吟遊詩人ハンキーの旅:ウェルフルの港町 リーバップでの記録

003 港町にて

「なかなかいい町だな」



吟遊詩人ハンキーは旅を続ける。新しい町は何度目だろうか。


何度目だとしても心が踊る。



彼の好奇心は満たされることがない。


この国にはまだ自分の知らない町や村があり、多様な文化を育んでいるのだ。



「まずは腹ごしらえだな」


なるほど。賑やかなわけだ。


港町「リーバップ」は、ちょうど漁師たちが3ヶ月ぶりの帰還を果たし、大漁に沸いている真っ最中だった。



「こんにちは。やってるかい?」


町の人々にリサーチしたところ、このレストラン「ダーティー・バップ」のランチが絶品だと言うのだ。


ハンキーは帽子を脱ぐと手を突っ込み、どうやって隠していたのか、紙幣を取り出す。



「いらっしゃい。おやまあ旅の人かい?まだいたんだねえ。あんたみたいなの」


店の奥から、20歳前後だろうか、豊満で背の高い、しかし悪戯っぽさを感じる、


まるで猫獣人のような女が現れた。




「天下泰平だからこそだろう。今やらないでいつやるんだ?」


「あはは、違いないねえ。面白い。ランチタイムは終わったけど特別に良いわよ。もちろん飲むんだろ?」


「せっかくだが遠慮するぜ。俺は吟遊詩人だ。この世界の何よりも声が大事なのさ。アンタとの夜よりもな」


「あはははは、ホントに馬鹿だねえ。気に入った、しばらくウチで歌って行きなよ。路銀は弾むよ」


「生憎と金には困っていないんだ」


「何だって?益々興味が湧いたよ。背中のモンで稼いでるんだろ?」



女将がハンキーの背中を指差すと、その異様な形状に気付いたようだ。


それは竪琴ではない。




「遠からずってところだな。まあ、しばらく滞在したいとは思っているんだ。せっかくだから宿を紹介してくれないか?」


「だったらウチに泊まりなよ。宿も兼業してるからさ」



女はハンキーに並々ならぬ興味を抱いていた。



「話す気になったら聞かせておくれよ、アンタのこと。よく見りゃ帽子もコートも一級品じゃないか。その毛布も最新の防水加工だろ?」


港町だから貿易も盛んなのだろうか、なかなか見る目のある女だ。


「すまないが厄介になる。宿代は俺の歌を聴いてから決めてくれ」


女はカラカラ笑う。



「本当に変わったやつだよ。夜に船乗りたちがやってくるから、歌っておくれ。期待してるわ」

「しかし、どこの世界に金に困っていない旅人がいるんだよ」



どうやら、既に酒が入っているらしい。女は上機嫌でハンキーを迎え入れる。

帳簿に名前を書くと、またも驚かれる。



「文字の読み書きも完璧じゃないか?ボルドー人だろ?なんでウェルフル語がわかるんだい?」


「放浪の吟遊詩人にも色々あるってことさ」

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