腐れ縁の美少女から「私をヌードモデルにして」と言われた俺。~描くのに理性が擦り減るんですがそれは~

ミレニあん

① 「私がモデルをやるから」

 俺――大澤真也おおざわしんやは美術部員だ。


 目の前に置いた白磁の壺を見ながら、それをスケッチブックに絵描いている。

 いわゆるデッサンだ。


 中学の頃から美術部を入っていたので、自慢じゃないがそれなりに上手い方。

 

 陰影も悪くない、バランスも良し。

 このまま進めば満足のいく完成品になるはずだ。


「ねぇ、真也ぁ」


「…………」


「真也ったら!」


「ん? ああごめん何?」


 夢中になって描いていたら、隣の美咲に怒られてしまった。


 コイツは穂村美咲ほむらみさき


 中学の頃からの腐れ縁で、かつ俺と同じように美術部を中学から通っている。

 なのでコイツも隣に座りながら、壺のデッサンをしていた。


 やや明るい茶髪のセミロングが特徴的で、ふわっとした花のような可愛らしい顔つき。

 これまでに何人かに告白されているくらい、かなりモテている方だ。


「いやぁ、先輩達がいなくなってから静かになったねぇってさ。なんか寂しいね」


「言われてみればなぁ。というか今は俺達しかいないしな」


 この美術部。3年の先輩が卒業した事で、俺と美咲しかいなくなってしまった。

 一応、部活としては維持しているので気にしてなかったけど、確かに少し寂しいかもしれない。


 先輩達と一緒に絵の話をしたりとか、色々と楽しかったなぁ。


「美術部ってあんま人気ないらしいし、むしろ廃部にならなかっただけで御の字だよ」

 

「まぁ確かにねぇ。よく継続できたと思うよ」


 その美咲の言葉を最後に、俺達は無言になってデッサンを続けた。

 するとまた、美咲が声をかけてくる。


「ねぇ、真也。今のうちにやりたい事ってある?」


「やりたい事?」


 妙な質問に対して、俺は彼女へと顔を上げていた。

 何かそわそわしているみたいようだけど……気のせいかな?


「やりたい事……とりあえず、自分が描いた絵をコンクールに出す事かな」


「……他には?」


「えっ、他? 他って言われてもなぁ……」


「……じゃあ卒業式の前、先輩に言っていたは?」


「アレ? アレ……」


 一体何の話だ? 

 先輩に言っていたアレって……ん? もしかしてあの話か?



『実は俺、1回だけでもいいからヌード描きたいって思ってるんだ。大澤はどう? そういうの興味ある?』


『ちょっと恥ずかしいですけど……やりたくないというと嘘になりますね。といっても志願者が出てくると思えないんですけど』


『だよなぁ。まぁ、全裸を描かれるなんて恥ずかしいから当たり前だわな』



 部活の皆でデッサンする際、先輩が小声で話しかけた事があったのだ。


「……もしかして……」


「うん、ヌードとかどうとか。実はこっそり聞いちゃってさ」


 ……アレ、女子に聞こえないように喋っていたつもりだったんだけどな……。

 どんだけ地獄耳なんだ。


 というかこれ……ドン引きされているのかな。

 ヌードをやりたいなんて、普通は嫌な顔をされるはず。


「いや……あれは機会あったらやってみたいなぁってだけで……そんなやましい事じゃ……」


「そんなことくらい分かってるよ。真也は女子に対して奥手だしね」


「奥手って……そもそもお前はドン引きしないの? こういうのに関して?」


「ううん別に? 芸術家ならヌードくらい考えるだろうし。それに今ならさぁ、私達以外に誰もいないし、ヌードやるにはもってこいじゃん」


「……そんな事を言われても……」


 気軽に言ってくれるな、コイツ。


 大体ヌードをやるからには、女の子を文字通り裸にするという事だ。

 いや、ちゃんとタオルとかするだろうけどさ。


 そんな恥ずかしい事を進んでやる人なんていないだろうし、まして俺に裸の女の子を描く度胸があるかどうか……。


「やってみたくないの? ヌード」


「……別に」


「うん、やりたそうな顔してる。だったら今のうちにやるべきだよ」


「いやいや、勝手に言うなよ。第一、勝手にやったら怒られるだろうし、志願者だって出るはずもだろう」


「私の方から顧問の先生に話しておくよ。それに志願者を探す必要もないし」


「ハッ? それはどういう……」


「……私がモデルをやるから」


「……ん?」


「私がモデルをやるから」


 美咲が大事な事なので2回言いましたとばかりに復唱した。

 という事は聞き間違いじゃない……。


「私が裸になって、それで真也がデッサンする。それで完璧じゃない」


「ハハッ、美咲。エイプリルフールはとっくに過ぎているぞ。騙されないからな」


「私は本気で言っているんだけどなぁ」


「……いいのか美咲……それって相当の覚悟いるぞ? そもそも俺にお前を描く度胸なんて……」


 女性の裸なんて、それこそミロのヴィーナスくらいしか拝んだ事がない。

 そんな俺が急にヌードデッサンをするなんて、無茶にほどがある……。


「大丈夫だよ。真也は絵に対して熱意を持っている。ヌードだって真剣に描いてくれると信じているよ」


「買い被りすぎだろ……」


「事実だよ。それに真也には色んな事を挑戦させたいし、私はそんな真也に協力したいの。……あと真也に描かれた方が嬉しいというか……」


「へっ?」


「な、何でもない! とにかくさ、やってみようよ。私は覚悟しているからさ」


 そこまで俺を信頼しているという事かな、美咲の奴。

 ……こう言われている以上、断るに断りづらいな。


「お前が良いのなら……やらない事も……ないけど」


「よしっ! じゃあ先生に話したり準備したりするからさ、デッサンは明日って事で! 絶対に忘れないでね!」


「明日!? そんな急に!?」


「鉄は熱いうちに打てって言うじゃん! すぐやらないでいつやるって言うの!?」


「そう言われても……」


「とにかく決まり! ちゃんと上手く描いてね!」


 そう言ってニッコリ微笑む美咲。


 ……大丈夫なのかそれで。

 というか俺……上手く描けれるのかな……色んな意味で。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

「面白い」「続きが気になる」と思った方は、ぜひとも☆や♡やフォローよろしくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る