あいらぶゆー、は難しい

CHOPI

あいらぶゆー、は難しい

「だいぶ涼しくなったねぇ」

 隣を歩く、頭一つ分高い位置からキミの声が、サラリと頭上に降ってきた。『言われてみればそうだな』と思いつつ、答える代わりになんとなく自分の右手を、キミの空いている左手と繋いでみる。思いの外体温の高いキミの手が、心地いいと思うくらいには涼しいらしい。


 昼間はまだまだ残暑で暑い、とはいえ、日が落ちれば吹く風はめっきり涼しくなった。もうそろそろ『たまには、ね』と言ってお風呂上りにキミとコンビニへ行って買う物も、アイスでは無くなっていくだろう。次に買いに出るとき、キミの右手にぶら下がっている袋の中身は何に変わっているだろうか。


 周りの草むらからは賑やかな虫の声が聞こえてくる。かの有名な清少納言も枕草子の冒頭部分で『秋は夕暮れ時も良きだし、日没後の風の音や虫の声聞こえるのもイイね!』って言っているんだし、こういう風景に風情を感じるのは遺伝子レベルに組み込まれているんだと勝手に思っている。


「ねー、今日は月がすっごく明るくてキレイだねー」

 繋いだ右手に少しだけ力を入れて、空を仰ぎ見つつ話しかけた。少しだけ手に力を込めたのは、意識を私の方に持ってきてほしかったから。そのことに気が付いているのか、いないのか。隣を歩くキミが私と同じように空を見上げたことが、何となく気配で分かる。


 外灯が少ないこの道は、天気でその明るさがかなり左右される。今日この道がかなり明るく見えるのは、雲一つない空に眩しいくらいの光を放つ月が空に浮かんでいるからに他ならない。金色で、まん丸で、大きく光る月は、自分で輝いていないなんて嘘では無いか、というくらいの光を放っている。


「『月が奇麗ですね』、だっけ」

 キミが、有名な文豪がかつて英語の愛の言葉を和訳した際の話を出してくる。ソレに返す言葉はもはやテンプレなんだけど。

「『あなたのためなら死んでもいいわ』、で満足?」

 私がそう返すと、ふはっ、っと漏れ出るような笑いがキミの方から聞こえてきて。

「嬉しいけどね。オレ、『愛してる』を理解するのはまだ難しいわー」

 その言葉を聞いて、私も思わず笑ってしまう。

「私も。『大好き』は毎日更新してるんだけどなー」


 月明りに照らされた道を二人、手をつないで歩いていく。キミが横に居てくれる、もうそれだけでずっとキミへの『大好き』を更新している私にもいつか。愛してる、を理解できる日が来るんだろうか。もしかすると『大好き』の更新が終わる日がきて、それでもキミと一緒に居ること選び続けることがもう当たり前、になっているとしたら――……なんて考えて止めた。……だって『大好き』の更新が終わる日なんて想像ができないから。



 愛してる。

 その意味が分かるその日まで。そしてその意味が分かったその日からも。隣にいるのはキミがいい。

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