参拾陸・魔絆話写

 え? 道がもうなんかすごいんだけども……。インパクトがヤバい。

 白い網の広いゲージが間隔を開けて並んでいる。ゲージとゲージの間には飼育用品などが立てられていて、しっかりと両サイドが埋められ、通路が作られていた。

 どうやら、右手側がワンちゃんのゲージ、左手側がネコちゃんのゲージらしい。

「ギャンギャンギャンギャンギャンギャン!!」

「ミャーン! ミャーミャーミャー!」

「うるさ……」

 なんで、こんなに? てか、そもそもこれどうやって転送すればいいのかな……?

「はい、え――んこっちき――ださ――よ!」

「え?」

 鳴き声がうるさすぎて、さっぱり言っていることが理解できない。

「え――さい! こ――す!」

「待ってください! 聞こえません!!」

 というか、そもそも璃子さんがどこにいるのかも分からない。もう少し大きな声で言ってくれたら分かるのに?

 と、急に鳴き声が引き、少し静かになった。

「え? 何で静かになったの?」

 両サイドにあるゲージをキョロキョロ見てみると、ワンちゃんもネコちゃんもゲージの奥の方に引っ込んでいて、じっとこっちを伺うようにしている。

 ――怖がらせちゃったのかな……?

「はい、こっちこっち! エマさん、ボーっと突っ立ってないでさっさと来てくださいよ!」

 と、事態を察したのかこれには慣れているのか、璃子さんが通路に現れた。

「え、あ、はい……」

 ごめんね、とワンちゃんとネコちゃんに声を掛けながらエマは通路の反対側へと歩いていく。が、全く彼らが心を許してくれる気配はなく、時にはヴーとうなる子もいた。


 ようやくゲージロードを抜け、璃子さんの元へたどり着く。

 エマがいなくなったからなのか、遠くから再びワンちゃんやネコちゃんの声が来た時ほどじゃないけれど聞こえるようになった。それと、スタッフらしい人の声も。

「ごめんなさい、早くに伝えないで。もうちょっと早くに行けばよかったかな……? うるさいですよね、ホントに。私も時々これで色々コミュニケーション通らなくて参りますよ」

 ハハハと璃子さんは笑う。

「こちらこそちゃんと着いていけずに……あの、怖がらせちゃいましたかね……?」

「うん……多分ね。ちょっとビビったと思う。イヌネコはクラシックとか落ち着いた音が好きなの。こういう大声だったらまあちょっとビックリするから……まあ、以後、気をつけるように。私にも責任があるしね」

 冗談らしく璃子さんは言った。

「大丈夫、ちゃんと考えてくれてるのはすごい人だよ。エマさんはあとで絶対心を通じさせることができるはずだから」

 太陽のようなスマイルで璃子さんはパチッとチャーミングなウインクをしてくれた。


 それから少し話しながら奥の部屋へと向かう。

 時々歩いているワンちゃんや暗い表情をしているスタッフさんとすれ違った。

 そして、安物らしいソファが二つ並んだ部屋。何とも狭く、大したインテリアもない。

「はい、ここが応接室です。この方がこのセンターのヌシ」

 ヌシと呼ばれた相手はほうれい線が濃い中年男性だった。

「ヌシって言われるとどうなのかなぁ? 結構スタッフに舐められてる気がするんだけど……」

「気のせいでしょ。さてさてさて。この人が言ってたエマさんです。色々教えてあげてください。こういうのに興味があって色々書いてるらしいんですよ」

「へぇ……そりゃすごいね。色々話さないと。さぁさぁエマさん、何が聞きたいですか?」

 胸を叩く自信満々なおっさん。ヌシということはセンター長なのだろうが、何というか好印象だが貫禄がない。

 というか、そもそも名乗ってもらってないし。

「え……あの、失礼ですがお名前は?」

「僕ですか? すみません、名乗ってませんでしたね。僕はこのおおさか新生アニマルセンターのセンター長で、結城と言います。すみません、名刺は今切らしてて」

「あ、いや、全然大丈夫ですよ……え?」

 結城? 結城ってどこかで聞いたことが無かったっけ? 勇ましそうな名前だなぁと思ったのだが……。

「待って、璃子さん……?」

「そう、そのとーり! この人がさっきの話に出てきたあの結城さん」

「あのって? ……ああ、あれね。そうそう、話があったんですかね? 僕が東京のセンターで働いている時に璃子ちゃんと智花ちゃんに会って。それでそこからしばらく働いた時にね。ちょうど大阪に異動するっていう話があって。それなら時々バイトで来てた璃子ちゃんも大阪で働かない? って僕が誘って。それで大阪に来て、働いて、気づいたらセンター長になってたっていう話なんですよ」

「へぇ……そういうことだったんですね。すごいなぁ」


「まあ、まずはセンターの説明でもしましょうか? どういう仕事をするのとか……」

「そうそう。聞いておいて損はないでしょ。はい、メモ帳よーい!」

 ――メモ帳ないんだけど!

 ひとまず、急場をしのぐべく、エマはスマートフォンを出した。

「ボイスレコーダーで行きますね。ちょっと生憎メモ帳がなくって……」

「あ、はい。じゃあ、どこからお話ししましょうかね……」

「魔術覚醒——魔絆話写」

 ここで、小声でササッと言う。一応、ボイスレコーダーも起動しておいた。

「ええっとですね、まずはこの動物愛護センターの役割を解説しますね」

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