② 「芸術、芸術、芸術、ゲイ術、ゲイ術……」
翌日の放課後。
俺と美咲はクラスが別々な為、美術部の部室で合流する事になっている。
どこかそわそわとした気持ちになりながらも部室に向かってみれば、ドアの窓にはカーテンが敷かれているのが分かった。
美術部は集中力を大切にする。
その為に外からの視線などを防止すべく、窓にカーテンを施されているのだ。
最近はそこまで気にならないという理由であまり敷かれていなかったけど、今回は内容が内容だからか外部の視界を遮断していると。
……大丈夫かな、俺。
流れでやる事になったとはいえ、不安になってしまう。
しかし……やるとしてもタオルを羽織るくらいはやるはずだ。
まさか全裸でやるとは思えないし、美咲もそれくらいはするだろう。
……それはそれで扇情的で描きづらいけど。
「美咲いるか、入るよ」
中に入ってみると、椅子に座った美咲が待っていた。
まだ制服姿のままだけど、一方でヌード用と思われる台座が用意されている。
「フフっ、待ちくたびれましたよ。真也さんや」
「……マジでやるんだ」
「先生に話したら、周りに知られたら面倒だから隠密にって。それと生徒会長には話しておくからって言ってた」
「そうか……結構やる気マンマンなんだな」
「そりゃあ……言った以上はやんないといけないし……」
なんて言いながらも頬を赤らめる美咲。
なんやかんやで恥ずかしいんだろうなぁ……。
「恥ずかしいならやめるか? 別に強制じゃないんだぞ?」
「や、やるよ! ヌードは芸術家にとって最高の題材なんだし、真也にはもっと成長してほしいから!」
「お、おう……」
「てな訳で着替えるから……ちょっと向いててほしいな。すぐに終わるから」
「ここで着替えるのか!?」
「だって隣の物置室は埃臭いし! どうせ後で見られるんだから……」
後でって……どういう理屈だ。
俺が背を向けると、背後から
俺のすぐそばで、美咲が服を脱いでいるのだ。
……マズい、マジでマズい。動悸が止まらない……。
俺の近くで女の子が裸になって、しかもその裸を絵に描く……色んなものが沸騰しそうだ。
いっそ物置室に入ろうとも思ったけど、美咲の言う通り埃臭いからな。
鼻炎持ちな俺には、入るには入れない場所だ。
――シュル……パサッ……。
俺の視界の外で、そんな音が聞こえてくる。
きっと下着姿になって、そこから胸をさらけ出して……。
落ち着け……落ち着け真也。
ヌードの画家は、決していやらしい目的でデッサンに励んでいた訳じゃないんだ。
俺も芸術家の端くれ。美咲をそんな目で見ちゃ駄目なんだ……。
「いいよー」
「あ、ああ……」
平常心を装いながら振り返った俺だけど、駄目でした。
見て数秒も経たずに理性崩壊寸前。
産まれたままの姿になった美咲の、繊細でしなやかな身体つき。
色白の肩が艶かしく、タオルで隠した胸と陰部の見えそうで見えない感がすごい。
胸の谷間が実にY字型……。
コイツ、こんなに胸が大きかったのか……。
ご丁寧にニーソも取っちゃって、白い生足がご対面している。
出ているところは出て、出ていないところは引き締まって……なんて均整の取れた……。
「そ、そんなに見られたら恥ずかしいなぁ……」
発案者が言う台詞か!?
なんて言いたかったものの、ジロジロ見ていた俺にも非があるので言うに言えなかった。
「スゥーハァー……覚悟した方がいいよな、これ」
「覚悟して下さい」
「……それじゃあ、そこの台座に座って。ポーズは……とりあえずお前に任せるよ」
「うん。じゃあ、こんな感じはどう?」
「……!!」
美咲が寝そべりながら胸を突き出すという扇情的なポーズをした。
胸元すごい……じゃなくて!
「か、からかうなよ! 描きづらいだろ!」
「ごめんごめん。でも私的にはこんなポーズがいいからさ、ちゃんと綺麗に描いてね♡」
「……クソぅ……」
綺麗に描けっつったって……。
ポーズを任せるって言った俺が馬鹿だった。
これはあくまで芸術、決してそういう趣味のやましいものじゃない。
平常心を保たなければ……。
一呼吸を入れた後、ひとまずデッサンを開始した。
キャンバスボードに鉛筆を入れた後、まず最初に美咲の顔を描く。
顔くらいはどうって事はない。小学校から似顔絵をやっていたのだから。
髪も仕上げたところで、いざ鎖骨へ……ってなったところで、俺の手が不意に止まった。
いや、美咲の身体を描くのに躊躇した訳じゃない。
それはここまで協力してくれたコイツに失礼だ。
……変態とか言われそうだけど、裸を描くのってどういう感じなんだろうかと思ったのだ。
もちろんタオルを取っての裸で……。
……いやいや、何を考えているんだ俺は。
美咲の今の姿で十分だし、アイツも了承してくれるはずが……。
「真也、全裸描いてみたいなぁって思ったりした?」
ウグッ!? バ、バレた!?
やばいな、これじゃあ美咲に変態扱いされてしまう!!
「そ、そんな事は……!」
「……そっか。やっぱりタオルは邪魔だよね」
「ハッ?」
「いいよ……私は大丈夫……だから」
「お、おい……」
するとその時、美咲がタオルを剥ぎ取った。
コイツ正気か!?
俺が止める間もなく、美咲の身体からタオルが取られる。
その奥から現れた美咲の肢体には、下着とかそういうものは……なかった。
……綺麗だ……。
思わずそう言いたくなるような、可憐で美しい全裸だ。
ピンク色の乳首がいい形をしていて、下腹部の大事なところも……。
ヤバい、身体が熱い……汗が吹き出てきたぞ。
俺は今の美咲から目を離してしまう。
「お前ぁ……そんな恥ずかしい事を……」
「真也の為ならこれくらいどうって事ないって」
「どうって事ないって……」
「ちゃんと見て……そして絵に残して。真也に題材されるなら……本望だから……」
「…………」
……俺は意を決して、美咲を見据えた。
奴は恥部を隠したりせず、大胆にさらけ出すようにしている。
正直、目に毒だ。
「……フゥ……」
落ち着け……これは芸術芸術……決してそういう趣味じゃない。
俺は必死に汗を拭ったり、変な気持ちを押さえつけながら、美咲の美しい肢体をボードに描き留めていく。
「……ハァ……ハァ……」
そうしていると、荒い息遣いが聞こえてきた。
これは美咲のだ……やっぱり無理しているんじゃ。
「大丈夫か、美咲……?」
「大丈夫……それよりもちゃんと見て……絵が上手く描けないでしょ……」
気のせいだろうか……声に艶がかかっているような気が。
それにちゃんと見てと言われても……こちとらは理性が持たないというか……。
いかんいかん、ちゃんと芸術モードにならなければ。
芸術、芸術、芸術、ゲイ術、ゲイ術……って何か焦りすぎて言葉が変になってしまったよ!!
「真也、すごく顔赤い。恥ずかしいんだね……」
誰のせいだ、誰の……。
必死に爆発を堪えながらも、俺はちゃっちゃとデッサンを終わらせる事にした。
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