010 敵



『お待たせしましたアイダさん!是非すぐに会いたいそうです!」




「ね?こうなるだろう?」




得意げなアイダは猫獣人のように悪戯っぽく笑う。




「すまない。お嬢さんたちもありがとう。」




紳士らしく丁重にお礼をすると、町長の部屋へ案内される。




(でも、何の話かしら?いくら凄いって言っても一介の吟遊詩人よね?)




(町長も大ファンだし仕方ないわよ。あ、それとこれ、いいでしょ?)




(ああ!ずるい!私も後でもらわなきゃ)







「お初お目にかかります町長。吟遊詩人のハンキーです」




「・・・・なんだいその敬語?」




「ちょっと黙っていてくれないか」




アイダがきつく睨む。



「アンタねえ、誰のおかげで・・・」






「ははは、久しぶりに会えて嬉しいよアイダ。ハンキーさんも敬語は辞めてくれ。それとジョージで構わんさ。私もハンキーと呼ばせてもらうよ」




禿げ上がった頭に口髭を生やしたその男は、大柄な体を揺さぶりながら豪快に笑う。






「それでは失礼してジョージ、ボルドーのナイトとして、折り入ってお願いしたい」




そう言うと帽子からボルドー国旗と竪琴が精巧に彫刻された銀製のペンダントを取り出した。




アイダもジョージも流石に面食らった。



出されたお茶を吹き出しながらアイダが言う。



「ナイト?アンタが?」



アイダが驚きの表情をハンキーに向ける。



「できれば、警察署長と、各ギルド長、この地区を担当している将校殿も同席願いたい」






「それほど重大な話なのか?」




どうやら町長はなかなかの切れ者らしい。こちらとしても愚者を相手にせずに済む。




「率直に申し上げて、国家機密と同等に考えていただきたい」




「アンタ、さっきから何言ってんだい?」




呆れ混じりにアイダが言うが、ハンキーの眼差しは真剣そのものだ。






「よう、ハンキー」




この部屋には3人の他に誰もいないはずだ・・・が、窓から声がした・・・・。




「よりによってこのタイミングか・・・・!」



ぬらりとした、人間離れした身のこなしでカーテンから3人の男が現れた。



真っ白なローブに付いたフードを深くかぶり、顔の判別はできないが、口ぶりからしてハンキーとは顔見知りだろう。



その手には剣が握られている。





ハンキーは帽子から銃を取り出すと、白ローブの男たちに向かって発砲した。




「ドドドン!」




3発の弾丸はリボルバーからほぼ同時に発射され、正確に剣だけを弾き飛ばした。




見事、というより最早神業だ。






「♫眠る時間♫子羊たちよ♫もうお眠り♫」




子守唄を歌うと、よろよろと2人が眠りに落ちた。




ハンキーの歌をもってすれば容易いことだ。




「アンタ、こんなに強かったのかい」






「お前、そんなんだからモテないんだぞ。いい加減に諦めろよ」




ハンキーが命のやり取りをしている最中とは思えないほどの軽口を叩く。




「最後に勝つのは諦めない者だ。それに今日はただの挨拶だ。そちらのご婦人にな」




眠りに落ちなかった1人、つまりコイツはハンキーの睡眠魔法も通用しない程の魔力を持っている。



フードを外すと、病的なほど色白で美しいが、狂気を感じさせる目をした痩躯の男が顔を出す。






「アイダに触れたらただでは済まさん」




魔力を込められた言葉が針のように部屋中を駆け巡った。




「馬鹿な奴だな。自ら弱点を作るなど」




「弱点?一度でも俺に勝ってから言えよ。それに、気が変わった。お前はここで殺す」




先程とは比べ物にならない魔力を込めた言葉が発せられると、アイダとジョージは気を失いかけるほどの目眩に襲われた。




「やはり、馬鹿になったな。挨拶は済んだ。御機嫌よう偉大な吟遊詩人よ」




白ローブたちの足元に魔法陣が現れると、それに吸い込まれ、跡形もなく姿を消した。

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