7. しょーもないとは失礼な!僕こそは闇と対峙する選ばれし者
特別な力を持つ僕は、人知れず運命付けられた仕事をこなしている。
それは、街に跋扈する闇の者と戦い、祓うことだ。
建物の影など、人目につかない場所は闇がたまりやすい。今朝も登校中、猫があくびしている建物の影に闇の気配を感じて、こっそり印を結んでいた。
「おはよう当真。仕事中?」
「なんだ、アヴェルか」
声をかけてきたのは、クラスメイトの鈴木アヴェル健人だった。クラスに「鈴木」が三人、「けんと」が二人がいるため、区別して「アヴェル」と呼んでいる。
少し前に転校してきたアヴェルは、僕に声をかける数少ない同級生だ。
ほとんどの同級生は、僕の崇高な仕事を理解できずに距離をおくが、アヴェルはどこだったか外国にいただけあって、物怖じせず今も話かけてくる。見た目も日本人離れしていて、よくクラスの女子に囲まれていた。確かに、青も緑も金も含まれたアヴェルの瞳の色は、かつて飼っていた猫のようできれいだと思う。
彼には何度か仕事をしている所を見られたため、特別に詳細を説明した時も、「そうなんだ」とあっさり受け入れた。さすがグローバル。視野が広い。
「どうしたの?」
「ああ。闇の気配を感じたので、祓っておいた。もう大丈夫だ」
「ふぅん、おつかれ。ところで、昨日の宿題で分からない日本語があったんだけど、これは何?」
「ん? どれどれ……」
近づくと、とても芳しい香りに包まれた。アヴェルが使っている香水だろうか。ふわっと体が温かくなり、心地よい眩暈と共に、抗いがたい甘美な眠りへと誘われる。
そこから先は、よく覚えていない。
意識を失った当真を、アヴェルは片腕で自然に支えた。他人が見ると、仲の良い友人同士がじゃれあっているように見えるだろう。脱力した人間は重い筈だが、アヴェルは全く重たさを感じさせず軽々と扱っている。
その状態で、アヴェルは建物の影に冷たい流し目を送った。
「ここでなにしてんの?」
視線の先にいたのは、あくびをしていた猫だった。先ほどとはうって変わり、おびえた様子で緊張感をはしらせる。
「私のものだと分かって手を出そうとしたんなら、容赦しないよ」
猫は急に姿を変え、黒い煙の塊となって、霧散した。
やれやれ、と当真をお姫様抱っこの形に抱え直し、持ち上げて頬ずりする。こうして自分の気配をマーキングしておけば、少しは虫除けになるだろう。
当真の言う「闇」というのが何を定義したものかはよく分からないが、たしかに多くの人間が見えていない面倒なものなら存在する。そして当真には、正しくその存在を感じる力もなければ、祓う力もない。
しかし当真は、「それ」にやたらと好かれ、引き寄せる能力だけはあった。
「だから私もしばらくここにいようと思ったのだけれど」
いっそこのまま少し味見をしてしまおうかと、アヴェルの瞳が細められ、薄暗く光る。
当真を抱きかかえる手を離すつもりは毛頭ない。
のんきに口を開けて寝入る当真の耳元に、甘くささやいた。
「ほんと、しょうもない能力をもっちゃったね、当真」
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