謎の死体と検死官

「いや〜、不思議な死に方だね。今回は。」

ラプラス先輩が楽しく語りかけてくる。

新型飛行機の運転にも慣れてきたようだ。

「ええ、今回は僕が体験した中でもなかなかわからない死に方でした。

これも最近噂になっている犯罪王の仕業かもしれません。ただここから先は、魔法による操作の領域ですし僕らにはどうにもできませんからね。」

僕、リカルド太陽は、検死官である。

それも人類唯一の。

15歳でとある事件に巻き込まれてから、23歳になる今まで数々の死体の事件性を検証してきた。

人類犯罪特別対策課ここでは機械による捜査をする唯一の部署だ。

この世界では、今や魔法は当たり前で機械を使う技術というのは衰退している。

というよりも機械というのはかなり古い技術なのだ。

「魔法ってのは、私にはわからないからね。まあ、太陽君。今日は能力を使ったんだから、本部に着くまで眠っていてもいいからね。」

ラプラス先輩が優しく声をかける。

なんだかんだこの先輩は、人間的だと思う。人工知能ではあるんだけれども。

そんなことを思いながら目を瞑る。


インキュベーター1000年前の人類が作ったとされる古代の遺物。

そんな遺物を扱うことができる人間がリカルド太陽だ。

彼の能力はインキュベーターを起動することができる。

具体的には、死体が経験した過去に戻ることができる。タイムシフトという能力とされている。

過去の勇者が使っていたと言われるチートという能力に近い。

唯一の違いは、彼は過去に戻って、被害者の代わりに殺されると、元の時間へ戻ってくるということだ。

すなわち、過去に戻って同じ体験ができるだけ、未来を書き換えたりすることは今のところできない。

というのが学会の見解だ。


それは間違っている。

厳密に言えば彼の能力は未来を書き換えることだ。

そんな彼の能力を知っている人は少ない。

それもあり、彼の周りには、人間ではなく古代の遺産、人工知能による機械たちだけがいる。


そんな部署が検死を行うようになったのは、犯罪王と呼ばれる人物の登場からだ。魔法犯罪ではない、謎の死体がここ数年急増したのである。

これを古代遺物関連の事件として、人類犯罪特別課所長は捜査を開始した。

所長補佐として、機械技師だったリカルド太陽は、検死官として活躍するのもこの時期からになる。


彼はこの魔法国家の国で唯一の機械を使える人間だった。

彼は15歳から、機械技師として国家を支えており、学校に通ったこともない。

そんな彼が、23歳になるまでに3000の死体を検死して、2000回ほどの死を経験しているのは、過酷な運命だと考えることもある。


人工知能兼彼の監視役でもある私ラプラスが知っているのは、こんな情報だ。

彼の人生に何があったのかはわからないが、彼には普通に生きてほしいなんて思ったりしている。


本部から連絡が入る。

「ラプラス君、リカルド君、検死の要請が来ている。

今回は緊急事態だ。人間の死体だ。それも遺物関連の可能性が高い。

なぜなら、DNA情報がある人物と一致した。」

「ある人物と一致?データベースにあったのですか?」

「そうだ。検死官リカルド太陽と同じものだ。というか彼である可能性が高い死体だそうだ。」

「はい?それはどうゆうことでしょう?」

今度の死体は検死官自身の死体らしい。

検死官が自分自身の死体を検死することになることを、当の本人はまだ眠っていて知らないのだった。

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