018 吟遊詩人の悪友

「紹介状はお持ちか?」



官邸の正門を固める衛兵が2人に尋ねる。



王都の正門とは比べものにならない精鋭だ。


ナイトには及ばないが、強い魔力を感じる。




「お持ちでなければお通しできません」



「すまないが、至急の要件だ。ボルドー女王からの書簡だ」



そう言うと銀のペンダントを見せる。



「ナイト殿か?しかし、女王様の書簡?・・・・その書判は間違いないとお見受けするが・・・」





「時間がないんだ。国防大臣のグリーン殿と約束がある」



「大臣とお知り合いで?失礼ですがお名前は?」



「ハンキーと伝えていただければわかる」



「確かにグリーン大臣ならいらっしゃるはず。しばしお待ちを」





アイダは、もう何も驚かなくなっていた。


どんな手を使ったのか知らないが、この時間に国防大臣がいることも調査済みだった。


そしてこのタイミングで「ある人物が」出てくる手筈だ。





5分ほどすると、身なりの良い男が息を切らしながら走ってきた。


ハンキーの顔を見るなり、満面の笑顔で走り寄って、抱きつく勢いで肩を組んだ。




「ハンキー!久しぶりじゃないか!また旅をしているのか?まったく、お前ほどの吟遊詩人はさっさと国のオーケストラにでも入れよ!」




衛兵たちはこの世のものではない光景を見ているかのように、目が飛び出そうな表情だ。




しかしハンキーは折り目正しい態度を崩さず、落ち着いた笑顔で嗜めるように言った。



「お久しぶりです。皇太子殿下」



ハッと我に返った皇太子は、慌てて襟を正し、赤面しつつ咳払いをした。



「・・・・ゴホン・・・・失礼した。ハンキー殿。紅茶の用意があるので一緒にどうかね?」





(いや、もう遅いだろ・・・・)



衛兵たちは声に出したい気持ちをぐっと堪え、心の中で総ツッコミを入れた。



(しかし、吟遊詩人のナイトでクラン様の友人?・・・何じゃそりゃ?)






「おっと、ご挨拶が遅れまして。ご婦人もご一緒に如何でしょう?」



「殿下さえよろしければ是非、ご一緒させて頂きますわ」



アイダも事前打ち合わせ通りに振舞ってくれている。






「あっはっはっは!クラン!お前も皇太子なんだから部下の前であれはまずいだろう!」



「ああ・・・・父上の耳に入らなきゃいいがな・・・・しっかし嬉しいぞ!この野郎!」






「もう驚く気力も湧かないけどさ、皇太子様とハンキーがどういう関係なんだい?」



「ああ、これは失礼アイダ殿。ハンキーは私がボルドーに留学していた時の音楽の先生なんだ」



「それだけにゃ見えないけどねえ」





「あはは、やはりハンキーが選ぶだけはあるなアイダ殿。アイダと呼んでも?」



「構いやしないさ、アタシもクランでいいだろ、もう」



「悪友さ。俺は皇太子だろうが区別しないんでね。音楽だけじゃなく色々と教えたんだよ」



「色々と、ねえ・・・・」






「ところでハンキー、お前が来たってことは遂に、か」



「ああ、国王様にお会いしたい。グリーン大臣にもな」



「すまない、私では父上を説得するのはどうにも・・・・・」



「計画通りが一番良かったんだがな。状況が変わって来ている。実は、もうリーバップで歌ったんだ」



「本当か?ハンキーが歌えば噂ぐらい聞こえそうだがな・・・・まさか・・・?」



「アイツが来たんだよ」



「やはり、アイツか・・・・・」




予定では、東部、北部、西部、中央部と順に回り、国中でハンキーの名声を広めた後、


ここ王都で極限まで高まった国民感情を武器に国王と交渉するつもりだった。






「できれば、この王都のある南部でウェルフルは終わらせたい」



「そのためにも国王様を説得したい。クラン、お前の力が必要だ」





コンコン、とドアをノックする音が響く。



「クラン、入るぞ」



官邸とはいえ、護衛も付けずに動けるはずだ。


相当強力な魔力を持っている。



「お主がハンキーか。クランが世話になっているな」



「お初お目にかかります、ピースメーカー王」

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