参拾参・魔絆話写

「え……このネコちゃん……」

「これは、私は立ち会ってないんだけど、これから行く人がチラシに使えるか分からんって送ってきた写真。さすがに残酷な現実を見せすぎたらダメかなって思ってタブーにしたけど……」

「そうじゃなくって、璃子さん、このネコちゃんはなんでこんなところに……?」

「このネコちゃんは、同僚の話によると淀川の河原の草原に雨の中、ブルブル震えてたんだって。その子は捨てられたからか極度の人間嫌いになっていて、結局誰にも引き取ってもらえることなく、センターで最期を迎えた子らしいんですけどね……ホントに、許せない、捨てた人間は……! それ、スワイプしたら色んな写真が出てくるから」

「え、まだあるんですか……」

「ある。見たくなかったらいいけど、見てくれた方が危機感持ってくれると思うから……もちろん、強要はしませんけど」

「……」

 見るか見ないか。ここから出てくるのは残酷な現実の写真ばかりなのだろう。正直、そんなの見たくない。でも……。

 ――ここで見ないのは、逃げるのは、すなわち負けじゃないの?


 二枚目は、インスタグラムに投稿されたらしい写真だった。車から犬を突き落としているという写真。誰がこんな酷いものを「嫌いになった。もう会うことはない」なんて文章でイケてる風に投稿するんだ。その後、このワンちゃんは道路を歩いているところを轢かれ、遺体として発見されたそうだ――。

 三枚目。痩せ細った犬がバリバリと風呂場で毛をそられている写真。その次には、赤い皮と血がくっきりと嫌でも視界に飛び込み、目をそむけたくなる写真。

 五枚目。どこなのかは分からないが、外の段ボール箱にバタッと倒れ込んでいる、痩せ細ったネコ。

 さらに、肋骨まで見えるほど痩せ細り、片目が白く濁っている犬や小さな水槽に猫が押し込まれている動画、さらには、フォロワーが少ない自分の愚痴ばかり発信するSNSに投稿された、ミニチュアダックスフンドを踏んだり蹴ったりするという虐待の映像……。


「こんな、もうドワーフ王国ぐらい酷いじゃないですか……」

「は? ドワーフ? ドワーフって何? 王国? 何、夢の国みたいなやつですか?」

「……いや、人間も酷いことするなぁと思って。犬も猫も人形じゃないのに……」

 宝屋さんのセリフを少し引用。

「ホントそれなんですよね。人形じゃないの、犬も猫も。分からないのかなぁ? ったく……。しかも、最近で言ったら狭い檻に犬猫を閉じ込めて、ブリーダーを気取って犬猫を売って儲ける人間もいるわけですよっ? 動物愛護法とか、こんなんじゃ生ぬるいんじゃないかなぁって思うんだけど……」

「動物愛護法?」

「動物を可愛がり、優しくしましょうっていう法律。これがまだ甘いからさりげなく虐待する人間もいるわけ。どうにかならないかなぁ、ねぇチョコ……ホントに」

「クゥン」

 ブルブル、と体を振るチョコちゃん。

「そういや、話すって言って話してなかったね。話した方がいいね?」

「え、あ、はいぃ……?」

「聞きたい? 私とチョコの出会いの話。一匹目と二匹目」

「急にっ」

「どうなの?」

「そりゃあ気になりますけど、めっちゃ璃子さん話したそうですし……」

「バレたか。まあ、それじゃあお話いたしましょう。チョコと璃子の出会いの話。始まりはじまり」

「ヤバっ、魔術覚醒——魔絆転写」

「ヴェフ!」

「あ、違う。魔術覚醒——魔絆話写」

 こういうのは徹底的に収集して、王太子に認められるポイントを稼ぐのだ。

「キャンキャンキャン!」

「うるさーい。どうしたの、チョコ。何か面白いもの見つけた?」

「キャンキャン! キャンキャンキャンキャン……」

「何? エマさんのポシェットに何があるの。人のを漁らないのー」

 え? ポシェット? 確かに、チョコちゃんはエマのポシェットを鼻でつついている。その中にはリックがいるが……。


「ま、いいや。それじゃあお話します。これは私がまだ東京にいたころ。あ、まだセンター遠いから安心して。ええっとね、まず、一匹目の初代チョコは中二の頃だっけ。結城さんっていう東京の施設で働いていた人からビラをもらって。それでワンちゃんの譲渡会に行ったわけ」

 譲渡会?

「それで、まあ友達と一緒に行ったんだけど、その子がちょうど結城さん見つけて。結城さんはちょうど施設に戻るところだったわけだけど、なんでか友達が施設に行ってみたいって言って。それで私も付き合わされたわけなんだけど。まあさ、それで引き取りたいってことになって」

 譲渡会? 施設ってどこ? 何の施設?

 私の頭の中にはたくさんの「?」が飛び交っている。だが、そんなこの世界の人間からすると何で知らないのくらいになることをここで質問するわけにはいかない。明らかに怪しまれる。

 結果、私の頭越しに話は進んでいく。

「けど、まあ当然親が許さないじゃん。だから、色々説得したんだけど……結局、その時私何も知らなかったから、親は納得しなかった。それで、運良くペットショップの人が色々教えてくれて。まあそれでどうにか説得できて、チョコを引き取ろうって話になったわけなんだけど……」

 その時のことを思い出しているのか、クスッと璃子さんは笑った。

「そしたらさ、両親の了承を得られた直後に、チョコが殺されるっていうことを思い出したわけ」

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