第10話 エルフは見た目、薬は効き目!

 迂回路を沿って進んでいくと、村長が言った通り妖精人エルフの村が出現する。

 これまで魔物には一度も出会わなかった。智慧のある魔物も、ない魔物も。


 道すがら、色々気になっていた事を聞けた。

 この世界の人間のこと。その人間たちの一部の強者が、魔境に入ってきていること。

 ヴァルアス元い辰爾が消失した今、新たな支配者を目指して様々な魔物が動き出していること。

 この空白の領域が解き放たれたことによって、世界情勢が大きく動きかねないこと。


「着きましたぞ。ここが我々と交流の多い妖精人エルフの村でございます。

 一度も魔物と出会わなかったのは幸いでございましたな」


 話していると、案外直に時間は過ぎるものだな。

 村長が先に村に入っていくと、安堵したような表情を見せた。良かったな、村長。


「こちらは、我らと協力してくださる旅の御方で、名は、シャルロット・ランビリスであられる」


 村長の知り合い?に俺たちを紹介したようだ。旅の者と紹介したんだな。確かに初日の夜そんなこと言った気がするけど。

(まだ一日も旅してないんだけどね!)

 この妖精人エルフの長、どう見ても弱小ウィークなんてもんじゃないな。

 村長と比べると、面白えぐらいの魔素量だ。

 それにイメージ通りの妖精人エルフだし。若くてイケメンな。


 そして、村長とその村の長的な人は、知っている限りの情報を交換していた。

 俺を交えて三人で。

 交換した情報は、こちらからは小鬼ゴブリンたちの協力を得たこと。械狼族ハウンド妖狐族ヨウコンに対抗する準備をしていること。後少しで全面的に戦うことになるかも知れないこと。

 そして相手方からは、械狼族ハウンド妖狐族ヨウコンの正確な数。この村の妖精人エルフの戦闘員の数。有効な罠などの対策、を教えてもらった。


 因みに、ちゃんと協力関係の締結はしておいた。

 村長が居るからか、今まで一番早く終わったんだよな。


「しかし、これで安心………とはいかないな」


「どういうことですか?」


「うちの村は東方領域と近くてな、ここら一帯で一番被害が出てるのだよ。だから、重負傷者が多い。死者も………」


 確かに、方角的に言えば此処って東だな。

 そう、南西の村を迂回し、遠回りして東に来ていたのだ。


 重負傷者に死者、か。

 やはりこの村が一番被害が大きいな。

 被害数を聞くと、それは村の全人口の15%にも該当する90人だそう。

 これだけの数を介護するのは厳しい用で、助かりそうな人を最優先にして、死にかけの人はもうどうしようも無い、と苦痛な表情で語ってくれた。

 俺にどうしようもないし────


『シノンに捕食させていた魔草の中に、ハスズジ草という魔素を含む特徴のある回復薬に適している物があります。調合するために取り出しますか?』


 Ye………ちょっと待て。

 ここで取り出すと、絶対変な目で見られることになるぞ!それ嫌だそれだけは絶対に嫌だ!


『ならば、マスターの亜空間とシノンの亜空間(胃袋)の一部を共有化させますか?』


 それいいね!出来るのか?


『シノンの承諾があれば、ですが』


 そうか。


「なあ、シノン。前に魔草色々食ってもらっただろ?その中にいい回復薬になりそうなヤツがあるから取り出したいんだけど、ここで取り出すのもアレだし、イチイチそれやるとこれからも面倒だから、一部だけ亜空間(胃袋)を共有化出来ないかな?」


「おっけー」


 ふたりにしか聞こえない声で囁く。

 ふたりは何話してんだ?って感じになってたけどね。


 んじゃ、『智慧の処女エレイン』オナシャス!


『了解しました。これより、亜空間の共有化及び、アススジ草による回復薬の作成を開始します』


 よし、これで少しは負傷者も対応できるようになるかも。

 ………………………………………………………………………って、ちょっと待て。

智慧の処女エレイン』なんでお前はシノンの亜空間にハススジ草があるって知ってたんだよ。話したこと無かったよな。

 その前に、シノン亜空間持ってることを知ってるのも可怪しいし。


『……………』


 もう良いよ。不利益な事になると途端に黙りだすんだからさ。

 今は保留にするけど、いつか絶対に話してもらうからな。


『いつか必ずお話致します』


 はい。今『智慧の処女エレイン』本人から秘密があると自白してもらいました!


『…………………………………………………………………………………………………………………………』


 ほら、やっぱり明らかに焦ってる感じで無言じゃないか。

 まあ、今日のところはもう訊かないけどね。


 村長らと今度は他愛の無い話をしていると、『智慧の処女エレイン』が薬が完成したというので、妖精人エルフの村の長に連れて行って貰い、負傷者──特に重負傷者──がいる棟へ来た。


固有回復薬ユニークポーションの作成に成功しました。固有回復薬ユニークポーションは、ハススジ草を改良した回復薬ポーションで、ダメージが大きければ大きいほど効果が上がる特殊な回復薬ポーションです』


 だからユニークなのね。

 これを使えば重負傷者が助かる確率が跳ね上がるというわけだな。


『89.3%生存率が上昇します』


智慧の処女エレイン』さんや、アンタ確率計算で一回外してるの覚えてますかな?


『………是………』


 落ち込むなよな。別に責めることはしないから。

 あれは単に情報が足り無さ過ぎただけだ。

 武器が折れるとは俺も思ってなかったし。


 さあ、今は治癒を優先するぞ。

智慧の処女エレイン』は、もう少しでも生存率が上がるように改良してくれ。


『承りました』


 そして、俺は負傷者たちの中心へと向かう。


「ちょっと見ててくれ。

 これからコイツらを蘇生する」


 両手を広げると、負傷者の真上に最初は小さな透明な液体の粒、そしてそれが膨れ上がるように拳三つ分ぐらいの体積の水玉になった。

 これが固有回復薬ユニークポーションである。


「これは………ッ!」


 村長は、何か、までは悟られなかったようだけど、普通じゃないことは察したようだ。

 この村の長は、ハススジ草までは当てていた。特殊なほんのり甘い香りがしたそうで。


「本当にただに旅人か?ハススジ草なんて貴重なものそう大量に取れるわけはない。

 それも、迷宮庭園にでも行かない限りは」


 お、察しがいいな。

 別に答えは教えないけどね。


 空中にあった水玉が、負傷者に落ち、弾ける。まるで水風船が弾けるように。

 弾けた固有回復薬ユニークポーションは、全身にかかると途端に傷を癒やしていった。


「おお………!た、助かったのか!」


 起き上がる兵士たちが一斉に歓喜する。

 この村の長も歓喜する。

 この回復薬ポーションの特性上軽いキズは治ってないけどまあ、それは自分で何とかしてってことでいいか。


「ありがとうございます。この恩は………この恩は………!」


「別にそういうのいいよ。

 俺たちもこれから貴方たちに協力をしてもらうんだ。こういうのってお互い様だろ?」


「なんと寛大なお言葉!」


 さっきまでタメ語だった長が敬語になりあがった。タメ語の方が楽だったのにな。


「その代わり、これから戦う械狼族ハウンド妖狐族ヨウコン戦ではこの村が主力になる。その時は頼むぞ」


「はいッ!祖リユメスと我、アルカ・ユエンの名に誓って」


 へえ、この人アルカって名前なんだ。

 ………………………………………………………………………って、村長たち名前聞くの忘れてた!

 ハッとして村長らの方を向く。もういいや。後で聞いておこ。

 今はそんな場合じゃないし、ちょっと気になることもあるしな。


「アルカさん、祖リユメスってなんだ?」


妖精人エルフは性が先に来ますので、私のことは、ユエンとお呼びください。それに、敬称は不要でございます。

 祖リユメスのことでしたかな。

 祖リユメスとは、妖精人エルフのげであられる方でございます」


 始祖ってことは、そのリユメスっていうのは妖精人エルフ最初のひとりっていうことか?

 最初っていうことは、親は居ないわけで………。どっから生まれてきたんだ、妖精人エルフよ。


「ともかく、これからが本番なんだ。

 ま、本当はこんなクダリをする余裕も無いんだけど。すまんな」


「いえ、滅相もない。

 あなた様が四つの集落の未来を抱えておられる御方。

 我らこそ、あなた様が抱え込んでいるものを推し量れずに申し訳ございません」


 確かに普通はそういう考え方になるよね。

 ま、俺は四つの集落の未来を抱え込んでいるだなんて考えてなかったんだけどね!

 思いつきもしなかったし。


「あ、いや、そうじゃなくて」


 首を傾げるユエン達。

 これ以外何があるのかって思ってんだろう。


 だが、事態は予想通りの展開になった。


『種族名械狼族ハウンド妖狐族ヨウコンが合計数133匹に到達しました』


智慧の処女エレイン』の報告が、より実感を沸かせる。


「………!」

「………!」


 どうやらふたりとも気付いたようだ。


「シャルロット様、これは………!」


「村長慌てるな。

 妖精人エルフたちが一向に気付かないから可怪しいと思っていたけど、隠蔽ステルス系の能力スキルだったのか」


 ようやくひとつ謎が解けた。

 勝手な想像だけど、この能力スキル妖狐族ヨウコンの方のだろう。

 村長から聞いた生態からの推測だ。


「俺も完全に信じていたわけでは無いが、やっぱこうなったか………。


 アルカ、村長、避難誘導を頼む。

 俺が出向くから」


 それだけを言い残して出ていった。


 なあ、これって俺達だけが目的なのかな?

 なんだろう、それにしては余りに二種族間の干渉が無いように思えるんだけど。

 普通、ひとつの場所を争うなら両者邪魔し合うものなんじゃないのか?


『恐らく、今回の件に関しては相互で利害関係があるものだと推測します。

 推測材料として、この二種族の間に敵対的な感情は見られません』


 そっか。なら、やっぱ狙いは俺たちか。

智慧の処女エレイン』が、是、と答える。

 なら、急がないと。


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