第11話 決戦決着。

 村の入り口から少し行った拓けたところに出ると、少しの水溜りと械狼族ハウンド妖狐族ヨウコンが姿を現した。


「ここか」


「貴様がこの村の長か?」


「違う………が、この場においては全権代理になるか」


「ふむ。ならば、問おう。

 貴様らは我らの配下にならぬか?

 それが嫌ならば戦も止む終えまい。だが、我らの性分でな。戦えば皆殺しだが、文句は無いな?」


 械狼族ハウンドの中で取り分け魔素を多く含む個体と対話を続ける。

 多分、コイツが長だろう。


「こっちとしては穏便に済ませたいんだよ。

 出来れば自分の縄張りに帰ってくれないか?」


「クククッ。お主、元は旅芸人か何かか?

 我をここまで笑わせるとは。

 だが、お主の案は些か自分勝手が過ぎぬか?

 弱者は強者に淘汰される。人間如きが出しゃばるでない!」


 コイツ、話が通じないのか?それともただのアホなのか?


「誰が弱者って?お前何も分かってないんじゃないのか?」


「笑止!主が我より強いとでもいうのか?

 下等な人間ごときが!」


 襲いかかってくるこの械狼族ハウンド。大きな咆哮のあと、力を信じすぎてまっすぐ正直に突っ込んできている。

 咆哮によって木々が薙ぎ倒され、村にも被害が出てしまった。


「貴様如き………ッ!」


 俺の目の前で倒れる。

 その前足は両方とももう、繋がってはいないみたいだ。


「お前は分かっちゃいない。

 俺が弱者だと?お前が強者だと?誰が決めた。

 お前は俺の仲間を皆殺しにするといったな」


 長と思われるその械狼族ハウンドを置いて、俺は敵陣の中へと入っていく。


「なッ!同胞には、同胞には手を出さないでくれ!我だけ、我だけの命で!」


「力を見誤ったお前が悪い。

 俺の仲間を皆殺しにすると言ったお前が悪い。

 俺の話に応じなかったお前が悪い。

 人間の世界も、魔物も世界もそう変わらないんだな。

 代表一人の判断が間違えれば全てが壊れて無くなる。その恐怖を抱え、死ね」


 俺が歩くその道にある水溜り。そこに足を入れたときに飛び出す小さな水溜り数個が、加速してその械狼族ハウンドの脳髄を撃ち抜く。

 さっき獲得した能力スキル『圧力調整』を応用し、水圧を上げたのだ。


「お前たちの長は死んだ!

 ここにいる全ての魔獣に残された道は二つ!

 このまま元いた場所に帰るか。

 俺とこのまま戦い続けるか。


 これは械狼族ハウンドだけじゃない。

 妖狐族ヨウコンも、だ。

 お前たちの長が死んだわけではないが、共に来たということは、な?」


 別に本当に殺そうとしていたわけではない。ひとつの演出さ。

 だがしかし、それは唐突に起こりえた。


「我ら一同貴方様へ忠誠を捧げます!」


 頭を下げたのは妖狐族ヨウコンも同様にだった。

 あれ?逃げると思ったんだけど?

 というか、一匹倒しただけでまるまると収まる事態は想像してなかったな。

 すぐ逃げていくか、戦って途中で撤退するかと思ったんだけどな。


「お、俺はそんな選択肢用意してなかったんだけど?」


 滅茶苦茶慌てる俺。


「ならば、我らの命貴方様に捧げましょう。今晩の夕食の一つにでもしてください」


 ええ………。どうしたらいいんだろう。

 その選択肢は無かった。

 ってか、コイツら意志強すぎじゃね?


「いいじゃないの?僕は賛成だけど」


 いつも通りどこから来たのか分からないシノンが俺に助言をくれる。


「ま、いいか。これだけ居るけど………何とかなるか。

 なら、みんな俺に付いてきてくれ。

 まずは俺たちの仲間と仲直り?をしてもらう。それが条件だ」


「ご尤もであられます」


 そして、その二種族。合計数231匹。

 そこの妖精人エルフの村と、うちの村にいる妖精人エルフ小鬼ゴブリンを合わせて292人or匹。

 総合計が523人+匹になったのだ。


 この人数を統治する村長ら大変だろうな。


 このときは思いもしていなかった。あんな、マジであんなことになるとは。




 ***




「た、ただいま」


「お帰りなさいませ。

 ………いや、なぜそうも顔を引き攣っておられるのですか?」


 バレたか。


「いや、実はな。とても大事な話があるんだよ。とても大事な、な。




 それはだな。械狼族ハウンド妖狐族ヨウコンを配下にして連れてきちゃったっ!てへぺろ」


「な、なんですと!?つ、連れてこられたのですか!?ど、どういう流れがあればそういうことになるんですか!どうなればあの二種族を配下に出来るんですか!」


 え、めっちゃびっくりするやん。

 怒ると思ったけど、それどころじゃないみたい。


「いやーね。これがちょっと面倒くさい話なのよ」


 そして事の顛末を伝える。

 配下になる条件である仲直りの件も。


「確かに納得いたしましたぞ。

 械狼族ハウンドは実力主義な種族、妖狐族ヨウコンは賢明な種族。貴方様の下に付きたいと言うのも無理はありませんな」


 械狼族ハウンドはそれで説明できるけど、妖狐族ヨウコンは分からないな。

 別に逃げたって良いだろうにさ。


『それは、妖狐族ヨウコンに何かしらの意図があると考えられます』


 そっか。聞き出せるものなら聞き出してみたいけどな。


「では、我らも宴の準備をしてまいります。

 シャルロット様は械狼族ハウンド妖狐族ヨウコンをここにお連れください」


 村長とユエンは去っていった。

 そして、残された俺とシノンは少しの沈黙の後、村の外で待たせている械狼族ハウンド妖狐族ヨウコンを村の仲間で連れて入っていった。


「村長、ユエン、連れてきたぞ。

 コイツら全員食える分の物は本当にあるのかな」


「ハッハッハ。そこはご心配なさらず。

 味は兎も角量はしっかりとありますゆえ」


 そっか。ここら一体は獣も豊富って村長が前に言ってたよな。

 動物………魔物………その両方とも肉美味えんだよな。


「では、宴へと参りましょう」


 ユエンの誘導により俺とその他大勢がその村の大広間に連れて行かれた。

 こんなところがあったのかと驚く俺。

 それとやはり萎縮している妖精人エルフたち。まあ、自分の身内に被害が出たとなれば仕方ないよな。


「えー、これより宴を始める!

 しかし!今日はその前に皆に一点伝えて置かなければならないことがある。

 それは、ここにいる械狼族ハウンド妖狐族ヨウコンについてだ!」


 俺の主導のもと、宴の最初は演説から始まった。


「あなた達にとって、この二種族は敵対するもの、親、友、恋人、家族の仇かもしれない。だが、今よりこの二種族は俺に降伏し、軍門に降った!

 だから、あなた達に手出しをすることはない。心配しないでくれ」


 俺が妖精人エルフたちの説得を試みる。

 そして、俺と話をしていた今の械狼族ハウンドの代表が壇上に上がる。


「我が同胞があなた方に悪しき行いをしたこと、ここに謝罪する。

 もしも、謝罪だけでは済まないというのなら、我らの首を捧げよう」


 同時に械狼族ハウンド全員が頭を下げる。妖狐族ヨウコンらも恐る恐る。


「確かにあなた方のしたことは許されざることでしょう。

 しかし、これも弱肉強食の摂理の一貫。ただ今回はシャルロット様がおられた故に我々が勝利したのみ。

 あなた方がこの方に中世を捧げると言ったのなら私たちは何も出来ませんよ」


 おいユエン。こっちを向いてニヤるな。

 俺にコイツらどうにかせいとでも言いたいんだろ?責任とれとか言いたいんだろ?

 はあ………。してやられた。


「まあ、そんなことだから妖精人エルフも、そして械狼族ハウンド妖狐族ヨウコンたちも、気兼ねなく宴を楽しんでくれ」


 始まりの合図と共に各自一斉に肉と酒を手に取り大きな喝采と幸せそうな顔をする人たちでこの村は埋まった。


「此度の件、誠に感謝いたします。

 シャルロット様」


「いいって。殺さずに傷めつけずに、が今回の目標だったからな。まあ、械狼族ハウンドの長を殺しちゃったけど………。

 怒ってないのか?」


「やはり思うところはあります。

 しかし、弱肉強食の世界。そして、仕掛けたのは父です。

 怒る道理がございません。

 私達は妖精人エルフの方々に許しを得た身。

 ここで怒っては械狼族ハウンドの面子に関わるでしょうから。

 それに、妖精人エルフにも思うところはあるでしょうし」


 コイツ、長の子だったんだ。

 やけにしっかりしてると思ったら。


「確かに、我らにも思うところはあります。

 よくご覧になってください。

 ただの住民は良いものの、家族を失った者、友人が寝たきりの者、四肢が無くなった者。

 全てが許せるという訳では無いのでしょう。

 しかし、それでも仲良くしようと試みる馬鹿しか、うちには居ませんので」


 大人だなユエン。

 俺だったら完全に警戒して解く気なんて微塵も残さないのに。


「ですから、あまり気を召さずに」


 肉、肉、肉、オレンジジュースを繰り返す俺の横で、妖精人エルフ械狼族ハウンドが仲良くしているのは良いことだ。


 肉、肉、肉、オレンジジュース。

 肉、肉、肉、オレンジジュース。

 肉、肉、肉、オレンジジュース。


 美味いな。ここはソースがまた味がい違う。

 本当、自家製って感じだ。


「ところでさ、あの妖狐族ヨウコンたちのがっつきっぷりはなんなんだ?」


 右手の肉を完食した後、言う。


「ああ。あれは、我らが住んでいた東方領域が関係してきます。

 我らが住んでいいた密林地帯は生物が豊富でして、確かに最近は減少傾向にありましたが、それでも飢えることはなかったにです。

 しかし、妖狐族ヨウコンらの住む塩湖地帯はそうは行きませんでした。

 度重なる自然災害によって、獲物は激減。

 そして、干魃による水面の蒸発。

 数百年に一度とも言われる大災害の影響で飢えが限界に近づいていたのでしょう」


智慧の処女エレイン』や、その大災害ってどれくらいのものなの?


『日照り、地震が3ヶ月ほど続いた大災害です。地震も、大地が割れ木々が薙ぎ倒される程の地震でしたので』


 ヤバイな。それって大地震のレベルだぞ。それが3ヶ月も頻繁になんて。


「だから、コッチに来たわけ?」


「はい。災害の影響は無く、まだ獲物も多い。

 そして適度な温度湿度のこの場所へと渡ってきたのです。

 我らはあの妖狐族ヨウコンらと仲が良かったもので、共に。


 あの群れの長、まだ私よりも幼いというのに………」


「誰が長なんだ?」


「あそこにいる、周りより明らかに小さい子がそうです。

 先代が飢餓により亡くなられたため、娘であるあの子が継いだのです。

 まだ、人語も完全には話せぬ頃に」


 なんか、聞くと聞くだけ可哀想な話だな。

 飢餓に災害か。さぞ辛かっただろうな。


「飢餓、ですか。

 こちらの領域ではあまり聞かないことです故、気にしておりませんでしたが」


 さあ、これからどうすっかな。

 この人数をこの村には残しておけないし、飢えを解決しないとだし。


「なあ、どう考える?」


 俺が発した唐突な一言に村長、ユエン、そして械狼族ハウンドの現長が首を横に傾げた。



「!! スライムが喋った、だと!?」

「!! スライムが喋るなんて!?」

「!! スライムとは喋るのですか!」


 あれ?喋ったこと無かったっけ?

 いや、あるハズ!


「今まで何回か喋ってたはずだけど………」


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