014 ハンキーのプレゼン 魔力と科学 4/4
「まずはこれです」
ハンキーが帽子から取り出した短剣に魔力を込め始める。
見る見るうちに赤く変色し、誰が見ても強烈な熱を帯びていることがわかった。
鍛冶師が鉄鋼を打つ時の、鉄を溶かすほどの熱を放つその色だったからだ。
「熱エネルギーか」
アークギルド長はすっかりハンキーと電気の魅力に取り憑かれたようだ。
「一体どういう原理なんだ?」
「魔素と似たようなものです」
魔素を魔力で高速移動させるのが熱魔法の原理だ。
そこに科学では不可能である魔力による発火エネルギーと、分子結合を行った酸素を圧縮して加えれば炎魔法となる。
「ふむ。理解するのは骨が折れそうだな」
最も魔法理論や知識に長けたアークギルド長がそう言ったことで、皆が納得した。
「アーティファクトは既にすべて作動しています」
「電気で作動することがわかれば、理論上は現在の科学でも解明できるものばかりです」
「例えば、これ」
ハンキーは帽子から写真を何枚か取り出すと、そのうちの1枚を見せた。
「うーむ、ただのチェストにしか見えませんね」
製造業を取りまとめるファクトリーギルド長がそう言うと、すかさずハンキーが答える。
「これは冷蔵庫です」
「冷蔵庫ならもうあるじゃないか?」
今度はフードサービスギルド長が言うが、この反応もハンキーの想定内だ。
「まったく違います。これは電気エネルギーで圧縮したガスの気化熱を利用したものです」
「・・・・・理解が追いつかん」
当たり前の反応だ。魔法もどきが熱にも冷気にもなるなどとは。
しかし、ここで有力者たちの同意と理解を得なければならない。
それがハンキーの、命に代えても為すべき使命だからだ。
「アーティファクトは電気エネルギーを科学的なエネルギーに変換して利用するものです」
「つまり、人類が電気を使えるようになった時、はじめてアーテファクトも使えるのです」
「これは仮説ですが、人類が電気を発明した時こそ、魔王を打ち倒せると言う古代人のメッセージだと言われています」
「しかし、古代人は魔王によって滅ぼされたんだろう?」
「恐らく、古代人は魔法が使えませんでした」
「恐らく?根拠もないのかね?」
「アーティファクトに魔力が含まれていないことから推察されます」
「・・・・成程」
「だからこそ科学が発達したのです」
「しかし、科学力だけでは魔王に打ち勝つことはできなかった。未来に希望を託すためアーティファクトを遺したのです」
しばしの沈黙が流れる。ここにいるものは皆、大勢の仕事人や組織を束ねる、会長のようなものだ。
頭が切れることは言うまでもない。
代表するようにジョージが口を開く。
「うむ、聞きたいことは山ほどあるが・・・・」
「承知しておりますジョージ、これから資料と共に質問にお答えします」
「まずは教えてくれ。君は一体何者で、何故こんなことを知っている?」
皆の関心もそこに尽きる。ただのナイトだろう?
それが、科学技術を何十年も先に進めるかのような知識を持っている。
「ここから先は、本当の国家機密です」
「・・・・今までの話ですら国家機密ではないと?」
「電気エネルギーは打倒魔王の為に不可欠です。機密にできるわけがありません」
どういうことだ?
それよりもこの男の正体が重要なのか?
「今はまだ、聞かない方がお互いのためです。というより私が女王様に処罰されかねません」
「・・・・もはや君を疑うものはいまい。君がそう言うならそうなのだろう」
「皆、勝手を言ってすまないが納得してくれないか?」
「当たり前だろう。これほど胸が高鳴るのは初めて炎を出した時以来だぞ」
アーカギルド長に皆が絶え間無く続く。一様に興奮した様子を隠しきれていない。
「悔しいが、お前は人を惹きつける。いいぜ、お前が何者だろうとうちのギルドはボルドーに乗るぜ」
「まあ、一丁歌ってくれるんなら考えてやらんでもない」
アートギルド長がそう言うと、大きな笑いが巻き起こる。
皆の心は一つにまとまった。大きな一歩を今、踏み出したのだ。
「それでは一曲」
「行っくぜぇぇ!」
吟遊詩人に戻ったハンキーは、大音量でエレキギターを掻き鳴らした。
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