肆拾肆・路線検索

 ゴォォォォォォォ……

 あと何回飛行機に乗れるか分からないが、ひとまず、めっちゃ気持ち良い!

 と言っている間に、もう北海道の広大な大地の上に立つ滑走路が見えてきた。

 ザザーッ……

『皆様、ただいま新千歳空港に着陸いたしました。ただいまの時刻は午前十一時五十分、気温は摂氏十三度でございます。安全のためベルト着用サインが消えるまでお座りのままお待ちください。上の棚をお開けになる際は手荷物が滑り出るおそれがありますので十分お気をつけください。ただいまから全ての電子機器をご利用いただけます』

 着いた。

 確か、ここから電車に乗って日高へ向かうんだったはずだ。

『皆様、今日もスリーエックス航空をご利用いただきましてありがとうございました。皆様の次のご搭乗をお待ちしております』


 新千歳空港はすごい。グルメワールドに、飛行機の博物館、映画館、さらには温泉まで……。ここで一生過ごせそうなほどだ。

「……何か買って行こうかなぁ」

 ニコラ王太子へのお土産。

 いくら買っても私は大丈夫だ。お金は無尽蔵に作り出せる。

 ならそれで何を買うか。時間は無尽蔵じゃない。

 電車は……調べてみると、一時二分発の電車があったから、それに乗ることにした。

 ――あと、めちゃめちゃあるじゃん!


 空港を歩き回ると言っても、ものすごい広さで空港とは思えないほどだった。結局温泉にまで入ってしまったのである。

 ニコラ王太子に買ったのはショコラやまんじゅう、アイスクリームなどなど。

 やっと一時二分になり、快速電車が発車した。


 そこから南千歳駅で乗り換えたのが特急「とかち」である。

 とかちとは、十勝と書き、有名な場所らしい。

 ちなみに、行き先は「おびひろ」ということだ。

 今のところ、沖縄程の言葉の難しさはないが、それでも何でこういう漢字になるのかと言うものが数多くなる。

 とかちは電線で動くのではないらしい。調べてみると、ディーゼルエンジンだということだ。

「キレーッ!」

 そして、目的地である、占冠へ向かうまで、雄大な見渡す限りの北海道の草原を写真に撮るのだった。




『間もなく、しむかっぷー、しむかっぷです……』

 危なく降り損ねるところだった。南千歳駅から三駅止まったところだということは聞いていたが、それでも占う冠と書いてしむかっぷと読むとは、いやはや、北海道……。

 ディーゼルエンジンの列車とはお別れだ。

 素晴らしい景色と、素晴らしい弁当で、エマは一気に気合が燃え上がるのを感じた。

 カチカチカチカチ……

 復帰のニカも、燃えているのかハサミを打ち鳴らしていた。


 占冠からはバスが通っているため、バスに乗って終点の日高総合支所へ向かう。

 着くと、早速検索だ。

「魔術覚醒——路線検索、日高総合支所から牧場まで……」

 これはよく使う魔法だ。これを使うと、脳内に目的地までの地図が浮かび上がってくる。

 これを思い浮かべ、私は結構遠いなぁと思った。どうやら、高原にある牧場らしい。

 私はスマホを使って、“たくしーあぷり”を呼び出し、その場で“たくしー”を呼んだ。

 ――と。

 一分ほどで“たくしー”はやってきた。

「お待たせしました」

 人柄の良さそうなモノクルのおじちゃんがドアを開けてくれる。

「ええっと、あの、何て言うんでしたっけ、あの、高原の方にある牧場に行きたいんですけど……」

「あぁ、大八木牧場ですね。分かりましたー」

 漆黒の車が音も無く走り出す。

 ――アレ?

 と、私がタクシーに乗った場所の裏側、日高総合支所の前のバス乗り場に、たくさんの“たくしー”が並んでいるのを私は見てしまった。




“たくしー”改め“タクシー”は坂をグングンと登っていく。

 山ではなく高原だから、もうじき頂上の平野に着くのだろう――と思うと、道路に木のアーチが出現した。茶地に黄色で「大八木牧場」と書かれている。

 ここでは確か、ウマやウシをたくさん飼っているはずだったが……。

 キキィッ

「はい、着きましたよー。大八木牧場です。帰りは良ければ、またこのタクシーをご利用くださいねー」

 じゃ、また、と残して、車は去って行った。


 大八木牧場と書かれた小さめの看板がある、木の板と赤い屋根を持つ小さな小屋。

 その建物から柵が築かれていて、ウマやウシ、ブタ、ヒツジが点々としているようだった。

 ここにオーナーさんがいるのだろう。

 コンコン

「あの、ごめん下さーい……私、怪しい者じゃないんですけど、ちょっと雑誌の取材に参りまして……アレ?」

 と、思ったよりも天井が低い。何より、通路が狭すぎる。

「何、これ……」

 ひとまず、奥の方に進んでみる。

 横にはたくさんの金網と半分に切られた太めのパイプ。それが上下二弾になって続いている。

「……おかしいなぁ」

 明らかに違うなぁと勘付きつつも、私はズンズン先へ進む。

 と……何やら……。

「コケッ、コケッ、コケッ、コケッ、コケッ、コケッ、コケッ……」

 たくさんの「コケッ」の音がしきりに聞こえてくる。

 この謎の音は何なんだろう……。

 先へ進むにつれ、その正体がだんだんわかってきた。一枚の壁があり、そのドアを開けると……。

「コケッ!」

「コケ、コケ」

「コケコ、コケコ、コケコ」

 大量の赤茶色の羽と、赤いツンツンヘアーのようなトサカを持ったずんぐりした鳥が金網にすっぽり、大量の列になって収まり、ひたすらパイプに注がれた穀物を食べている。

 そして、今エマがいるすぐ向こうには白い上下のウインドブレーカーに身を包んだ、眼鏡のオジサンと黄色いワンピースを着た五歳くらいの女の子がパイプにどんどんエサをつぎ込んでいた。

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