参拾肆・魔絆映写

 ころ、される? どういうこと? なぜ捨てらてしまった可哀想なワンちゃんが殺されることになるわけ?

「どういうことですか?」

「まあ、知っての通りね……殺されちゃうんですよね……」

 いやいや、知らない知らない、そんなの。

「どういう? 殺される?」

「あの、イヌとかネコが殺処分されるときはガス室で窒息死させるんですよ。それか、麻酔薬を注射して安楽死させるか。本当に、とんでもないことですけど……ワンちゃんやネコちゃんがガスの中で息の根を絞められたり、さりげなくされた注射で死んでしまったり……人間を信じてたペットが裏切られてこのありさま。酷くないですか? ホントに。減ってはいても、これが現実なんだって……調べてみたら環境省が動物の殺処分方法に関する文章とか出してて。殺処分禁止するんじゃなく、殺処分方法に関する指針って……こんなんで、人間は大丈夫なんですかね?」

 アンラクシというワードがまた出てくる。調べてみると苦しまずに死なせる方法らしいが、そんな方法があっていいはずがない。苦しむのは当然ダメだけど。

「そんな、完全にイヌやネコと人間の処分方法違うじゃないですか。そんな方法人間は罪を犯した人間にしか使わないし、死んだ人は手厚く葬られる。なのに、犬猫は勝手に捨てられた挙句、良く分かりませんけどそういう都合で裏切られて殺されるって……」

 愕然。言葉を失くし、ただただポカンと口を開けて固まっている私。

「こんな、可愛がられない犬や猫がいるなんて……」

「ハムスターとかフェレットが捨てられてることもある」

「え……」


 酷い酷い画像や映像を見ながら、エマはふっと思いついた。これは、送らなければいけない情報なんじゃないのか?

「魔術覚醒——え、何て言えばいいっけ?」

 小声でリックに訊ねる。

「……?」

 リックは璃子さんが見ていないことを伝えると、ポシェットからヒョコッと出てきて首を傾げた。

「えぇ? なんかないの?」

「……ヴェ! ヴェフヴェフヴェフヴェフヴェフ……」

 耳元にフワーッと飛んできてゴニョゴニョと言いたいことを伝える。

「なるほど。分かった」

 自分のスマホを取り出し、最初っからスライドショーで璃子さんのスマホの画像を流す。

 これを。

「魔術覚醒——魔絆映写」

 で、色々やってドワーフ王国へ転送する。と、やって気づいた。

 ――これって、絆を写してるの? いいのかな?

 ニコラ王太子は来た! と思って見るとショックを受けるだろうか……?


「まあ、取りあえず話を戻しますよ。まあ、その時東京のその施設はガスで殺されてしまう形式だったんですね。それで、私は両親説得してから殺処分の期限まで残り一時間っていう事実に気づいちゃって。それでもう車ガンガン飛ばして施設にダーッて駆け込んで、それで……どうなったと思います?」

 いきなり、前の席から敬語ため口交じり文が飛んできて、慌ててスマホを引っ込め、リックをポシェットの中に戻す。

「まあ、初代の話って言ってたから助け出したんでしょう?」

「そう。まさかまさかだった。私が言って、それは本来もう処分執行するよっていうとこで、この段階で引き取ることは出来なかった。まあ、結城さんの一声のおかげでなんとか引き取り成功ってわけ」

 ウインクして、璃子さんは言う。

「まだあの子は子犬だったから、十二年ちょっとだったかな。ずっと一緒に暮らしてて、懐いてた。仕事行くときもずっと一緒だったよ。まあ、それで命だから死んじゃったんだけど、チョコがいるから本当に何でもできたなぁ。辛いなぁって思うこともチョコの前置かれていた状況を思うとそういう子を救わなきゃって思えるんだよね……」

「キャンキャン! クゥ~ンクゥ~ン! キャン! キャンキャン!」

「そっちのチョコじゃないよ、まったく」

 盛大なツッコミ。けれど、日本語が理解できない二代目のチョコは短い尻尾をブンブン降って運転中の璃子さんの膝元へまっしぐらに飛んでいった。




 ここから見える様々な景色を璃子さんに教わりながら車は進んでいく。

「あれがね、かの有名な大阪のシンボルで……」

 教わりながら、と言っても璃子さんの楽しい解説がだんだん眠気に負けてきた。シンボルでの続きがもう聞こえなくなってきている。

「フアァァッ……眠た……」

 一睡もしてないんだ。当然だ、眠くなって。

「眠たい? エマさん。寝ておいていいですよ。どっちみちあと三十分くらいかかるしね」

「今何分くらい経ちまひた……?」

「一時間くらいかな? 多分それくらいです」

「そうですか……」

「あ、待ってあれ! すごくないですか? あれ」

「あれってどれ……」

「新幹線の車両基地ですよ!」

「ひんかんへん……?」

 自分でも何言っているのか分からないほど、眠さのせいで舌が回らなくなってきた。

 パッと見てみると、確かに真っ白く先頭が長い車両がズラズラと並んでいる。形はどれもほとんど同じだ。

「ま、寝ておいてください。ね?」

「あい、ありがとうございます。すみません、私だけ……」

 こうしている間にも、小刻みに揺れる車と耳が共鳴して、睡魔君が私の脳を支配していく。

「——お前だけだ、愛してるのは」

 ニコラ王太子の声? 気のせいか……。

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