新たなる街へ
017 2人の旅
「ちょ、ちょっと待っておくれよ」
険しい山林を超える途中、とうとうアイダが音を上げた。
「まだ半分ぐらいだぞ。やはり支援魔法をかけてやろうか?」
「噂には聞いていたけどさ、やっぱりナイトってのはバケモン揃いだねえ」
「俺は騎士団で一番弱いかもしれないぞ」
「信じられないねえ。早いとこ会ってみたいよ。その女団長さんにもさ」
「スティか・・・・・凄い奴だよ。アイダとは気が合うかもしれないな」
「そう願うよ。旦那の上司だもんねえ」
「まあ、そうなるのか」
「・・・・うん」
「・・・・照れるなら言うなよ」
「・・・・たまにはいいじゃん」
2人はウェルフル東部の港町「リーバップ」を出立し、ウェルフル南部に位置する王都「フローギィフ」へと向かっていた。
もちろん、吟遊詩人ハンキーの名声が届いているのか確かめるためだ。
この王都に噂が届いていれば、後の任務が格段にやり易くなる。
できれば、ここでウェルフルでの啓蒙活動は終わりにしたい。
一刻も早くボルドーに帰り、魔王との戦争に備えなければならない。
「しっかし、ハンキーの支援魔法は凄まじいね。さっきまでの疲れもふっ飛んじまったよ」
「円卓の騎士には俺より凄い爺さんがいるぞ」
「・・・・・どうなってんだい?ナイトって奴らは」
ウェルフルは国土の半分が山岳地帯で、そこから採れる石炭や金、銀などで経済を支えていた。
当然、2人の旅路も獣道となる。
強化型のアイダでも辛いのに、支援型のハンキーは息一つ切らしていない。
「お!見えたよ!フローギィフ!」
「ようやくか。よくついてこれたな、アイダ」
「支援魔法のお陰だけどね。ハンキーと一緒ならどこへでもいけるわよ」
王都の正門には当然ながら門番が駐在している。天下泰平と言えど、犯罪がなくなったわけではない。
しかし、2人にとっては好都合だ。
「失礼、門番さん?ちょっとお尋ねしたいのだけど」
アイダが猫獣人の如く猫を被る。
「な、なんでありましょうか?ご婦人」
そりゃあ、こんな美人に話しかけられたらイチコロだろう。
「リーバップから王都に向かったって言う、旅の吟遊詩人を探しているの」
「吟遊詩人でありますか?そりゃあ何人か通しましたが、リーバップとまでは・・・」
嫌な予感がする・・・・。
「噂では、雷のような馬鹿でかい音を出すらしいわ」
「そんな吟遊詩人がいるのですか?・・・」
どうやら、考え得る最悪のケースらしい。
「ありがとう門番さん。連れがいるの、通るわね」
(なんだ、男がいるのか・・・・)
「ありがとう門番殿。俺も吟遊詩人だ。しばらくフローギィフで歌わせてもらうよ」
「おお、それは良いですな。自分も音楽は好きであります」
「よかったら観に来てくれ。東部じゃ有名だったんだぜ」
「反応なしね」
とりあえず宿を取った2人は、作戦会議を余儀なくされた。
「甘かったな」
「甘い?おかしいだろ?ハンキーの噂ならもうウェルフル中が知っててもおかしくないわよ」
「そうじゃない。恐らく情報統制がされている」
「白ローブの連中かい?まあいいじゃないか、ハンキーなら名が広まるのも時間の問題さ」
「それに関しては自信があるけど・・・」
ハンキーはまた吟遊詩人らしからぬ、ナイトの表情になっている。
「ちょっと待ってくれ。」
そう言うとハンキーは魔力を高め始めた。
やはり、ナイトというだけのことはある。
周囲の王都民もハンキーの魔力に反応している。
「ヴィヴィ?俺だ、ハンキーだ」
突然独り言を言い始めたと思ったら、会話までしている。
だが、もうそんなことで驚くアイダではない。
ハンキーといれば、これが魔法による交信だなんて誰でもわかるだろう。
例えそれがどんなに荒唐無稽な魔法だったとしても。
「フローギィフに詳しい奴はいないか?・・・・ああ、とりあえず演奏する場所も欲しい。正直かなり予想外だ」
「女王様とスティにも伝えてくれ。きっと遅くなる。それと、バディができたとな」
交信を切ると、周囲の魔力がぷつりと途絶えた。
「ふう、やっぱりこいつは疲れるな。休みたいが、そうも言ってられんな」
「どこかへ行くのかい?」
「国王様に会ってくる」
いや、驚かないって決めたんだ。
「アイダも一緒に来てくれ。俺から離れるのはまずいからな」
「・・・・・マジかい?」
過去一驚いた。
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