旅の吟遊詩人
001 俺の歌を聴け
「雨か・・・・・気を付けなきゃな」
この国は雨が多い。ほとんど毎日と言っても良いぐらい、晴れと雨がその日のうちに何度か入れ替わる。
フェルトの上質な帽子を被り、オイルの染み込んだ防水コートの中に赤いタータンチェックのシャツを着込み、茶色いウールのパンツに靴紐のない黒いブーツを履いたその男は、旅の吟遊詩人だ。
なめし革を薄く軽量加工した防水の毛布を慣れた手つきで丸めると、リュックに括り付けた。
「そろそろ体力も食料も限界だな・・・・」
運の悪いことに、1週間ほど人間はもちろん、魔物や魔獣にも遭遇していない。
次の町が目視できる距離になると、魔物や魔獣に会うのは絶望的だ。
この調子で行けば、明日には町が見えるだろう。
「仕方がない・・・・また人間相手に歌うか」
ガサッ!
「むっ!」
物音がする方に目をやると、草むらに人影があるではないか。
吟遊詩人の目の色が変わり、30kgはある荷物を抱えたまま、助走もなしに5mほど先の草むらまで跳躍していた。
「ゲッ!見つかった!」
「おおう、ゴブリンじゃねーか」
「折角だから俺の歌を聴いていけよ」
『・・・・・・・・あ?」
防水の革製リュックから小さな機械仕掛けの箱を取り出すと、背負っていた竪琴、いや・・・・竪琴・・・・?
6本の弦が張られたその楽器は、どう見ても竪琴ではなかった。
「ギャイイイイイイイイン!!!!!」
楽器を機械仕掛けの箱に、両端に金属が付いている鞭でカチっと固定して弦を掻き鳴らすと、耳を擘く轟音が森中に響いた。
鳥たちは一斉に飛び立ち、鳥類も魔蛇も一角兎もその音に驚き逃げてゆく。
「行くぜェ 1曲目!『Song For Forest』!!!」
先ほどまで体力の限界を迎えようとしていたのに、微塵も疲れを感じさせないテンションだ。
「おおおおおお!!!!」
一瞬惚けに取られていたゴブリン達だったが、既にその圧倒的な音に熱狂している。
これは音楽をこよなく愛する吟遊詩人が伝説となってゆく物語である。
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