002 ハイになれたぜ
「最高だったぜ。アンタ、名は?」
ゴブリンの長らしき男が代表して、吟遊詩人に賛辞を送った。
「ハンキー。ただのハンキーだ」
「凄えよ、こんなにハイになったのは生まれて初めてだ。名のある吟遊詩人じゃないのか?」
「俺は苗字さえ捨てた只の流れ者さ」
「流れ者か・・・・じゃあ仕方がないな。いやでも、待ってるよ。またアンタに会いたい。アンタの演奏で踊りたいよ」
目を輝かせたゴブリンたちが、次々とハンキーに握手を求めた。
ハンキーは最後の1人まで何十人も、嫌な顔一つせず握手をした。
「僕も大人になったらおじちゃんみたいになれるかな?」
目を輝かせた子供のゴブリンがハンキーに問う。
「俺みたいな流れ者にはなるな。いいか?自分の大事な人たちを守るんだ。そのために強くなれ。踊りたくなったら俺がいつでも踊らせてやる」
ハンキーは綺麗事を一切廃した言葉を少年に投げかける。
少年はこの時、安易な言葉を与えない吟遊詩人に本物の男を見た。この瞬間、少年から男の貌になったのだ。
「わかったよおじちゃん!僕は強くなってみんなを守るよ!でも、たまにおじちゃんを思い出して歌ってもいいかな?」
「ああ。俺なんかよりずっとハイに歌えるぜ」
そう言うとその子供とも固い握手を交わした。
「じゃあな。楽しかったぜ。」
颯爽とマントを羽織ると、吟遊詩人ハンキーは町へと去って行った。
「あ、しまった。聞き忘れた」
すっかり姿の見えなくなったハンキーに手を振りながら、ゴブリンの長が言った。
「あのバカでかい音は一体どうやって出したんだ?」
「言われてみれば、ほとんど魔力も感じなかったな」
「ハンキーか。不思議な奴だ」
いくら人類と魔物は友好な関係を築いているとはいえ、あそこまで種の垣根を感じさせない男は100年生きたゴブリンの長でも見たことがなかった。
「たった数時間共にしただけの人間にここまで魅了されるとはな」
「いつかまた会える」
一抹の寂しさを感じながらも、誰もがそう思っていた。
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