004 窓辺のリサイタル

「良い部屋だな。気に入ったぜ」



「こんなボロ部屋がかい?アンタ、絶対どうかしてるよ」



とは言うものの、隅々まで掃除は行き渡っており、日当たりも良い。


何より心地よい風が吹き抜けてゆく。



ハンキーはどこからともなくマンドリンを取り出すと、窓辺に腰掛け緩やかなハーモニーを奏で始めた。



美しい旋律は柔らかなハンキーの歌声と相まって、窓から風に乗って町中に響いた。


その素晴らしさはレストランの通りを横切る老若男女、誰もが足を止めて聴き入るほどだった。



「おー!いいぞ吟遊詩人の兄ちゃん!」


「良い声ねえ。名のある方かしら?」



「今夜ここで演るから観に来ておくれよ。驚くものを見せてやるぜ」



女将も目を丸くしていた。まさかこれほどの演奏家とは思いもしなかった。



「変わりモンだけど腕は確かだね。雇って良かったよ」



「そういえばまだ名前を聞いてなかったな」



「おお、これは失礼したね。アイダよ。苗字は捨てちゃったの」



「よろしくアイダ。今夜は最高の演奏を約束するよ。おっと、忘れるところだった」



「なんだい?それよりアンコールに応えてやるのかい?みんな待ってるわよ」



既に窓の下には数十人の聴衆が集まっていた。これほどの吟遊詩人がこのような港町に来ることは滅多にない。



「俺はランチを食べに来たんだ」



「あはは。それじゃお開きだね。みんな!コイツはハンキー!今からランチだから、また夜にきておくれ!」





「おお、今日はさながら収穫祭だな」


「俺も楽器始めようかなあ・・・・」


「よく見ると結構ハンサムじゃない?」





誰もが、今夜のレストラン「ダーティー・バップ」は何かが起こる予感がしていた。

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