検死官自分の死体を検死する

ーエルフの死体を検死してから12時間後ー

リカルド太陽は、魔法学園アリスが管理する魔法警察人類支部に来ていた。

ラプラス先輩によると、昨日の移動中に緊急の報告があり、検死する必要がある死体が見つかったらしい。


僕の状態を見て前回の検死から少し時間を置いてから検死をすることを提案し本部も納得したらしい。


そこで死体は、発見された魔法学園にある魔法警察人類支部に運び込まれた。

しかし、どうにもここは落ち着かない。


というのも、魔法学園は、16歳から18歳まで場合によっては、20歳まで通う学校らしい。15歳から既に働いていた自分とは雰囲気が合わないのもある。

もう一つは、この学園に通う生徒の大半は、いわゆる貴族と呼ばれるような由緒正しい人たちというのもあり、自分とは関わることもないような人たちだろう。

魔法学園ということで、魔法の血統や特別な才能がある人もいるらしいが、この学園に魔力を持たない人類がいることはほとんどないだろう。

そんな場所で人類の死体が発見されたというのは不可解な話だ。


まして、その死体が自分というのは、すごくおかしいというのが感想だ。


ラプラス先輩がいうには、自分のDNAと一致した死体が魔法学園で見つかったということだ。

魔法学園という落ち着かない場所に、自分の死体と思われるものがあり、それをこれから検死するというのは、正直なところよくわからない。


そもそも僕は現に生きているわけだし、これから対面することになる死体は、僕以外の誰かと考えた方がいいだろうけど。

魔法関連のよくわからないことに巻き込まれた死体じゃないだろうか?

仮に僕自身だったとして、能力を使った場合どうなるのだろうか?

同じように死の体験ができるとして、それは、僕が同じ死を体験するのだろうか?

よくわからない疑問しか出てこない。


とりあえず死体に対面するしかないか。

遅い朝食を食べ終えて、ラプラス先輩(丸いドローン形態)の元へ向かう。

「ラプラス先輩準備できました。」

「了解。それじゃあ行こうか〜。」


死体は綺麗に保管されていた。

「これは?」

驚いた。本当に人間の種族だ。耳の形も体格も、普段見るエルフや亜人種とは異なっていた。さらに言えば、顔もどことなく自分だった。

「本当にそっくり〜」

ラプラス先輩が言うんだから本当にそっくりなんだろう。

「リカルド太陽検死官、只今より検死を開始する。」

「了解。」


ラプラス先輩がスキャンを開始する。

僕も、インキュベーターと呼ばれる機械を手に装着する。

「検証。この死体の死因は不明。外傷はなし?いや手に傷がついてる・・?

この傷は何?太陽検死官わかりますか?」

「火傷・・ですかね?でも外傷というよりもこれは刺青に近いような気がします。魔力検知をお願いできますか?」

「魔力検知・・解析中。82%の確率で魔力による傷の可能性あり。スキャン終了。この死体は100%の確率でリカルド太陽のものだと断定。」

「本当に僕の死体なのか。驚いたな。魔力による傷から事件性の確認は?」

「今の所事件性の判断がつく材料が見つかっておりません。」

「インキュベーターの使用を要請。この死体には、不可解な点が多すぎる。」

「リカルド太陽検死官、危険すぎます。これは先輩としての忠告です。」

「しかし、これは能力を使うべきです。」

「わかりました。申請します。・・・?インキュベーターの調整が必要とのことで少し時間がかかるそうです。」

「時間?いつもなら、拒否か認証だけなのに驚いたな。」

「この死体のデータはインキュベーターに使用できるかわからないみたいですね〜。少し情報をまとめましょう。」


インキュベーターと呼ばれる機械の調整を待つ間に、死体の情報の確認をすることにした。

リカルド太陽と同じ見た目の死体は、魔法学園の制服を着ていた。

さらに血液の状態からも10代の可能性が高く、そこが僕自身と異なっていた。

さらに言えば、制服も特待制度の制服であり、これは魔法学園で何らかの事件性があることを予感させた。

一つ疑問が生じるのは、この死体の状態だった。

この死体は、いつ死んだのか不明なのである。なぜなら持ち物はほとんど5、6年前のものだった。


持ち物の学生証と思われるものは機械仕掛けであり、魔法警察は、まだ調べていないようだった。

これは、端末?

無意識に端末の起動をしていた。

自分でもどうやって起動させたのかわからなかった。


その瞬間。

インキュベーターコード:アノニマス起動

その表示が出たかと思うと、急に、インキュベーターが起動した。

「えっ?」

急に能力が起動する。調整待ちだったはずの機械が動作して慌てているのは僕だけではなかった。

「太陽検死官?まずい!!」

ラプラス先輩が僕の肩に張り付き、インキュベーターの起動を止めようとする。


しかし、既に機械は起動してしまった。

こうなってはどうしようもない。

落ち着いた口調でいつも通りのセリフを言う。

「これより、リカルド太陽の検死を開始する。」

人生で一番言わないセリフを言って、僕は自分死体の検死の事件性を検証することになった。


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