・・・・クランよ、お前に聞かされていた以上の傑物だ。ハンキー、君の力を借りたい」


アイダもピンと来たようだ。


「申し訳ありません父上。恥ずかしながら・・・・・」




「陛下、殿下にご説明差し上げても?」


「ハンキー、エディで構わん。クランと同じように接してくれないか。やり難くて敵わん」


「・・・・・・バレてましたか?」


「当たり前だ愚息よ。儂を誰だと思っとる」



皆から笑いがこぼれ、一気に空気が緩む。

流石は国王と言ったところか。




「それでは失礼して・・・・内通者がいる。恐らく軍の上層部か高官の誰かだ」


「白ローブの連中かい?一体、どうなってんだい?」


アイダはやはり鋭い。これから先、きっとハンキーの力になるだろう。非凡なものを感じさせる。


「まさか、いや・・・・有り得る・・・・・」





「実はな、ハンキーの噂は既に届いておるのだ」


「やっぱりねえ、そうじゃなきゃおかしいよ」


アイダは大体わかっているようだ。

するとクランの焦りが募る。


「人の口に戸は立てられん。ましてや音楽を愛するウェルフル人だ」


「父上、私は聞いておりません」


「お前が未熟だからだ」


国王が厳しく、鋭い眼光で皇太子を射抜いた。


「・・・・・・・未熟?」


「エディ、その言い方はないさ。俺から説明させてくれ。」


「・・・・・うむ、すまんなクラン。どうやら気が立っているようだ」






「まずは、クラン。これに気付いているのはエディと腹心ぐらいだろう。つまり今のクランが気付くのは難しい。俺だってエディの話を聞かなきゃ気付けなかったよ」



少しだけ、クランの心は軽くなった。フォローをしているのはわかっている。

しかし、やはり師の言葉は勇気と自信を与えてくれる。




「封印型魔法の類だろう。貿易船も汽車も出入りしてるんだ。もちろん東部からもな、人の出入りを止めることは不可能だ。つまり俺に関する記憶を封印している。」


「つまり、結界のようなものか?王都全体に?そんなに広い結界が張れるのか?」


「いや、当然不可能だ。俺が100人いてもできないだろうな。ということは・・・・」


「ちょっと待った!・・・・・自分で考えさせてくれ・・・」



仮にも皇太子なのだ。いつまでも父と師の手を煩わせるわけにはいかない。

しかし、流石と言うべきか2分ほどの思考で答えを導き出した。



「ふう、申し訳ありません父上。やはり仰る通り私は未熟です。不要な心労をお掛けしました」


その台詞に国王は喜びを隠せなかったようだ。


「いや、王たるものはそれでいいのだ」




尊敬する父に褒められたクランは思わず顔が綻んだ。

クランには自分の力不足を認める度量がある。人の上に立つものとして必ず必要な素養だ。




「誰か!ウェルフルとフローギィフの地図を持って来てくれ!」


「ついでにティータイムにしましょう」




「いいわね。チョコレートが食べたいわ」



ハンキーはそれとなく周囲を警戒しながらも、悪友の喜びに、自分も同じ喜びを感じた。



「とりあえず、1曲いくか?」


「おお、一番大事なことを忘れるところだったぞ。ハンキー、ウサ国の音楽を頼めるか?」


「ウサ国出身なんだ。任せてくれ」

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