彼女の愛はトルマン・オッペンハイマー・ヴァルコフ限界より重い
甘志保陽様
検死官は一度死ぬ。
「この死体は事件ですかね。」
ハイエルフの死体が発見されたという報告を受けて、我々魔法科捜研が来たのは20時のことだった。
「さあな。」
そんなことを言いながら先輩は、死体を確認している。
我々の魔法は、時間操作。
と言っても、空間の時間を止めるだけで、過去に戻ることはできない。
現場の検証と保存それだけが我々の役割だ。
基本的に魔法は死体に干渉することができない。
だからこそ、こうゆう時に我々は、現場の保存をすることしかできないらしい。
何せ私は、今日はじめて事件現場に連れて行ってもらえる新人だからだ。
そんなわけで、事件性を確認するための特別課を待っているが、遅い。
「先輩、それでどんな方がくるんでしょうか。」
かれこれ時刻は22時になろうとしていた。
時計を気にしている私を見て、落ち着いた声で先輩はつぶやいた。
「検死官だ。」
検死官?聞きなれない単語だ。
「人類特別犯罪対策課という場所からくることになっている。」
「人類特別犯罪課?あの魔法を使わない操作をする部署ですか?」
「そうだ。魔法をつかわないというよりも、使えない。人類というのはそうゆう種族だからな。」
なるほど。私たち7つの種族の中で唯一魔力を持たない種族人類。そんな人が事件現場に向かっているから遅いのか。到着が遅れるのも納得だ。
転移魔法でこれないのだから到着が遅いはずだ。
「でも人類って珍しいですね。基本的にあの部署は機械という擬似ゴーレムがほとんど仕事をしていると聞いています。」
「ああ、お前はまだ知らないのか。今からくる検死官は、人類特別課で唯一の人類、つまり唯一の人間だ。」
唯一の人間。そういえば、人類は基本的に、魔法の適性がなく、こんな魔法社会では暮らしてないと聞く。実際私は、エルフという種族だ。
人類と呼ばれる純粋な人とは出会ったことがないかもしれない。
どんな人物なんだろう。
ピーという音がした。
何の音だろうか。
「新人!こっちに来い。」
「えっ?はっ、はい。」
「来るぞ。ついに到着だ。」
先輩が嬉しそうにいう。
ーブォオオオオオオオオオオー
そんな音とともにドラゴンのようなものが降りてくる。
「いやー、遅れてすみません。まだこの機械に慣れてなくて。」
そう呟くのは、丸い物体だった。
精霊だろうか。この精霊みたいなのが人類?
「危うく酔う所でしたよ、ラプラス先輩。」
ドラゴンみたいな乗り物から、そう呟きながら出てきたのは、男だった。
「すみません。よくわかりません。」
丸い精霊もどきはそう答える。
そんな光景に呆気に囚われ固まっている私を無視して、先輩が男に近づく。
「はるばる遠くからすまない太陽検死官。」
「いえいえ、お互い様です。刑事殿。うちのラプラス先輩が新機体を試したいとのことで・・・」
「まだまだ調整が甘かったんです〜。」
「ラプラス殿もあの事件以来かな。お久しぶりだね。」
「ご苦労様です〜。」
そんな感じで会話を楽しんでいる先輩たち。
「リカルドた、太陽検死官。それでは検死の方をお願いしたのでありますが。」
ひとまず事件性の確認を早く済ませなければ、今後の行動も決めれない。
本当は先輩たちだけで会話していたのが少し羨ましくて、会話を中断したかったという気持ちもある。
「そうですね。それでは今から検死を開始します。」
検死官の顔つきが変わる。
検死官は特殊な魔道具らしきものを手に装備していた。
機動隊とかの魔術装甲のような何かだろうか。
「新入り。お前はこっちに来い。」
先輩が私に声をかける。先輩はボソッとつぶやいた。
「あまり見ない方がいいかもしれない。」
「えっ?」
どういうことなんだろう。少しの疑問を持つ。
「ラプラス先輩。この人の情報は?」
「検索中。タイプalpha。エルフのハーネスという男に似ています。外傷はありません。しかし、事件性がある可能性は、50%グレーです。」
「インキュベーターの使用許可を求める。」
「使用許可承認。それでは検死官。良い旅を。」
バンッ!
衝撃音が聞こえた。思わず振り返る。
すると衝撃的な光景が広がってた。
検死官が、血を流して倒れていた。
「検死官殿!」
こんな時に先輩は外で一服しているなんて。
検死官の体に触れる。
「魔力解析。」
エルフ特有の魔法。怪我の状態を調べる。
「嘘っ。死んでる!」
どうして、なんで。
彼に何が起きた。魔道器具を起動して、応援を呼ばなければ・・
魔道器具を手に取ろうとすると、止められた。
先輩の手だった。
「先輩なんで・・・?」
「これが彼の役割だからだよ。」
そう呟くと先輩は、ラプラスと呼ばれる丸い精霊の方へ歩き出す。
「すまない。新入りは色々はじめてで、混乱してしまってな。邪魔したなら悪い。」
「いえいえ〜大丈夫です。我々の作業に問題は生じておりません。」
「ええ、問題なく終わりました。」
私の下から声がする。
「あっ!??」
「きゃあああああ。」
私の下には、先ほど死体になっていた検死官がいた。
私は驚いて腰が抜け、彼の顔面へ尻もちをついた。
「グヘえええええ!!!!」
もはや新たな事件のような光景だった。
「色々とすみません。本当に。」
「いえいえ。驚かせてしまって申し訳ない。」
そう言いながら検死官は手をかざす。
映像が流れる。
「グアああ。助けてくれ。お前は帝国のスパイだな」
「何だ・・。その魔道具。見たことがない。」
「頭が・・痛い。」
この声は、被害者のもの?
「検死の結果事件性ありです。」
淡々と検死官が語る。どうやら映像の解説らしい。
「何か質問はありますか?」
「この映像は何ですか。検死官殿は死んでいたのではないですか?」
「あー、話すと長いんですけど、僕は死体に触れると、その死体が経験した死に方を再現できるみたいな感じなんですよ。」
「はあ、、」
「まあ、要するに、僕は事件性のある死に方をしたので、この死体は事件性があるということです。僕の役目はこれで終わり。あとは引き継ぎます。」
「ご苦労だったね。太陽検死官、ラプラス監視官。あとは我々魔法科捜研が任される。」
どうやらあとは先輩がラプラスと呼ばれる人?と引き継ぎをするらしい。
なんか衝撃的だった。魔法は安全で機械は危険なんて呼ばれるけれど、あの技術は本当に怖かった。
先輩が呟いていたあまり見ない方がいいという意味がわかった気がする。
「あの、よかったらどうぞ。」
そう言って太陽検死官から、コーヒーとタオルを渡された。
「すみません。ありがとうございます。」
コーヒを飲みながらタオルを受け取った。
「そのタオルは血をきれいに落とせるんだ。」
そう言って私の体についた彼の血を検死官は取ってみせた。
「すごいですね。それも機械の技術なんですか?」
「どちらかというと化学だけど、まあ、今となってはそうかもね。」
検死官は笑ってそう答えた。
「先ほどはすみませんでした。鼻大丈夫でしたか?」
思えば腰を抜かして彼の顔に尻もちをついてしまったんだった。
「いえいえ。はじめての経験でしたけど、面白かったですよ。」
「面白かった?」
「ええ、なんか生きてるって感覚の痛みでした。」
「そうですか。」
「僕は、リカルド太陽、検死官です。あなたは?」
「私ですか?失礼しました。私は、チャンド・セカール魔法科捜研解析担当官であります。」
「そうなんだ。またどこか別の現場で会った時はよろしく。」
「はい。その時は。」
「おい!新入り。事件性ありだと本部に連絡しろ!」
先輩の声が飛んでくる。
「了解であります。」
後ろを振り返ると検死官は既に乗り物に乗っていた。
「そのタオルはあげます。袖に僕の血がついてますよ。真っ赤な。新入りの制服は大切にした方がいい。」
検死官からの発言で袖を見る。確かに真っ赤だった。
相変わらずあの人の能力は謎で怖いけれど、お同じ赤い血が流れていると知ると少し安心する。
本部へ連絡するため検死官とは反対方向に行こうとして後ろを振り返る。
「あっ。」
検死官がそう呟いた。
どうしたんだろう?
「セカールさん。後ろのスカート破けてパンツ丸出しですよ!!気をつけて!」
どうやら尻もちなどのゴタゴタで、スカートの後ろが裂けていたらしい。
袖についた彼の血よりも私の顔は赤面していた。
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